おおらかな時代

高校卒業生に地球レベルの視野を。

 部屋を掃除していたら、高校の時にもらった生徒会誌が出てきました。
 三年生が卒業するときに生徒会が発行してたもので、教師や用務員のお祝いコメント、各委員会の紹介と同時に、全学年全クラスがそれぞれ見開き2ページを使って、アンケートを載せたり生徒の短いコメントを集めて載せたりしていた会誌です。
 ペラペラと捲りながら、なんか見てはいけない過去を覗いてしまったような、複雑な気分になってしまいました。
 各クラスの生徒のコメントのほうは、案の定、若気の至り炸裂。
 大半が勢いばかりで意味不明な代物ですが、中には、

「推理小説「亀頭英雄伝」もよろしく!」

 という、その内容が気になって仕方ないものがあれば、

「私をもてあそんだ●●くん(注・原文は実名)……絶対に許さない」

 と、このあと裁判沙汰にでもなったんじゃないかと心配してしまうものなど、1200人の高校生には1200通りの高校生活があったんだな、と、ジジくさく感慨にふけってしまいました。

 ちなみに、どこの高校にも名物教師というか、ぶっちゃけ変な先生が一人はいるもんですが。
 この会誌にもいました、そういう先生が。
 基本的に卒業シーズンに作られる会誌なので、教師のコメントもほとんどは卒業生に向けて書いてあります。
 卒業を祝福したり、好きなことわざや詩の一節を贈ったりと、わりと無難といえば無難な言葉が並んでいるのですが。
 理科担当のK先生。この人は視点の大きさが違いました。
 卒業生に向けてのコメントの出だしが、

「宇宙の中で唯一(?)生命が存在する星、そのすべての生命にとってかけがえのない星、地球、その地球を救うことが緊急の課題になっている」

 いきなり宇宙レベルです。話のスケールがデカすぎます。
 高校を卒業したばかりの17〜18歳の子供たちになにをさせるつもりなのでしょうか、この人は。
 その後も、

「人間が自然を支配しようとして作り出してきた政治システムや経済システムが、大気と大地を汚染させたのである。
 そして人間はそれを進歩であると信じて突き進み、今なお、やめようとはしていない」

 と、宗教的領域にまで達した哲学で飛ばしまくります。
 もう一度確認しておきますが、これは科学雑誌「ネイチャー」のコラムなんかではなく、広島県の田舎の県立高校の生徒会誌です。
 確かに、環境問題は人類共通のテーマだし、内容的には慧眼とさえ言えるのですが、惜しむらくは明らかに主張する場所を間違えてます。

 しかし、もうK先生の怒りは止まりません。
 ペンを走らせながら感情が制御できなくなってしまったのか、ついにその矛先は文明否定にまで行き着いてしまいます。

「(支配者気取りの人類は)驕りを捨て、原始の人のように自然に対する畏れを知る必要があるのではないだろうか。
(中略)
 そのためには、経済優先意識の変革と地球を救うための具体的な行動を起こさなければならない」

 うわぁ、革命まで扇動しだしたよ、この人。文末に「シーシェパード代表」とか「赤軍代表」という署名があってもまったく不自然じゃない熱さですが、高校の卒業生に贈る文章じゃないよなあ。
 今ならなんか問題になりそうなテキストなんですが、これでも許される、おおらかな時代ではありましたね。
(もともと広島県東部は、自己主張の好きな教師が多い土地柄ではありました。異様に「道徳」の時間が多かったり、凄まじくくだらないことでクラス会(反省会)を開いたりとか)

(初稿:2010/05/10)