時は晩夏の季節。
炎の英雄の居城ヒュッテビュッケ城。
忍び寄る戦争の影や、暗躍する闇の英雄の動向に着目し、緊張に包まれながらも、城の住人達はそれぞれの生活を謳歌しているようにも見える。
なにせここは、近年この近辺の土地では例が見当たらぬほど、多くのクランや外の国からの移住者・協力者を積極的に受け入れ、ビネ・デル・ゼクセのような大都市とはまた違った意味での活気に溢れていた。
その多くは、炎の英雄の名を聞き、すでに伝説と化した過去の活躍を思い起こし、伝説に包まれた名を慕って、この城に集まるのである。
そして、炎の英雄を名乗る十代の若者の姿を見、半数は未来に期待を、半数は現在に不安を抱きながらも、この城の活気を形成する一分子として、そして百八の英雄譚を象る音玉の一節として、この土地に溶け込んでいくのであった。
太陽が水平線の向こうに姿を消し、そろそろ月が天頂に到達する時刻。
このヒュッテビュッケ城外見上の最大の特徴であり、取り除かれるどころか最大限に利用されてすらいる、海に面した城郭に突き刺さった巨大帆船である。
この城に住まう三人の英雄のうち、二人の居室があるのもここなのだが、天井の破れた船室には、百八星が一人【地劣星】ゴロウの手により、豪華な風呂が設けられている。
それは、戦いや日々の生活に疲れた他の百八星たちの、最高の憩いの場となっていた。
今、大きなその風呂には、二人の少女が、そのしどけない身を湯に沈めている。
人目には姉妹にしか見えないであろうその二人は、美しい黒髪を花の如く湯に広げ、白い肌が月光に反射して、もし見る者あれば思わずのため息を誘うであろう美しさである。
一人は十代半ば、いま一人は十歳にもならぬであろう。
二人の少女は、双方共に【ビッキー】という名を持つ。
年上のほうが【地
この二人は、それぞれの能力により、この城内でも一際重要な役割を担っている。
年上のほう、【地撻星】ビッキーは、恐らくは生まれもった紋章と能力により、空間どころか時間の概念をも捻じ曲げ、本人とその身に触れるものを、好きな場所に
無論、ビッキー本人が行ったことのある土地のみ、という制限つきではあり、また能力自体の制御が完璧ではないと言う危険は付きまとうが、少数での戦いを余儀なくされている英雄達が、各地でゲリラ戦を有利に展開していくに、彼女の能力は不可欠なものであった。
例えそれが、【地撻星】ビッキーの心身を、確実に摩滅させていっているとしても。
そして幼いほう、【地速星】ビッキーは、その幼い外見とは裏腹に、知識・識見・判断力、ともに一般的な 大の大人を軽く凌駕した。
子供も多いこの城の住人の中で、十歳にもならぬ(ように見える)身でありながら、政権の重要な会議に出席を許される唯一の人物であり、三人の英雄を助けるべくその周囲を固めるブレーンの一人なのである。
彼女が、その特徴である古式ばった口調で物事を説明する時、それは多大な説得力を伴って、出席者の心身に入り込むのであった。
この二人が、なぜ同じ容姿をし、同じ衣装を身に纏い、どういう経緯を持ってここにいるのか、多くの人が多大な興味を抱いてはいたが、それを無思慮に二人に投げかけることは無かったのである。
「ふぅ……」
幼ビッキーの口からため息が漏れる。
彼女は、今日も軍師シーザーやアップル、騎士団員たちと、今後の戦いや訓練についての綿密な打ち合わせに参加し、その頭脳と知識をフル回転させていた。
「刺激が無い毎日を刺激無く過ごすのも愚かなことではあるが……、こうも毎日、微妙な刺激が続くのも、けっこう疲れるものじゃのう……」
肩から湯をかけながら、再びため息交じりの言葉を吐き出す。
この独特の口調は、彼女のクセのようなもので、彼女に接する人間は、まずこの言葉で彼女を覚えるのである。
話しかけられたほうのビッキーは、ぶくぶくと鼻の下まですっぽり湯に沈み、何かを考えているようであった。
「……どうした。なにか、失敗でもしたのか?」
「え? いや、そういうわけじゃ〜ないんだけどね〜」
こちらも、独特の間延びした口調で、ぼそっと吐き出すようにビッキーは呟いた。
「どうした、このところ大掛かりな転移は無いそうだが、それにしては疲労しているようではないか」
「うーん……、肉体的な疲れって言うか……。
ちょっと騒ぎがあってね。
あたしが原因なのかな〜って」
「……なにがあったのだ?」
いぶかしむ様に、幼ビッキーが問うた。
二人のビッキーにとって、一方の悩みは一方だけのものではないのである。
それはコインの裏表のようなものであり、切ろうとしても切り離せぬものだった。
「今日さ……、ギョームさんに『可愛い女の子がいっぱいいるところに飛ばしてくれ』なんて頼まれて〜。
で、このへんだとやっぱりあそこかなって思って、ビネ・デル・ゼクセに飛ばしたの」
「それで?」
「どうも、旅館の、女性従業員の更衣室に落っこちたらしくって、なんかぱんちとかきっくとか、いっぱい食らって帰ってきたみたい。
それで、ボソッと文句言われたんだけど、他のみんなは褒めてくれたんだよ。
なにがなんだか、よくわからくって」
なるほど、と、幼ビッキーは自分の心内で呟いた。
ギョーム、というのは、ヒュッテビュッケ城下町で鑑定屋を営む男のことだ。
曲りなりにも百八星の一人でありながら、幼女趣味と言う、あまり褒められない特殊な性質を持っており、仕事場の近いジーンやホルテスZ世などは、大小の差はあれ彼の退場を願っているような節も伺えた。
『ふん、あのような男は、1トンほど重りを付けて海底にテレポートさせるか、蟲のエサをたっぷり体中に塗りつけてルビークにでも飛ばしてやればよいのだ……』
と、自分も
ただ、「よくやった。いや、本当によくやった」とビッキーに声をかけ、ビッキーをぽかんとさせただけであった。
「それにしても、気持ちいい〜」
「そうじゃな。こんな
両手を目いっぱい伸ばして背伸びをするビッキーに、幼ビッキーも満足げな笑みを返し……。
次の瞬間、ぎょっと顔を強張らせた。
なにやら、背伸びをしたまま、ビッキーが顔をしかめているのである。
「お、おい、どうした?」
「ふ……ふ……ふぇ……」
「なぁ!」
幼ビッキーは、思わず立ち上がり、水を掻き分けて数歩後ずさる。
そう、ビッキーはくしゃみをしかけているのである。
それを完全に制御し切れていないビッキーのテレポート能力が、くしゃみ一つで暴発することがあり、それがどのような結果を招来するか、幼ビッキーは、それこそ本人の如く
「ふ……ふぇっ、ふぇっ……」
「が、我慢だ!! くしゃみするでないぞ!!!!!」
「ふぇっ……ふぇっ……ふぇっ……ふぇっっっ……!!」
「駄目じゃ!!!! 我慢するのじゃ!!!!」
幼ビッキーの、それこそ全身全霊を傾けた応援が届いたのか、ビッキーのくしゃみは寸前で引っ込んだようであった。
思わず立ち上がっていた幼ビッキーは、胸を撫で下ろすのと腰を落とすのを同時にやってのけ、とぷんとその小さな身体を再び湯船に沈めた。
ビッキーは、たまに状況を理解していない言動で周囲を翻弄することはあるが、根は素直な女の子である。
それに普段から頑張っていることもあり、城の皆からも可愛がられていた。
だが、彼女の持つ性格と能力は、本当の意味での諸刃の剣でもあった。
ごくたまに転移を失敗させ、ちょっと天然の入った言動で応対されると、対面者はどのように嗜めたものか、考えあぐねるのである。
……結局は、屈強な男たちからも苦笑交じりではあるが許してもらえるのは、彼女の人徳と言うものであろうけれども。
「さて、私はそろそろあがろうかの」
言いながら、幼ビッキーは立ち上がる。
「あれ、もうあがっちゃうの?」
「ああ、私の幼い身体には、長湯は禁物じゃしな。
おぬしも、湯にあたったり湯冷めせぬうちに、上がった方がよいぞ」
……巻き込まれてはかなわぬ。
という本心をぐっと体内に押しとどめ、幼ビッキーは持ち込んだアヒルちゃんセットを自分のたらいにしまいこみ、そそくさと湯船のふちを跨ぐ。
「そだね、じゃ、あたしも上がる〜♪」
何が楽しいのかは不明だが、さも楽しそうにビッキーも立ち上がると、幼ビッキーの手を掴む。
「む、どうした?」
「どうもしないよ。一緒にあがろうかと思って」
「さようか。では……」
幼ビッキーが、くすりと微笑んで、なにか言葉を続けようとしたとき。
彼女が最も恐れていた事態は、誰も予想することなく瞬時に訪れた。
「……ふえっくしょん!」
幼ビッキーの手を掴んだまま、ビッキーがくしゃみをした瞬間。
ゆらゆらと揺れ動く水面と、それを見下ろす月光。
そして、吹き抜ける生暖かい晩夏の風を残して。
二人の姿は、跡形も無く消え去っていた。
炎の英雄、シオン。
彼の【遺志】を継ぎ、彼の【名】を継がなかったことの意味を、ヒューゴは幾度も自分に問いかけた。
「俺は俺だから」
と、彼は周囲には言う。
それは間違いではない。
彼は【ヒューゴ】と言う名を持つ、カラヤ・クラン出身の一人の青年であり、炎の英雄シオンの子でも、その生まれ変わりでもないのだから。
だが、炎の英雄の名は、彼の想像を超えて、様々なものを惹き付けつつある。
彼の親友を殺した女性。
どこの出身とも知れぬ傭兵の長。
この二人は、あれよあれよという間に彼と同じく【真なる紋章】を継ぐ者として祭り上げられた。
彼らだけではない。
多くのクランから多くの者が、彼の名を慕い、ぞくぞくと集まってくる。
ヒューゴは、複雑だった。
彼らは、ヒューゴと言う人間を慕って集まってくるのではない。
【炎の英雄】という名前を慕って集まってくるのだ。
その名前が如何に大きな意味を持っているか、彼は理解している。
少なくとも、理解しているつもりでいる。
だが、彼らがヒューゴのことを【炎の英雄】と呼ぶたびに、彼は疑問と、奇妙な心苦しさを感じていた。
誰もが、彼を【炎の英雄】と呼んだ。
誰も、彼を【ヒューゴ】と呼ばなかった。
『今は重要な時期だ。思うところは色々あるだろうが、耐えてくれ』
彼のブレーンであるシーザーは、そう言った。
解っている。
言われなくたって、そんなことは解っているのだ。
だが、解っているだけに、
『シオンじゃなきゃダメなのか。俺じゃ、ダメなのかよ』
若さに任せた自負心もあったろう。
ヒューゴは、毎日を忙しく動き回りながら、無駄で理不尽であると知りつつも、心の
それを出来るだけ抑えるために、ヒューゴは一層、英雄としての自分の仕事をこなした。
皮肉な近視眼者ならば、この幼い
だが、ヒューゴは何かをしないと押しつぶされそうだったのだ。
そして、そのことが逆に彼の評価を高めていることについては、ヒューゴは一言も言及しなかった。
太陽が水平線の向こうに姿を消し、そろそろ月が天頂に到達する時刻。
今日も、ヒューゴは忙しかった。
其々の分野で専門家がサポートしてくれているとはいえ、今まで彼が知りもしなかった仕事ばかりなのだ。
要領よく立ち回ることなどできるはずも無い。
頑張ってはいる。
が、色々と迂遠なこともやりながら、
「あ〜〜〜〜……」
声を上げながら、ヒューゴはバタンと自分のベッドに倒れこむ。
同じ年頃の男性と比べて、さして大きいともいえぬ体格はヒューゴの悩みの種だったのだが、最近はそんなことを思い起こす暇もない。
英雄の仕事は、政務と軍務を司るだけではない。
偉そうにそんなことをのたまいながら、ヒューゴを深夜の酒場に着き合せたのは、傭兵団のエースだが、そんな大人に英雄について講釈を垂れる資格があるのかと思いつつも、押しの弱さと英雄たらんとする彼の気概ゆえ、断りきれないヒューゴだった。
毎日がこの調子である。
『英雄と言えば聞こえはいいが、裏を返せば、
ぼそりとつぶやいたゲドの言葉を、ヒューゴは疲労と一緒に噛み締めていた。
誰からも頼りにされる人間。
誰のためにも働く人間。
これが何でも屋でなくて、なんと言うのか。
ヒューゴは、自分がシオンの遺志を継いだことの理由を忘れることは無い。
だが、そのことについて疑問を感じることがある。
何度自戒しても、疲労した心から、皮肉な感情が首を
『そういう時は、寝るに限る』
その理由がなんのかは解っているのだから、解決策も自ずと解るというものだ。
身体と心と双方を休めるために、ヒューゴはいそいそと服を脱ぎ捨てると、ベッドにもぐりこんだ。
水浴びは、明日早く起きてすればいい。
幸い、明日は予定された公務は無い。
突発的な事変があれば致し方ないが、まずはゆっくり休めるだろう。
そう思いつつ、決して上質ではないけれども、手がけた人の体温が感じられるような掛け布団を自分の胸までかけ、ヒューゴは目を閉じた。
彼が、妙な違和感を感じたのは、三十分ほど経ってからである。
……妙に暑いのだ。
確かに、まだ夏の気配が残る季節ではある。
しかし、暑さを凌ぐための配慮は、城主のトーマスをはじめ、色々と気を使ってくれているから、気になるほどそれを感じることは無いはずである。
……にも関わらず、暑い。
それも、じめじめとした湿気と、なおかつ、人の気配のようなものを伴った暑さだった。
「う〜〜ん……?」
意識が半ば夢の世界から蹴り出され、それでも灯を灯すのも億劫で、ヒューゴはもぞもぞとベッドの中で寝返りをうつ。
そのとき、彼の身体が、何かに触れた。
いや、触れたと言うよりは、何かにのしかかった、と言う方が正確だろう。
決して硬いものではない。
どちらかと言えば、人の肌のような感触。
そして、何故か濡れているようである。
「う〜〜ん……??」
ヒューゴが、七割がた夢から覚め、声を出した時。
「う〜〜ん……」
彼の下から、別の声がした。
「う?」
流石に驚いて、ヒューゴはゆっくりと目を開けた。
そして、彼の目に飛び込んできたものは。
……裸の女性だった。
それも一人ではない。
長く美しい黒髪と、白く透き通るような肌を持つ、少女と幼女が。
彼の下と、その隣で、眠っていたのである。
「!?」
ヒューゴは混乱している。
これまでの人生に経験が無いくらい、思いっきり混乱している。
目は醒めたものの、頭の中で意識も思考もが混濁している。
それでも、視線はしっかりとその女性−ビッキー−の、美しい肢体に固定されているのだから、若さと言うのも現金なものだ。
いやいやいや、そんなことはどうでもいい。
どうでもよくは無いが、ムリヤリどうでもいいことにする。
ヒューゴは一回頭を振り、どうにかまっとうな思考を取り戻そうと努力する。
さて、そのためには何をすればいい?
そう、まずは現状の確認である。
ヒューゴは寝ていた。
ここまではいい。
だが、いつの間にか、彼の両隣には、裸の女性が寝ていた。
それも二人も。
ワケが解らないが、努力したところでワケが解る筈もない。
だが、一つの事実として、二人の女性は裸体であり、かくいうヒューゴは上半身ハダカである。
まずい、まずい、まずい。
何がまずいのか解らないが、兎に角、この状況は最悪に、究極的にまずい。
ヒューゴは、理性ではなく本能で察知している。
【炎の英雄】が、年端もいかぬ女性を二人もベッドに連れ込んだ。
事実はそうでないにしても、誰が見てもそう理解されるだろう。
この状況を誰かに見られでもしたら、それこそ最悪の事態の発生である。
自分が英雄の名を取り上げられるだけならまだしも、どこかの国家とこの城との間で摩擦でもあれば、いっそとばかりに人身御供にされるかもしれない。
クリスやシーザーなら、やりかねない。
思いっきり失礼なことを考えながらも、ヒューゴはなんとかこの事態を打開するために、頭をフル回転させる。
だが悲しいかな、ヒューゴは酒に対してそうであるように、女性に対しても免疫が全く無い。
冷静に、できるだけ冷静に頭をフル回転させていたのに。
「う〜〜〜ん……」
ビッキーが寝返りをうち、その肢体の前面がヒューゴの視界に飛び込んできた瞬間。
彼の思考はショートした。
「ひいあああッ!!!!!!!」
恐らく、歴代の【炎の英雄】の中でも、最大の音量で素っ頓狂な悲鳴を響かせて。
ヒューゴはベッドを飛び出し、部屋の反対側の壁までスッ飛んだのである。
『だああ、見ちゃった、見てしまった! どうする? どうする!?』
もうヒューゴは混乱の極みである。
壁と背中を張り付かせたまま、がくがくと足を震わせ、どうすることも出来ずに、ただ狼狽するだけだ。
だが、彼には更なる試練が待ち構えていた。
【最悪の運命】とやらが悪魔に羽でも与えられて、彼を見下ろしながら笑っているようだった。
ヒューゴが悲鳴を上げてから三分も経たないうちに、部屋の外の廊下から、ずどどどどど、という物凄い足音が聞こえてきたのである。
無論、まずいとは解っていても、ヒューゴの身体は動かない。
どうすると自問しても答えが出るはずも無い。
そうして、【最悪の運命】は、恐らくは最高の笑顔で、部屋の扉を乱暴に開けた。
入ってきたのは、ゼクセンの騎士団長にして【真の水の紋章】の継承者、クリス・ライトフェローである。
全力で走ってきたのであろう、肩で息をするほど呼吸を乱し、格好は夜着のまま、髪も普段のように上げることもしていない。
本当に、ヒューゴの悲鳴を聞きつけ、自分のベッドから起きざま、とりあえず脇に置いてあった愛用の剣を持って、裸足で駆けつけた。
そんな風体であった。
そのクリスは、思いっきり乱暴に扉を開け、叫ぶ。
「なにがあった、ヒュー……」
言いかけて、クリスの言葉と身体がぴたと止まった。
彼女の視界に、予想もしていなかった世界が飛び込んでいた。
「ヒュー」の後につくはずだった「ゴ!」と言う言葉が、そのままショックの効果音として彼女の頭の中で飛び回っていた。
太陽が水平線の向こうに姿を消し、そろそろ月が天頂に到達する時刻。
彼女が全力を賭して護るべき【炎の英雄】の部屋にいたのは、全裸で寝そべる二人の少女と、それを品定めでもするようにハダカで見下ろす(ように彼女には見えた)、【炎の英雄】。
「ふ、ふふふふふふ、ふはははは……」
クリスの表情が、危機感に満ちたものから【呆然】を経て、乾いた笑いに変わっていた。
口の端の筋肉だけで笑っている。
そんな笑いだ。
この瞬間、ヒューゴは、クリスが壊れたことを本能で悟った。
同時に、自分が明日の太陽を五体満足で拝める可能性が極めて低いと言う事実も、強制的に悟らされたのである。
そして、次の瞬間。
世に名高い【白銀の乙女】は、文字通り風をまいて、羅刹と化した。
(To be continude ...)
■進む
いやぁ、書こう書こうと思いつつ、一回書いては見たものの、間違ってファイルを消去してしまっていた作品です。
「幻想水滸伝V」を初めて書いてみたわけですが、初めてのネタがこれです。
いいのかよ(笑)。
アイデアの最初は、ビッキーと小ビッキーの風呂イベント。あの後、二人がどこに飛んだのか、ということを考えて、こういうのが出来上がりました。
では、続きは後編、ということで。
……しかし、私の文章って、無駄が多いなぁ……。
(初:05.08.01)
(改:05.12.10)