侍道3

2009年2月26日発売/スパイク/49点

 さて、サムライです。我々、現代の日本人男性と、サムライの時代の間に挟まる時間は、わずか百数十年。
 それだけの時間しか挟んでいないのに、我々にとってサムライという存在は、一種の、そして最も強烈で魅力的なセンス・オブ・ワンダーです。
 司馬遼太郎の大著「竜馬がゆく!」の中に登場する土佐や薩摩、長州の維新志士の生活や文化、海援隊や新撰組の活躍は、まるで時代が違うだけでなく、国や人種まで違うのではないかと思えるほどの衝撃と面白さがあります。
 既に使い古された言い方ですが、「竜馬がゆく!」に登場するサムライたちは、現代の日本人が持っていない要素を強烈な個性に昇華しているからこそ、それだけ魅力的に映るのでしょう(小説なんで、大部分はフィクションだろうけど)。
 彼らはまず、死を恐れません。厭いもしません。若くして死んだ土佐の俊英、間崎哲馬の絶命詩、
「請ふ君よ 狂風陰雨の夜 飄々として魂魄長く天を巡らん」
 の文からも分かるとおり、強烈な(あるいは愚かな)意地が、彼らを大地に直立させていたのでしょう。

 さて、そんなセンス・オブ・ワンダーの塊であるサムライですが、意外に素直にゲームになる機会は少ないです。
 サムライという存在にスポットライトを当てた先駆的なゲームと言えば、格闘ゲーム「サムライスピリッツ」でしょうが、あれも本物のサムライといえる存在は、後にも先にも柳生十兵衛くらいで、あとは忍者だのマヤの戦士だの、ちっともサムライではありませんでした。
 その後も印象に残っているのは、PSの「ブシドーブレード」とか、そのあとを受け継いだ「剣豪」とか、ひょっとして、私は無意識のうちにまともなサムライゲームを避けているのでしょうか?

 そして本作「侍道3」。
 本作は、そんな意識か無意識か、まともなサムライゲームを避けてきた私を優しく出迎えてくれるように、ユーザーフレンドリーに徹しようとした心意気が伝わってきます。
 抜刀、納刀、道具を使う、武器を換える、峰打ち、これ以外にも諸々のことが、ボタン一つで可能。
 最近のアクションやスポーツゲームにありがちな、「全部のボタンを使いこなさないと死あるのみ!! というかそんな鈍いヤツは死ね!!」みたいなことはなく、アクションが苦手なユーザーにも目を向けた姿勢は良し。
 また、前作まであった日数制限がなくなり、あまり時間を気にせずに、このシリーズ特有の馬鹿々々しいイベントが楽しめるようになりました。
 誰彼かまわず殺すことができるのですが、それを含めた自分の行動によって周囲の反応がガラリと変わります。向こうから話しかけてくれることもありますし、話しかけたら蹴られてしまうこともあります。
 いきなり相手に土下座をして、起こったイベントを無かったことにできるとか、なかなかはっちゃけたこともでき、ゲーム中の人間にちょっかいだしたり、それを観察したり、といった要素が凄く楽しいです。

 自分を自由自在に飾ることができるのも大きな要素。
 ありとあらゆる無茶ができるのですが、自らパペットズゥ・ピロミィ顔負けのクリーチャーと化して街中を練り歩くことも可能です。
 当代一の傾奇者と呼ばれた前田慶次でも、腕四本とかまでは出来なかったろう。

 全体的にロードが短い、表示される文字も大きい、移動が早い、自分で眠る時間を指定できる、いきなり起こるイベントがグッと減った、など、ゲームをじっくりと楽しむための要素は一通り詰め込んであり、メーカー側の誠意は疑う余地はありません。

 ただし、そのユーザーフレンドリー精神が裏目に出ちゃってることもあります。
 前述の「ボタン一発」というのも良し悪しで、話しかけようとして隣の区画に移動してしまうなど、本当にやりたい行動とは違う行動になってしまうこともしばしば。
 また、小さな予感(イベント)をこなしてストーリーを進めるのですが、あるイベントを終えると別の予感が消えてしまう、ということがままあり、途中から別のエンディングを目指すのが厳しい仕様です。
 渡世イベントは無駄に長い、伴侶を置くことに大した意味が無い、など、惜しい要素もチラホラ。
 戦闘でも、Rトリガーの自由移動に妙な慣性が効いて制御が難しいとか、連殺したいのに標的が勝手に変わって倒したい敵が倒せないとか、味方が何人いても明らかに敵は自分しか狙ってこないとか、細かな不満点が微妙にストレスになります。
 重さ3の武器なんて、誰が使うんですか?

 世界観は良く、一町人がすごく粋なことを言ったりとか、魅力は十分にあります。
 とにかく小さなことが楽しいゲームですが、小さなストレスが積もって嫌になることも。
 ユーザーフレンドリーが行き届いているわりに作りは雑で、グラフィックの貧弱さも合わせて、良くも悪くも「侍道」です。
 大声でお勧めすることはできませんが、「侍道」のファンならば。
 あと、スリはいらん。

(2009.09.10)