パラノイアスケープ

1998年5月28日発売/マチルダ/89点

 えー、この世に物好きがいる限り、悪趣味というかぶっちゃけ「ゲテモノ」の種は永遠に途切れることがないわけで、当然ゲームの世界にもその種子はいたるところに身を潜めています。
 ま、冗談のわからない一部の人にしてみれば、エロだの暴力だの蔓延する現在のゲーム市場はそれだけで悪趣味な世界なんでしょうが、例えば頼りがいのある骨人間が身体を分解させながら明るく暴れまわるサターンの「ミスターボーンズ」なんてーのは、この世界では悪趣味のうちには全然入りません。同じくサターンの、油断してると2秒に一回確実に死ねる「ブレインデッド13」あたりもなかなかいい線いってますが、まだまだ上には上がいるものです。
 それがこの「パラノイアスケープ」。悪趣味・ゲテモノ趣味という点においては、たぶん一つの天辺なんじゃないでしょうか?

 本作「パラノイアスケープ」、一言で内容を表現すると、「3Dピンボール」です。しかしそのまとめ方は、例えばフェデリコ・フェリーニとエド・ウッドを「映画の監督」という単語でまとめてしまうのと同じカテゴライズですので、注意が必要です。
 本作をプロデュースしたのが、「エルム街の悪夢4」や「ソサエティー」などでSFXを担当した強烈な日本人アーティスト、スクリーミング・マッド・ジョージ先生という事実ひとつだけで、本作がフェデリコ・フェリーニかエド・ウッドかは、言わなくても解っていただけると思います。

 ピンボール(というか、ブロック崩しに近い)なのに本作にはストーリーがあります。「年老いた魔王の後継者を一般公募」というのが、一般人から校長を募集している教育委員会みたいな、現代社会とマッチしてて微妙にイヤなんですが、全然親近感を感じないあたりが良いんだか悪いんだか。
 そして、魔王の後継者候補に名乗りを上げたのが我らが主人公「骸骨兄弟」(ヒネリ一切無し)。最終選考までをクリヤーした兄弟は、フリッパーバット「トーバーネホ」(骨バット……?)を手に、最後の試練「パラノイア・スケープ」に挑みます。
 要するに、この「骸骨兄弟」の持つ「トーバーネホ」がフリッパーの、横視点のピンボールゲーム。プレイヤーはボールを打ち返してモンスターを倒しながら、奥へ奥へと進んでいきます。まったくピンボールである必要のないあたりが、あまりにもアグレッシブです。

 と、ここまでなら、まだ「変わり種ゲーの一種」ということで簡単に忘れられそうなんですが、このゲーム、ここから先が本当に病んで病んで病みまくっているのが怖いところ。

 本作、難易度そのものは非常に簡単、というか、そういうレベルを遥かに超越している難易度なので、某南斗白鷺拳の伝承者の如く、自分で自分の目を潰すとかしていない限り、まずクリアできます。
 ピンボールなのに、ある程度ならボールを反らしても後ろに戻って拾えるし、面をクリアしようものなら、嫌味の如く物凄い数の予備ボールを与えてくれます。また骸骨兄弟には体力があり、障害物や敵に当たるとこれが減っていき、無くなるとアウトなんですが、裏技で無限コンティニューがあるし、そもそもオプションでボールの数が無限にできるので、まず死にません。
 でも死なないということは、最後まで敵を倒し続けないといけないということなのですが、その敵の皆様が最高に強烈。

 人面ゴキブリ(顔は実写)、人面トカゲ(笑顔)、人面蝶、八方向に人間の足が伸びた巨大手裏剣、血まみれペンギン、地面から突き出した鼻や口、ステージそのものが膀胱、人の顔面が尻に埋め込まれた下半身(見たまんま)、スクリーミング・マッド・ジョージ本人etcetc……。

 これらの敵キャラが、絶妙にイヤらしく汚いポリゴンで、集団でわさわさ襲いかかってきます。
 よくもまあ、これだけ狂いに狂いまくった世界を構築したものです。ちなみに、プレイヤーの操るボールは(しかも、プレイヤーの脳という設定らしい。ちゃんと神経が伸びてます)で、効果音は悲鳴です。

 はっきり言って、難易度設定もそうなんですが、グラフィックは荒いし動きはトロイし重いし単調だし、大味という言葉が生易しいと感じられるくらい、異常に投げやりで大味です。
 しかしこの際、このゲームに限って言えば、そんなことはどうでもいいです。
 本作は、アホみたいな天才か、天才レベルのアホかのどちらかであろうマッド・ジョージを、骨の髄まで体験するのが目的のゲームです。好きな人はとことん楽しめますが、嫌いな人には徹底的にあわないゲームでしょうね。

(2007.02.07)