ガイエン海上騎士団の活動は多岐にわたる。ラズリルの街の警護、ガイエン沿海の警護はもちろん、依頼があれば商船の護衛もするし、トラブルに巻き込まれれば自ら出兵することもある。ガイエンが海外の国と争いになるときは、真っ先に戦地へも駆けつけなければならない。
その行動範囲は、特に戦争が起こっていない時期でも、ほぼ群島地域の北方全域をカバーするほどに広い。
そして、活動範囲が広いということは、それだけ活動に従事する人間も多く、時間も長いということだ。騎士団の本部に団員が全員戻っていることはまずない。必ず誰かが海に出ており、港では24時間、最低3隻の船が、常に臨戦態勢で非常事態に備えている。
そんな騎士団の生活は、とうぜん厳しい規則と正しいスケジュールによって管理されており、それは海兵学校の訓練生も例外ではない。
いや、卒業後は彼らが正騎士として厳しい生活を送らなければならないのだから、訓練生のうちにたるんだ精神を鍛えなおしておかねばならず、スケジュール管理の厳しさは正騎士以上のものがあった。
午前6時に起床、その後、午後10時の消灯まで、生活は分単位で管理される。自由時間もあるが、時間は固定されていた。
「果たして、これを自由と言っていいのか兄弟」
と、タルなどは冗談めかした。スケジュールの束縛を逃れて、夜の自由をどのように獲得するか訓練生達が苦心惨憺していることは、前に述べている。
他の訓練生達は午前6時起床、朝食などを済ませて朝の集合をかけられるのが午前8時だが、グレン団長の付き人も兼ねているアルノの一日は、彼らよりもさらに早く、長い。
グレン団長は午前4時には起床し、5時にはすでに朝食を済ませる。
幸いにもグレンは常識家だ。その時間に訓練生でもあるアルノを呼びつけることは滅多にないが、まったくないわけでもないので、アルノも自然に彼の生活ペースに合わせて寝起きする癖がついてしまっている。
グレンは、教える立場からはわからない訓練生たちの様子を、アルノからそれとなく聞き出すことも多く、朝の集合までのひと時を、副団長カタリナとアルノとの三人で過ごすことが多い。
つまりアルノは、ほかの訓練生よりも団長と会話する時間が長いわけだが、それを羨ましがられることはあまりなかった。アルノから「譲ろうか?」と言われると、慌てて首を横にふるのが常だった。
アルノは真面目なほうではあるが、それでも生真面目なカタリナを交えてのグレンとの時間に、素晴らしい点だけを感じているわけではない。貴重な時間だとわかっていても、たまには、裁判にかけられた被告人のような気分になることもあった。
他の訓練生達も、グレンに対してアルノが一種の緩衝材(あるいは「いけにえ」)の役割を担ってくれていることを知っているから、自然と彼への態度も、信頼とか慰労とか、そういう方向に落ち着くことが多かった。
裸の同期生を失神させる、という衝撃的な夜が明けて午前7時半。
結局、アルノは一睡もできずに、夜を明かしてしまった。幸いにも、今朝は団長に呼ばれることはなく、他の訓練生とおなじ時間に中庭に集合すればよいので、ある程度はゆっくりできる。
アルノの眠い脳裏には、昨晩のジュエルの痴態が、くっきりとやきついて離れない。彼女の口を抑えた手の感触も、彼女を失神させた膝の感触も、一夜が明けても生々しいほど残っている。
どうにか落ち着こうと思っても、妙に胸がうずいて、なかなか落ち着けるものでもない。無理やりほかの事を考えて考えて、結局夜が明けてしまった。
どれだけ悩みを堂々巡りさせようと、時計の針は無情にも動き続ける。集合5分前を告げる鐘が、周囲に鳴り響き、アルノも仕方なく腰を上げた。
はたして、どんな顔でジュエルに接すればいいのか。結局、アルノの迷いはそこにいきついた。
どんな顔をすればいいのかわからないのなら、顔を合わさなければいい。そう考えもしたが、そんなにうまくいくかどうか。
そしてそういう希望ほど、あっけなくしぼんでしまうものらしい。
集合場所に向かうためにアルノが自室のある塔から出ると、そこに、白い髪のその相手がいた。
ジュエルはアルノを待っていたわけではない。たまたま、同じ時間にその前を通りかかっただけなのだが、「たまたま」というのはえてして、本人にとっては最悪のタイミングで発生する。
「たまたま」同じ時間に中庭に向かっていたアルノとジュエルは、お互いに顔を合わせないことを願いながら、「たまたま」顔を合わせてしまった。
一瞬、二人とも動きが止まってしまう。アルノの目の前で、ジュエルの顔が真っ赤に染まった。
「あ、あ、あの、おおお、おは、おはよ」
ジュエルは真っ赤な顔のまましどろもどろになっているが、アルノも人のことは言えない。
「あ、ああ、お↑は↑よ↓う↑」
と、不自然に音程のはずれた挨拶が口からもれた。
「い、いや、あああ、あの、その」
「だから、な、うん」
二人の間にだけ混乱の魔法がかけられたような有様で、しばらく二人して愉快な動きをしていたが、その時間はすぐに終わった。
副団長のカタリナが、中庭の扉を開けたのだ。
「ほら、団長の挨拶がはじまるわ。入っていないのはあなたたちだけよ、すぐに来なさい」
「は、は、はい!」
まるで枷を解かれた競走馬のようなダッシュで、ジュエルは走り去った。
「ほら、あなたも!」
カタリナにせかされて、アルノもようやく中庭に入った。彼が朝礼への集合で、全訓練生のラストを飾ったのは、これが初めてである。
ある程度、予想していたことではあったが、アルノもジュエルも、今日はまともな授業にはならなかった。剣術のときも操船のときも、訓練中に何度もミスをして、団長から厳しい叱責がとんだ。
アルノは朝の訓練中から、ずっとジュエルの視線が自分に向けられていることに気付いてはいたが、ジュエルのほうにふりむいて笑顔で手をふるような気分にもなれず、だからといって無視を決め込むこともできず、集中力が散漫になったところでミスを重ねる、という繰り返しだった。
「どうしたんだ今日は。おまえらしくなかったな」
それまでに声をかけてきた何人かと同じように、すべての授業が終わったあと、ケネスがアルノの背中を叩いた。
他の、元気が有り余っている訓練生と異なり、ケネスは学者肌の落ち着いた性格で、アルノが訓練戦で船長を務めるときには常に副船長として彼をサポートしている。
アルノにとっても、もっとも話の合う友人の一人だったが、だからといって今日のミスの原因を口外するわけにもいかなかった。
「風邪気味。頭がボーっとしてた」
「そうか、季節の変り目の風邪は長引くことが多いというぞ。俺達にできることがあったら、遠慮せずに言えよ」
深くは追求はせず、もう一回背中を叩いて、ケネスは立ち去った。この場合、ケネスの態度が、アルノにはあり難い。
根掘り葉掘り尋ねられても、答えにくいことに対しては面倒なだけだった。
午後七時。自室に戻り、誰の視線もない部屋に腰を落ろすと、ようやくアルノにも落ち着きが戻ってくる。
それでも動揺の種は取り除いておきたいのか、アルノはぎくしゃくした動きでゆっくりと、昨晩の混乱の元凶の酒樽の蓋を開けた。
そして、しばらく躊躇してから、さっと中身を確認する。
……誰もいなかった。洗濯物は今朝、室外に出しておいたものを担当の訓練生が回収していたので、それもない。昨日のように、「混乱」の二文字が纏めて詰め込まれているようなことはなかった。
ようやく本当に安心して胸をなでおろし、テーブルに腰を落ち着けたところで、ドアがノックされた。
彼は、本当の試練というのは安心の直後にくるのだ、ということを、まだ実感としては知らないが、この瞬間に二年分程度は身体に刻み込んだ。
「はい」
胸のつかえがとれた声で応え、いつものように落ち着いて扉を開ける。
この時間、意外にアルノのもとに来る客は多い。フンギがお茶を持って来て他愛ない話に興じたり、深夜の脱出に失敗した同期生が進退窮まって教官からの隠れ場所を求めてきたり、最初からアルノに相談事を持ち込んできたりする。
だから、この時間に客が来ることに、彼はなんの疑問も持たずに、ドアを開けた。開けて、二秒ほど停止した。
「………………」
褐色の肌と白い髪が、アルノの視界に飛び込んでくる。
ジュエルだった。昨晩は酒樽から全裸で飛び出てきた少女が、今日はちゃんと服を着て、部屋のドアから訪ねてきた。
アルノはしばらく身体の機能を停止させてしまったが、それはジュエルのほうも同じようだ。緊張して、顔を赤く染め、やや俯き気味に視線を下げている。
アルノが知っている普段の快活な姿とは、違うジュエルがそこにいた。
「あ、あの、は、入っていいかな」
さらに5秒ほど硬直したあと、ジュエルが緊張した声で言った。
その緊張度の高さが、アルノを我に返らせた。アルノは部屋から顔を出して、周囲を確認する。
周囲に人の姿はない。無論、ジュエルも人がいないことは確認しているだろうが、こんな緊張した様子の二人を夜に見られたら、少々厄介なことにはなる。
訓練生の間では、訓練や授業内容の変更など、学校行事に関する伝達はなかなか伝わらないのに、同期生のゴシップに関する噂は、なぜか光の速さで知れ渡る。
それを冗談話に「する」立場にはなっても、「される」立場には誰もなりたくはなかった。
「ど、どうぞ」
ふだんなら親しいジュエルに対しては絶対に使わない、緊張したもったいぶった表現で、アルノはジュエルを部屋に招きいれた。
アルノの部屋は、昔は夜間警備にあたる騎士の詰め所として使われていたもので、個人用のもののほかに、数人が着席できる長テーブルと簡易的な椅子が幾つか、そして現在アルノが使っているベッドも、最初から用意されていた。おそらく、例の酒樽も、その頃の名残なのだろう。
その椅子のひとつに、ジュエルは腰を降ろす。アルノは個人用のテーブルとセットになった自分の椅子に座った。
「………………」
「………………」
再度、沈黙が訪れる。部屋に入れた、もしくは訪ねてみたのはいいが、このあとどう話を切り出したものか、そこまで考える余裕は、二人とも持っていなかった。
今日のジュエルはちゃんと服を着ているが、アルノには、どうしても昨晩の裸体が重なって見えてしまう。そんな彼と視線があうと、ジュエルは耳まで真っ赤にして俯いてしまい、沈黙の緊張感だけがあがっていった。
だが、それも永遠に続けてるわけにもいかない。20分ほど経って、先に沈黙を破ったのは、ジュエルだった。
「その……さ、あ、ありがとう」
それはアルノの意表を突く一言だったらしく、彼は「え?」と間の抜けた声を出した。
ジュエルは、アルノの顔を見ずに、ぽつぽつと続ける。
「実はさ、ちょっと怖かったんだ。昨日のこと、誰かに言いふらされてるんじゃないかって」
「………………」
「アルノがそんなことするわけないし、信じてたけど、その、やっぱり今日一日、かなり怖かった。
ありがとう……誰にも言わないでくれて」
アルノの前で頭を下げ、そのままの姿勢で大きく深呼吸をすると、ジュエルは顔を上げた。
表情からはさっきまでの硬さは消えかけていたが、恥ずかしさは消えないのか、顔は赤いままで、アルノとはあまり視線を交わそうとはしない。
「まあ、確かにびっくりはしたけど、人に言うようなことじゃないかな、と思って……」
アルノの言葉も、落ち着いているとはいえない。人に言うようなことでないし、それ以上に言えるようなことでもなかった。
ただ、やはり確認はしておくべきだと思ったのか、アルノははじめてまともにジュエルのほうを見た。
「ひとつ聞いてもいいかな。なんでまた、その、樽の中に……裸で?」
予想はしていたはずの質問だが、ジュエルは事情があって答えにくいのか、単に恥ずかしいのか、しばらく肩を縮こませて沈黙していたが、答えなければいけないことは理解していた。
アルノにしてみれば、部屋に不審人物が隠れていたのと同じだ。今後、自分よりも危険な人物が、同じように隠れていたら、アルノとしてはまともに生活することもできなくなるだろう。
ジュエルはもじもじと両手の指を絡ませながら、消え入るような声で話した。
「実はあたし、その、「匂い」に弱くってさ」
「に、匂い?」
「そう。男の子の汗の匂いとか身体の匂いとか、そういうのに興奮しちゃうみたいなんだ……。
それで、洗濯担当のときに、男の子の服の汗の匂いとか、そういうの嗅いでは、その、オ、オナ……とかしてたんだけど……」
ジュエルにとって話しにくいことなのはわかるが、アルノにしても内容がショッキングすぎて、呆然とするしかない。
「最初は軽い気持ちではじめたんだけど、いつの間にか癖になっちゃって……。
でも、洗濯の係りって、二ヶ月に一回くらいしかまわってこないじゃない?
段々、物足りなくなっちゃって、それでいつも洗濯物があって、人の目につきにくいとこってどこかないかって……」
「それで、この樽の中?」
「………………」
こくりと、ジュエルは真っ赤な顔で頷いた。確かに、この酒樽の中ならいつでもアルノの洗濯物があるし、もともとグレン団長の私室の真下だから、タイミングさえ間違えなければ、他の訓練生が無闇に入ってくる心配もない。
アルノにさえ見つからなければ、他の誰に見つかるリスクも低いということだ。心行くまで、男性の汗の匂いに浸ることはできるわけだが……。
「あ」
あることに気付いて、アルノが声を出した。
「じゃあ、もしかして、昨日が初めてじゃないってこと?」
「う、うん……四、五回ほど……かな」
「五回……」
思わずアルノは額に指を当てる。
(全然気付かなかった……)
もしかしたら、ジュエルが樽の中で快感を謳歌しているとき、自分は何も気付かずに部屋で休んでいたのかもしれない。
独り言の癖がなくてよかった、と、アルノはおかしな感想を抱いたが、ジュエルがじっと自分を見つめているのに気付いて我に返った。
ジュエルは、なにかに怯えるような、だけど心配そうな表情でアルノを見つめている。
唐突に、ジュエルは両手を合わせて頭を下げた。
「ごめん! もうしないからさ、団長に言うのだけはやめて! 何でも言うこと聞くから!」
病気になった両親の回復を願う少女のように必死に、ジュエルは手をすり合わせている。アルノは慌てて言った。
「ああ、そんなことしないよ。理由がない」
まるで迷子の小犬のような顔をしているジュエルにたまらない愛着を感じながら、アルノはできるだけ穏やかな表情をつくった。
「悪いことされたなんて全然思ってないよ。さっきも言ったけど、ちょっとびっくりしただけ」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。オナニーくらい、誰だってするだろうし」
「ほんとにそう思う?」
「うん」
ジュエルは、もしも尻尾がついていたらそれを思い切りふりながらすがり付いてきそうな雰囲気だ。
アルノは、ジュエルを思い切り抱きしめたい衝動を抑えながら、ひとつ頷いた。
「ただ、次は一言かけてくれると嬉しいけど」
ジュエルを安心させるつもりで言ったこの一言が、盛大な自爆に繋がってしまうことを彼が理解するのは、二秒後である。
「次って……。え、声をかけたら、またやってもいいの?」
「……そうきたか」
どうやらジュエルは、やっと見つけた、自分の性癖を安全に満たせるこの場所を手放す、という選択肢を選ぶつもりはないらしい。
それに、目の前のジュエルを見ていると、無碍に追い出すのもかわいそうだし、二人だけの共通の秘密をジュエルと持つのも、それはそれでおもしろいかもしれない、とアルノは思った。
大きくためいきをついて、少し苦笑気味の表情を作った。
「いいよ、わざわざ声をかけなくても、俺にわかるようにしておいてくれれば。二人だけの秘密にしておこう」
「ありがとー♪」
ジュエルの表情が一変した。不安な迷子の小犬が飼い主を見つけたように、歓喜を表情全体で表すと、そのまま立ち上がって、アルノの首筋に抱きついた。
「だから君のこと好きだよ。何でも言うこと聞いてあげる」
ジュエルの
普段から明るいジュエルだが、ここまで
喜んでくれるのは嬉しいが、アルノもとりあえず対処に困り、放っておいたら永遠にこのまま甘えていそうなジュエルを引き剥がした。そして、その唇に指を当てる。
不思議そうな顔をしているジュエルに、アルノがささやく。
「ジュエル、とりあえずまだ、上にグレン団長がいる。大きな声は出さないほうがいい。
それに……」
「それに?」
おでこが触れそうなほど顔を近づけて問うジュエルに、アルノは恥ずかしそうに顔を少し背けた。
「い、一応、俺も男のはしくれだからさ、その、なんでも言うこと聞く、とか、安易に言わないほうが……ちょっと、ジュエル?」
アルノがそういう端から、ジュエルは再び抱きついて、ぎゅーっとその首筋を抱きしめる。戸惑うアルノの耳元でささやいた。
「いいよ、そのつもりで来たから。
秘密にしてくれるだけでありがたいのに、私のこと、理解してくれたんだもん」
グレン団長は綱紀に厳しいうえに、かなりの堅物である。
同期生の部屋に忍び込むだけでも大事件である上に、しかもそれが特殊な性癖を満たすためだったと知れたら、謹慎くらいではすむまい。最悪、騎士団を放逐されてしまう可能性もある。
「それにさ」
ジュエルは満開の笑顔でアルノを見つめた。
「君だったら、そんなにひどいことしないでしょ?
昨日、裸のあたしを押し倒したときに、やろうと思えばもっとめちゃめちゃにできたもんね。
あたしさ、失神させられちゃったけど、あの時の君の顔、ちゃんと見てたよ」
「……どんな顔してた?」
恐る恐る尋ねるアルノに、ジュエルはほんの少し、悪戯心を表情にこめて見せる。
「どうしていいかわからない、って顔してた」
「………………」
少しばつが悪そうに、アルノは手で顔を覆った。あの時、ジュエルよりも自分の方が少しだけ冷静でいたつもりだったが、実はジュエルの方が落ち着いていたのか?
真実は分からないが、こうなると少し悔しいのも確かなので、つとめて落ち着いた声を出してみた。
「でも、今は昨日よりもうちょっと落ち着いてるよ、ジュエル?」
「うん♪」
「落ち着いてはいるけど、興奮もしてるから、昨日よりもひどいことするかもしれないよ?」
「うん♪」
まったく警戒されていない。おかしな表現だが、こうなるとアルノにも意地がある。
そこまで言うならやってやろう、という気分になってきた。
アルノはジュエルの耳元で、わざと意地悪い口調でささやいてみる。
「ジュエル、着ているものを全部脱いで、そこに立って」
「……うん」
いざとなればさすがに少し恥ずかしいのか、返事がくるまでに数秒かかったが、ジュエルは素直に従った。
アルノから離れ、彼の目の前で、着ているものを脱いでいく。衣擦れの音が、予想以上に、二人の興奮を煽った。
シンプルなデザインの白の下着姿になり、そこで一瞬動きが止まったが、ジュエルは脱ぐのを止めなかった。
同期生が見ている前で行う控えめなストリップショーに、全身が真っ赤になってはいるが、動きは止まらない。
アルノの視線が自分に突き刺さっていることは分かるが、それを嫌なことだとは思わなかった。それどころか、普段やらないことをアルノの前でやっていることに、明らかに自分は興奮している。
なにより昨日、一度裸を見られているから、いまさら隠しても仕方ない。隠しても仕方がなく、見せることで自分が興奮できるのなら、見せなければ損というものだろう。
ブラを外すと、押さえつけられていたバストが零れ落ちる。アルノは、昨日の感覚が正しいことを再確認した。
普段はあまりそういうイメージはないが、ジュエルはいわゆる「隠れ巨乳」だ。褐色のバストは、健康そのもののハリを持っている。
ジュエルは、続いてショーツに手をかけ、アルノに見せ付けるように、ゆっくりと片方ずつ足を抜く。
そして、生まれたままの姿になって、ジュエルはアルノの前に立った。
ジュエルの呼吸が荒い。アルノが分かるほどに、ジュエルは興奮している。真っ赤な顔と、とろんとした目で、ジュエルは目の前の同期生を見下ろした。
「……すごい、綺麗だ」
芸術的な洗練とはまったく無縁な感想が、アルノの口からもれた。それは、アルノが言える唯一で、正直な感想だった。
ジュエルの身体には、無駄がない。バストは大きめだが、極端ということはなく、普段から厳しい訓練で身体を鍛えているから、余分な脂肪も無い。そのわりに目だって筋肉質というわけでもない。
出るべきところは適度に出て、引っ込むべきところは適度に引っ込んでいる。
ジュエルの秘所がわずかに湿り気を帯びているのに、アルノも気付いている。頭髪と同じ色の、控えめな白い恥毛が、荒い呼吸と身体の震えに合わせるかのように揺れている。
自分の裸体を上から下まで執拗に視姦するアルノの視線は、ジュエルの興奮をさらに煽った。自然と手が胸にいき、自分の乳房を弱々しく掴んだ。
アルノの目の前で、ジュエルの秘所から、一条の愛液がふとももをつたって零れ落ちた。
(2011/11/11)
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