introduction

「断罪の剣」は、「覚醒都市DiX」で連載中のオリジナル小説です。


リンクフリー。

story

 アーカディアという都市がある。この600年間で驚異的な発展を遂げた都市国家だ。

「ガイア・システムズ」と名乗る12名の者たちに指導された市民たちは、歴史を「発展」というよりも「跳躍」と言ってよい速度で開発し、アーカディアを500万人からの人口を誇る大都市へと発展させた。
 未来への希望と明日への享楽の中、精神的な発展を徐々に失いつつも、人々はなおも発展を止めようとはしない。

 都市と市民に対し適正な法と裁きが敷かれているこの都市において、ただ一つ、絶対価値の唯一悪とされているものがある。

「尊属殺人」。

 この犯罪に対し、この都市の法は、どのような事情があれ、一切の容赦も呵責も許さなかった。裁きの機会さえ与えられぬ。与えられる「結果」はただ一つ――――「死」。

 人々は他人の犯罪を報道で目にし、それぞれの感想を胸に秘める。だが、それに直に対応する者たちには、それぞれのドラマがあるのだった。

important word

☆ガイア・システムズ

 600年の間、アーカディアのあらゆる「意味」の中心をなしてきた12の存在。

 宗教的な意味での「神」として、そして政治的な指導者としてアーカディアの市民たちを導いてきた。

 市民たちが神の存在を拠り所とせず、自らの意思で進んで活動するようになった200年ほど前から市民たちの前に姿を現さなくなったが、現在も依然としてアーカディアの法を定め、法に従属する公僕たちの管理者として活動し続けている。

 その法の施行には民主的な意味での欠点もあるものの、内容には概ね市民たちは納得しているようだ。

 だが、その正体を知るものは極めて少なく、特異な存在であることに変わりはない。彼らの職務場所である(とされている)白亜のビルは、荘厳だが空虚な雰囲気に包まれている。

☆尊属殺人

 血族関係において、自分より前の世代に属する者を尊属(父母、祖父母など)といい、その者を命を奪う形で害することを尊属殺人という。

 概ね公正であり、市民たちの納得も得られているアーカディアの刑法とその裁きにおいて、唯一、理由如何によらない絶対価値の唯一悪。

 通常の犯罪ならば減刑の対象になるであろう理由・状況があろうとも、尊属殺人においては如何なる情状酌量も鑑みられず、唯一、与死をもってその判決と成す。

 発展を続けるアーカディアにおいては、すでに時代遅れの価値観であるとの批判もあるが、建国以来この方針だけは一貫して変えられておらず、通常の犯罪を捜査する司法当局の他に、尊属殺人の犯人を専門に捕殺する組織まで作られているほどである。

 法の施政者であるガイア・システムズがなぜそこまで尊属殺人に固執するのか、知る者はいない。

復讐の女神エリニュス

 尊属殺人の犯人を直接捕殺する権限を有する、専門の組織。「復讐の女神」は通称であり、「エリニュス機関」という名称が正式のものである。

 通常の犯罪を捜査する「司法当局」とは全く別の組織であり、二つの組織の間で情報の行き来はあるものの、それ以外の直接的な接点は無い。司法当局の捜査によって、殺人事件が尊属殺人だと判明した場合、その瞬間から事件は「復讐の女神」の管轄となり、司法当局は一切手出しできなくなる。

 組織の目的と存在意義はたった一つ、尊属殺人の犯人を殺害することのみであり、その結果においては犯人の自殺した場合を除いて捕殺率十割と、極めて優れたものを残している。

 他の公的組織は、基本的に全ての情報を公開することが義務付けられているが、この組織だけはその例外にある。それだけでなく、「復讐の女神」は様々な法的特権を認められており、もともと秘密組織めいた面の強い機関だけあって、暗に批判の的にもなっている。

 過去には、そういった法的特権の傘に隠れた組織内悪事が蔓延ったこともあったが、現局長・クロノスにの手によって死者が出るほどの苛烈な処断がなされ、現在は内部的には金銭的怠惰の風潮は一層されている。

 慣例的に司法当局との間には軋轢があり、情報の行き来には小言の山がセットになることが多い。

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