アルトネリコ 世界の終わりで詩い続ける少女

2006年1月26日発売/バンプレスト/69点

 バンプレスト企画・発売、ガスト開発のRPG。ガストの代表作である「アトリエ」シリーズのシステムを流用しています。

 発売前から色々と話題になった本作ですが、一番の特長は、最近のRPGにしては驚くほど低い難易度。
 直接攻撃に徹する前衛の三人と、詩(うた)魔法でサポートと魔法攻撃に徹する後衛のレーヴァテイル(=ヒロイン)と、はっきり役割が分かれているのですが(レーヴァテイルは、後衛で「歌う」ことしかできない)、前衛の武器や防具を強化できる「パワード」や、レーヴァテイルの「詩魔法」を強化する「インストール」の効果が、凄まじく強烈なため、ストーリーが進めば進むほど戦闘の難易度が下がると言う事態が発生します。
 また、アトリエシリーズでお馴染みの「アイテム合成」が本作でもできるのですが、これをうまく利用すれば、非常に簡単に億万長者になれてしまうため、前述の「パワード」に必要なアイテムが更に簡単に手に入るようになります。一部、武器攻撃が効かない敵や、繰り返し何度でも戦えるイベントボスの「カエデ」以外ならば、ほとんどレベル上げしなくても、すいすい進むほど。
 なにせ「ゴイス防壁」というアイテムを三つパワードすると、なんと敵の物理攻撃のダメージを99%カット。アイテム合成でしか作れないため、手に入れるのは難しいものの、ラスボス戦を含めても、殆ど無敵状態です。常にスター状態のマリオみたいなもん。バグらしいけどね。

 さて、「世界の終わりで詩い続ける少女」とサブタイトル(これの元ネタって、サターンの「この世の果てで恋を歌う少女 YU-NO」だよね)にもあるとおり、本作のストーリーを貫くキーワードは「詩(うた)」。ヒロインとして三人のレーヴァテイル(=歌姫)が登場し、非常に印象に残る歌が多く収録されています。
(ただし、どちらかと言うと高音階の宗教歌に近い印象で、ポップ調のキャラクターソングなどは一切ありません)
 このヒロインたちを成長させるシステムとして取り入れられたのが、発売前から大きな話題を振りまき、発売後も賛否両論だった「コスモスフィア」。
 何が凄いって、まあ狙いすぎと思えるくらいに「エロい」のです。
 主人公はヒロインたちの精神世界に入っていき(ダイブという)、彼女たちの心を解きほぐしながら共に成長していくのですが、かなりブッ飛んだストーリーが続く上、クリア特典として手に入るコスチュームが、完全にマニア向けのコスプレ喫茶状態。これらのコスチュームは、戦闘中にヒロインに着せることができるんですが、裸ワイシャツやバスタオル一枚で戦うヒロインっていうのも、わりと前代未聞かも。
 また、ヒロインのコスモスフィアをクリアすることを「開発」と表現してみたり、裸ワイシャツを着せたままで戦い続けるとミシャが露出趣味に目覚めたようなことを言ってみたり、詩魔法を強化するための「インストール」をするときのグラフィックがどう見てもヤバすぎたりと、よくもまあこれだけ狙ったもんだと感心します。
 これらのアイデアを出したのは、間違いなくオッサンだろうな、とは思いますが。

 これでストーリーがよけりゃ、その狙いにも素直に乗れたんですけどね。唯一、その点だけが残念。

 いや、ストーリーそのものが悪いわけじゃないんです。王道と言えば王道で、奇をてらったところはありませんが、それなりにまとまっていると思います。
 唯一の問題点は、数人の重要人物。いや、問題点ってレベルじゃないな。もう「癌」と言いきっても、全く差し支えありません。

 その一人目、主人公・ライナー。
 こういうRPGの主人公で、10代の少年と言うと、熱血、無茶、無鉄砲、恋愛に疎い、やや短慮、というあたりの要素が、お約束としてくっついていることが多いわけであります。
 この本作の主人公ライナーも、その例に漏れず、それらの要素を充分に天から与えられているのですが、いくらなんでも充分すぎました。
 どのくらい充分かと言うと、想像を絶する、異次元レベルの超天然こういう表現は適切ではないと理解したうえであえて使いますが、もう半歩踏み込んだら、確実に頭とか精神とか、そっち系の病院に強制入院させられてると思います。
 主人公なもので、ストーリーの各所でライナーの発言や決断があるわけですが、そのたびに「はぁ!?」と首を捻るシーンがやたらと多いです。ストーリーが中だるみする中盤は発言が減るものの、スタート直後と第三章では、本気で119に電話したくなってきます。特に、ミシャ、オリカどちらのストーリーでも、シュレリア様を復活させるルートを選ぶと、殺意すら沸きかねません。シュレリア様には罪は無いのですが、ライナーの反応がいちいちマイナスの感情を刺激してくれます。
 公式サイトでは、「恋愛には無知」といったことが書いてありましたが、明らかに「人間として大切なものには徹底的に無知」の間違いだと思います。
(余談ですが、ライナーは声優さんの演技もかなり ひどい 凄いことになっています)

 この主人公が余りに強烈なもので、他の人がかなり霞んでしまいますが、これも前例が無いレベルの根暗度・自虐度を誇るヒロインのオリカや、プラティナや教会で要職についていたとは思えない幼児みたいな知的レベルの日記を残したファルス司祭など、他の人もなかなかはっちゃけてます。
 特にこのライナーをプラティナの政治の世界に引き込もうとしてる彼の父親(プラティナの政治部門の長)。親馬鹿にも程があります。天空都市を滅ぼすつもりかい。
 大げさに聞こえるかもしれませんが、ライナー親子のやりとりをフルボイスで聞くと、脳が腐ります。
 オヤジのボイスは銀河万丈氏なんですが……。私が、氏が出演した作品で、音声を消してプレイしたゲームは、たぶんこれが初めてです。……いや、決して氏が悪いわけじゃなく、全面的にキャラが悪いのですが……。

 詩やBGMは素晴らしく、世界観やヒロインも(好き嫌いはかなり分かれそうですが)魅力的です。グラフィックも悪くありません。
 戦闘の難易度の低さは好みの問題でしょうが、強烈な主人公の存在と、繋がりが理解しにくいストーリーが最大の難所。アニメーションも一昔前のレベルだし、ちょっとシステムにもRPGにこなれていないところが見受けられます。
 12歳以上対象作品にしては、かなりヤバめのヒロインのセリフや仕草を、どれだけ妄想力で引っ張れるかが鍵ですね。冷静にプレイするには、ちょっとキツイかも。

(2006.12.26)