プリズマティカリゼーション

2000年8月24日発売/アークシステムワークス/17点

「ギルティギア」で御馴染みのアークシステムワークスが放つ、かなり強烈な恋愛アドベンチャー。
 とにかく、何から何まで斬新すぎて、ついていけなかったプレイヤーが続出した、伝説のゲームです。

 ドリームキャストに移植される前にプレイステーションで出たのが最初ですが、当初から、森藤卓也(現・射尾卓弥)氏が担当した本作のキャラクターデザインが「センチメンタルグラフィティ」の甲斐智久氏に激似だったことで、「ニセンチ(偽センチメンタルグラフィティという、あまりあり難くない通称を頂戴していました。
 正確に言えば、どっかで見たようなヒロインを甲斐智久氏の画風で描き直したらこうなるかな?といった感じです。元が元だから絵は上手いし、ヒロインたちも親近感はあります。色んなところで見慣れてるから。

「サークレイトアドベンチャー」という、よくわからないジャンル名を持つ本作ですが、その最大の特徴は二つ。
 アドベンチャーなのに「選択肢」がないことと、とにかく、ひたすら主人公がウザイこと。

「選択肢がない」のは、わざとそうしたようで、「サークレイト(循環)」の名の通り、同じ一日をひたすら繰り返しながら、僅かな違いを拾い集めて、徐々に徐々にエンディングに近づいていくという趣旨のゲーム。
 昔、TYPE-MOONが出した人気ゲームに「歌月十夜」というのがありますが、システム的にはアレが近いです。かなり乱暴ですが、「プリズマティカリゼーション」の発展系が「歌月十夜」であると、言えなくもありません。
 だから、基本的に「繰り返しプレイ」が大前提なんですが、問題なのは、その「繰り返し」の回数が半端じゃないということ。
 同じ一日を100回繰り返そうが、200回繰り返そうが、運が悪いとヒロインを一人も攻略できません。

 正直これ、説明するのが少々難しいシステム。前述の通り、「選択肢」というものが存在しないため、基本的にやることは、ストーリーを読むことだけ。

 以降、約30分間にわたり、読むだけの進行になります。ご了承ください。

 初っ端のシステムメッセージがいきなりこれです。
 そうして何回か読んでいると、ストーリーの途中で、以前には無かったわずかな「変化」が現れることがあります。プレイヤーは、この「変化(状態)」を「記録」しておくことができ、次のプレイでその「記録」が、ある場所で自動的に「解放」され、そこからストーリーが変化していきます。
 つまり、この「記録」と「解放」を、何度も何度も、永遠に回り続けるメリーゴーランドのように続けながら、物語を「変えて」いくわけです。

 システムとしては面白いと思うんですが、このシステムの最大の問題点は、「記録」した「状態」を、どこで「解放」するかの自由が、プレイヤーには一切無いこと。「歌月十夜」では選択肢によって変化する「一日」を何度も繰り返すのですが、このゲームにはそんな自由度が全くありません。
 つまり、せっかく「記録」した「状態」が、どこでどんな風にストーリーに関わっているのかよく解りません。なのに、計画的に「状態」を記録し、計画的に解放「させる」ことが要求されるため、「恋愛シミュレーション」というより、「パズル」をやってるような気分になります。
 また、保持できる「状態」の数が五個と少なく、それ以上「記録」すると、古い「状態」から勝手に消去してくれるという極悪仕様のため、おちおち記録もできません。

 更に、これが一番の問題でもあるんですが、クリアに必要な、重要な「状態」の出現が、なんとランダム!
 午後から雨が降るという「状態」が、多くの重要イベントに関わっているみたいなのですが、運が悪いと、何十回プレイしても、雨の「あ」の字も、一滴も降ってきやがりません。おかげで同じ一日を、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返すことになります。

 どこかで「ヌー」の「ヌー」が「アメイラネー、アメイラネー」と、儀式でもしてるんでしょうか。
 わからない? 申し訳ない。

 まぁ、雨が降ろうが降るまいが、基本的には読み飛ばすから問題ないんだけどね。
 このゲーム、システム的に唯一の救いは、メッセージスキップが異様に速いこと。
 最近の恋愛シミュレーションというと、一人のヒロインを攻略するまでに、10時間とか20時間とか膨大な時間がかかりますが、その点では、本作「プリズマティカリゼーション」は非常に親切です。
 メッセージを全部スキップすると、一回のプレイが一分かかりません。10時間から20時間かけると、それこそ500回とか1000回とかプレイが可能です。
 それだけやっても、二人くらいエンディングを見られればいいほう、というのは、明らかに何か間違ってる気もしますが、いちいち肩肘張らなくてすむので、そのぶん気は楽です。

 さて、システムの不幸が伝わったところで(?)、本作もう一つの不幸をご紹介します。
 主人公・荘司の、異常なほどの理屈っぽさと、長い長い長い長い負のモノローグ。
 この「荘司」、ヒロインたちとまともに、爽やかな会話をする能力が殆どありません。なにか話題を振られたときも、素直に「はい」とか「そうだよなあ」とか適当に相づちが打てれば、それなりに会話にはなるんですが、

明美  「集中すると、時間がたつのが早いね」
荘司  「早く過ぎるのは、むしろ時間を無駄に消費しているともいえるが」

 最初ッから最後までこんな感じ。何気ない話題に、いちいち哲学的だか文学的だか、とにかくムカつく表現で理屈をこねずにはおれない男なんです。友達いないだろ、コイツ。
 口に出る分でこうだから、頭の中で再生されるモノローグは、もう物凄いことになります。

 グーで負けるというのは、保守的なために敗北したような、苦い後味が残るものだ。
 しかし勝利したとしてもだ、いい年をした高校生の男が、連れの女子に、自分の荷物を持たせてご満悦……などということがありえるだろうか?
 いや、あるまい。その時は、いやヤッパ俺が持つよ、などと言いつつ、彼女のぶんまで担ぐのが男というものだろう。
 一応、今時の女子高生である柊が、その程度の打算を働かさないとは考えられない……。
 これは、仕組まれたワナだったのだ。

 ジャンケンに負けただけで、あれよあれよという間に陰謀論にまで到達。
 凄いぜ荘司! 彼は将来、文筆家として、「私は○○から迫害されている!」○○には宇宙人とかユダヤとか米軍とかが入ったりする)という被害妄想的な陰謀論をブチ上げ、ごく一部の読者にカルト的な人気を得ることでしょう。
「と学会」とか。

 まあ、考える分には自由なんですが、ヒロインにしろプレイヤーにしろ、こんな男に付き合わされるほうはたまったもんじゃありません。
 最初のほうこそ、あまりにも大げさなその言動に、健康的に笑ったり、不健康的に笑ったりしながら聞き流していきますが、こういうのを何度も何度も聞かされると、さすがに胃がもたれます。
 この主人公の言動に嫌気がさしてやめた人も多いんじゃないでしょうか。

(ちなみに、本作はシナリオもシステムも同じ人が作ってます。つまり、めんどくさい人が作ったら、めんどくさいものになった、という分かり安いパターンです)

「お兄ちゃん、また痛いことしてください……」
 などの衝撃的なセリフもあり、意欲的野心的であることは充分に伝わるんですが、それがあまりに逝きすぎた本作。
 ヒン曲がったシステムと、ヒン曲がった主人公と、ヒン曲がったシナリオについていけて、なおかつ理系で我慢強い人なら、本作を楽しめないこともないような気もしないでもない感じがヒシヒシとあるようなないような。
 とにかく、難しいことを難しく考えるのが大好きな人には、うってつけのゲームです。
 それだけは間違いありません。

(2009.02.01)