序章

 ラズリル。群島地方のほぼ西端に位置する小さな島にある港町だ。
 西の大国ガイエン公国の海の玄関口として、小さいながらもそれなりの繁栄を遂げている。
 群島の海は、天候の意味でも治安の意味でも、決して穏やかではない。多くの海賊グループが横行し、多くの商船、観光船が襲撃の被害にあい、海の藻屑と消えている。
 ラズリルは、そうした海の脅威からガイエン本国を守るために、ガイエン唯一の海上騎士団と、その騎士を養成するための海兵学校が設置されている。

 太陽暦306年、そのラズリル海兵学校に、アルノという少年がいた。
 毎日の厳しい訓練のかたわら、副騎士団長カタリナとともに、グレン・コット団長の付き人のようなことをやっている。
 そのためか、他の訓練生が騎士団の寮にて生活をしている中、アルノだけは、騎士団の本部のある塔の、騎士団長の私室の階下、真下の個室を与えられている。
 特権というには生活は堅苦しく、あまり羨ましがられる立場でもない。どちらかといえば、同情されることの方が多かった。
 アルノがグレン団長から信頼されているのには、それなりの理由があるのだが、それをいま語ってもしかたがない。より重要なのは、彼がよく、同期の訓練生の相談事や愚痴に付き合わされることだった。

 そして、306年4月、深夜に彼の部屋を訪れた同期の少女が、彼の人生を変えることになった。


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