素晴らしきGUN道の世界
アニメ事情2006
最近は、TVアニメが非常にバブリーな時代です。聞いた話によると、2006年上半期では実に68本ものアニメが地上波で流れるという、まさにアニメファン酒池肉林状態。
いやね、確かにこれだけ数が多けりゃ、中にはデキの酷いのもあるでしょう。資金が豊富なスポンサーや有能なスタッフを探してくるのも大変です。制作費を節約せざるを得ない状況で、血の涙を流しながらカツカツでやってるところも多いと思います。
だからと言って、ゴールデンタイムのアニメのスポンサーを引き受けた日には、月額2000万〜2500万円、1クールで1億円とか2億円とか広告費を持っていかれるんですから、そりゃ中小企業なんかおいそれと手は出せません。コナミが「遊戯王」をスポンサードした時は、ゲームを複数機種で発売し、更におまけで複数のトレーディングカードをランダムでつけて大人買いさせるという力技で、ムリヤリ元をとって驚かせたものですが、それもこれも企業体力のある大手だからこそ出来る話。
更に、最近のアニメは「薄く広く」というよりも、対象をピンポイントで絞った内容のものが多く、キャラクター商品を作ろうにも、間口が狭くて売り上げが計算できないという、正に悩みスパイラル状態。
で、どういうことが起こるかというと、そういうスパイラルに突入した結果、余りにデキが酷すぎて逆に伝説になるようなアニメが幾つも生み出されました。
ちょっと古いと、放映ペースにセル画がまったく間に合わなかった「天空戦記シュラト」などが有名ですが、最近でも、
- 余りのヤッツケ具合に手抜きアニメの代名詞となってしまった「ロストユニバース」第四話「ヤシガニ屠る」
- 未完成のまま封切という暴挙に出た劇場版「ガンドレス」
- 一部でゲーム版の画面をそのまま使ってしまったため、オリジナルのアニメ部分の手抜きさがより目立ってしまった「学園都市ヴァラノワール」
- 「ウニメ」と酷評され全国のお兄ちゃんを地獄の底に叩き落した「シスタープリンセス」
- 作画監督の頭の中が魔法の世界だったTV版「魔法先生ネギま!」
- タマ姉が裕二より先に作画監督の頭をアイアンクローで握り潰してしまいそうな「ToHeart2」
などが有名ですが、この2006年、たった一話放送されただけで、これらのすべてが過去のものになってしまうほどの伝説を打ち立ててしまったアニメが登場しました。
ムサシ登場
その名は、「MUSASHI GUN道」。
本作は原作を「ルパン三世」のモンキー・パンチが手がけた構想12年という超大作であり、豊臣側が関ケ原で勝
利したパラレルワールドが舞台の歴史アクションアニメですが、この際、そんなことはどうでもいいです。
このアニメの最大の特徴は、見ている者の悩みとか理性とか判断力とか、そういったものを全て吹き飛ばす、異常なパワー。
いやもう、何が凄いって、
- 「独創的」というレベルを遥かに超越した作画!
- 場面ごとにほいほい変わる非常に軽快な設定!
- 動画とズレまくる臨機応変なSE!
- プロが素人に成りすましているかの如き素晴らしすぎる声優の演技!
ああああ、もう言葉では伝えきれないこの感動!
すぐに伝説へ
2006年4月9日、第一話がBS-iで放送されましたが、その直後から余りの手抜き具合、ツッコミどころが山のように発見され、スデに伝説を形成する下地は出来ていました。
4月16日に第二話が放送、完全に狙ってやっているとしか思えない、第一話に輪をかけてアヴァンギャルドな完成度に、世間が注目しだします。
そして、第三話の超トンチキな「ケンジャの舞」を経て、4月30日に悪魔の晩餐の如き第四話が放映。
これまでの中で最悪のデキであり、酷評された第一話が実は一番デキが良かったのだという衝撃の事実の前に、その伝説は完全に動き出しました。
前述の通り、アニメを構成する全ての要素にツッコミを入れられる、というのが本作が本作たる所以なのですが、
- 同一シーンで視点が変わったときに、同一人物の立ち位置や髪型、服装が変わっているなど当たり前。
- 同一シーンなのに、同じ建築物とは思えないほど背景のディテールが一瞬で変わってしまうなど当たり前。
- 同じ構成物(牛車や銃、刀や家紋、馬など)が、次の瞬間にまったく別のものになっているなど当たり前(馬の色が変わったり、牛車の種類が変わったり、家紋や銃の模様がなくなったり)。
- 背景が実写で、取り込み加工すらしていない時があるのは「仕様」である。
- 行動と効果音が合ってないなど日常茶飯事。
- 明らかにリボルバーなのに無限に弾が出てくる銃など、神のごときアイテムの数々。
- 物語の主役であるその銃ですら、リボルバーになったりオートマチックになったりする。
- 登場人物の言動にいちいちツッコミを入れていたら、リアル時間で日が暮れる。
- 明らかに別人なのに同一人物だったりするのも当たり前。敵の足の本数や顔が変わるなど普通である。
- 前回の「次回予告」と、実際の次の回で、サブタイトルがまったく違うなど普通である。
えー、もうね、これらを笑って楽しめるようでないと、このアニメを見たところで腹が立つだけです。
ホントにこれ、BS-iで放送されてるアニメなのか!?
快進撃
更に驚いたことに、U-SENがなにをトチ狂ったのか、インターネット無料放送で有名な「GyaO!」でこれの放送を開始したことで、更に伝説の伝播に拍車が掛かりました。
以下、GyaO!に投稿された本作のレビュー。
- これは我々の精神の奥深くに存在する「無意識の目」で見なければならない。
- モニターが爆発したかのような臨場感がありました。
- これ以上はないだろうと何度も思わされてきたが、まだこういうすごい作品が出てくる。日本アニメの奥深さだと思う。
- 今世紀最強の駄作。
- 噂には聞いていましたが、期待の遥か斜め上を行く超作画・超脚本・超クオリティーに思わず体中のあらゆる穴から変な汁が噴出する勢いです!
- 100円均一の店に200円の商品が平然と置いてあるくらいの衝撃です。
- あらためてこの番組は製作者と視聴者の真剣勝負の場だと確認し、身の引き締まる思いだ。
- このMUSASHIというアニメは、主人公側からだけではなく、敵側からの視点も垣間見えるといった点において、昨今問題になっているアジア外交問題を考える良い教材になるのではないでしょうか?
- この作品は間違いなく今世紀最強の前衛芸術作品です。と言うよりこれより素晴らしい作品はどうやったら作れるのかコッチが知りたいくらいです。
- 同僚に「○○君、最近楽しそうだね。何かあったの?」と言われました。自覚はなかったのですがどうやら勤務中に笑顔を振りまいていたようです。
- OPが頭からはなれないので、しばらくまともに仕事もできませんよ。
- 地上波なら人が死にます
駄目だ、面白すぎる(笑)。当然の如く海外でも評価は散々でありボロクソでした。
製作者は語る
けれど、それでも売らなきゃいけないのが製作サイドであり、大人の都合です。
- 「作品のテーマとしては『挑戦』というものがあります。これは『ルパン』もそうなのですが、難しいことに挑戦していくというテーマが『MUSASHI』にも当てはまります」
(原作者 モンキー・パンチ氏)
- 「実際に作品を見た感想としては、とてもロックを感じました。本当に、この作品を世界の若者たちが見たら度肝を抜かれると思いますよ」
「このアニメが世界に注目されるのは、時間の問題だ。僕は日本に生まれてよかったよ!人生ってスゴイや!!」
(OPテーマ担当 ULTRA BRAiN、難波章浩氏)
モンキー・パンチ氏の言う「難しいことへの挑戦」というのはアニメ製作そのもののことではないのか?
難波氏の「ロックを感じる」「人生ってスゴイや!!」ってあたりにも、どう評価していいのか解らないヤケクソ具合を感じてしまうのは私だけでしょうか。
1971年に放映された第一期「ルパン三世」のほうが遥かに良い出来なんじゃなかろうか。
伝説続行中
6/11現在、BS-iではまだ10話が放送されたばかり(無謀にも全26話予定だそうな)。今なら「GyaO!」で無料視聴もできるし、「YOU TUBE」にも数々のMADムービーがアップされています。
ただ今、この瞬間が旬・真っ最中のこのアニメ、純粋に笑いたい人も、悩みを吹っ飛ばしたい人も、トンデモアニメを見たい人も、とにかく見ないと損です。
貴方も「ケンジャの舞」を見て叫ぶのだ。うおっ、まぶしっ!
(2006.06.11)
関連リンク
(初稿:不明)