友ら来たりなばD

 その後、しばらく食事は静かに進んだ。
 とは言え、香澄にとってはそれどころではなく、顔を真っ赤にしたまま伏し目がちに、細々と食を続けている。
 なにせ、公衆の面前でのリョウへの爆弾告白である。しかもそれは、テリーと舞の話の流れに乗せられた完全な不意打ちであり、さらっと言ってしまった後の、気恥ずかしさやら後悔やら自責やら、色んなものに心を侵食されて、香澄は顔を上げることができなかった。
 しかし、そんな香澄を置いてきぼりにして、場は盛り上がっていた。話はユリのメール友達の方に移っている。ユリはKOFで闘った格闘家たちを始めとして、たくさんの知り合いと交流を深めていたのだった。



「一番頻繁にメールくれるのって、誰?」

 やはり興味があるのか、舞がサラダを口に運びながら、訊いてくる。

「意外なとこだとゼロさん(オリジナル)とかけっこう筆まめだけど、やっぱり同年代が多いかな。中国のアテナちゃんとか、ケンスウ君とかよくくれるよ?」

 ユリは、中国在住の青年の名を出した。
 椎拳崇。前述の麻宮アテナと同門で、やはり超能力+中国拳法という、他に類をみない格闘パターンで闘う。酔拳を主とする彼らの師・鎮元斎がどのように彼らの修行をつけているのか、ユリだけでなく彼らを知る誰もが知りたがったものだった。

「そっか、アテナちゃん、自分のホームページ持ってたもんね。でもケンスウ君も?」

 ユリは自分のコップによく冷えたジュースを注ぎいだ後、ペットボトルをマリーに渡した。

「うん、よくくれるよ。アテナちゃんが使ってるパソコンを使わせてもらってるんだって。お師匠の鎮さんが一番興味あったみたいなんだけど、結局二人で使ってるみたい」

「なんだかんだ言って、あの二人も仲がいいわよね。アテナちゃんがかなりニブいから、恋人同士にはなってないみたいだけど」

「そうそう、それなんだけどさ!」

 マリーがさらりと言った言葉にユリが大きく反応したので、マリーは思わずコップに注いでいたジュースをこぼしそうになってしまった。

「どうしたの!?」

 舞と香澄もフォークを止めてユリのほうに耳を傾けた。

「一ヶ月くらい前にケンスウ君、ついに告白らしくて。今、つきあってるみたいよ、あの二人」

「えええっ!?」

 三人が三様に声を上げた。それもそのはずだろう。ケンスウがアテナに好意を持っているのは、彼らを知っている人間で知らない者はいなかった。ただ一人、アテナ本人を除いては。ただでさえこういうことに鈍い彼女は、アイドル活動と格闘という生活を心底楽しんでいたから、気が付かなかったのだが。

「それで、二人から別々にメールが来るんだけど、二人とも文章が大混乱しててさ。最初はなにが書いてあるのかわかんないのもあったよ。特にアテナちゃんが」

「へぇ〜」

 これ以上ないほど驚きの表情をした舞が、ようやく少し落ち着いて、フォークを握りなおした。香澄は隣のユリの方に顔を向けたまま、並々と注がれたジュースに口をつける。

「しかし、あの二人、うまくいくのかしら。私が言うのもなんだけど、ちょっと変わったとこあるじゃない」

 そう言ったのは、おそらく四人の中で一番落ち着いているマリーである。舞が、くすくすと笑いながら言葉を継いだ。

「変わってるっていうなら、私たちも知り合いもみんなそうだって。普通は手や足から気弾だの炎だの、飛ばさばいでしょ?」

 ユリも香澄も、思わず苦笑混じりに頷いてしまった。性格的にはともかく、そういった能力的には、一応自覚はしているのである。

「それで、二人、うまくいってるの?」

 改めて舞が問うと、ユリは難しい顔をして腕を組んだ。

「いや〜、やっぱり難しいみたいだよ。
 ケンスウ君も、年の割になかなかかわいい顔してるから、KOFの女性ファンから結構ファンレターが来るらしいんだけど、アテナちゃんがマイペースに見えて物凄いヤキモチ焼きみたいでさ。ケンスウ君がにやにやしながら手紙を読んでるのみて、凄く怒るんだって。
 最初はケンスウ君も控えてたんだけど、アテナちゃんがあまりに口うるさいから、「お前だって男のファンがおるやないか!」って、大喧嘩したって言ってた」

 ちなみに、ケンスウはユリよりも一つ年上である。

「あのお二人の喧嘩は怖そうですね。だって、超能力ですよ?」

 思わず「幻●大戦」のようなおどろおどろしいものを想像をして、香澄が隣でぶるぶると震えてみせた。

「で、どうなったの?」

 舞の目が段々輝いてきた。自分がアンディと喧嘩中なのを棚に上げて、やっぱり他人の喧嘩には興味があるらしい。マリーは舞の隣で苦笑してしまう。

「うん、アテナちゃんはケンスウ君に嫌われたんじゃないかって、泣きそうなメールくれたよ。ケンスウ君も珍しく弱気になってたみたいだけど」

 ユリはフォークにパスタを絡めながら言った。

 二人からのメールは、とにかく感情の起伏が極端だった。嬉しいときは、読んでいるほうまで嬉しくなってくるのだが、怒っているときはひたすら怒りっぱなし、気弱なときも最初から最後までそうだ。
 特にアテナは、ケンスウと交際を始めてから、メールの内容は彼のことだらけになった。三日に一通ほどのペースでくるのだが、実に内容は細かい。もう「誰かに話したくて仕方がない」というアテナの気持ちが、ユリにはよくわかる。アテナのほうも、ユリのことをよき相談相手と思っているようだった。

「アテナちゃんの気持ちもわかる気はするけどね。やっぱり自分から告白しといて、他の女の子の手紙を、わざとじゃなくても告白した子にわかるように読むのって問題じゃない?」

 マリーが言うと、舞がそれに反論する。

「私はそうは思わないな。確かに付き合ってはいても、お互いにはお互いにプライベートってものがあるでしょう? そりゃ結婚すれば話は別だし、目の前で異性とじゃれてたって言うならむかつくだろうけど、今回なんて、たかがファンレターじゃない」

 香澄は、年上の女性の意見を黙って聞いていた。ケンスウとアテナの話を、思わず自分とリョウに重ねてしまったのである。
 自分がリョウを慕っていることは、今日改めて公言しなくても、幾分はリョウも気付いていたはずである。いつか、もしもリョウが自分以外の人を愛していると知ったら、自分ならどうするだろう。否、自分はどうなるだろう。自分の周囲はどう考えるだろう。
 自分の気持ちを公言したにも関わらず、香澄はリョウの気持ちを知るのが怖かった。それは恋愛初心者ゆえのものではなく、そこまで深く他人と関わった経験のない無知ゆえの恐れだった。

 香澄が考えているなか、舞が言葉を続けた。

「それに、だいたい女のことを知らない男って、つきあったって面白くないと思わない? 子供なら、それもいいかもしれないけど、ある程度大人なら、やっぱり女の喜ばせ方くらい知ってなきゃ、女も飽きると思うな」

 このあたりの意見が、舞らしいといえば、舞らしい。

「あら、アンディはマイを喜ばせてくれなかったの?」

 マリーが意地悪く正すと、舞は思いっきり苦笑をした。どうやら、ついさっきの自分のセリフを、自分に重ねてしまったらしい。

「お願いだから苛めないでよ、マリーさん。今はアンディのことは思い出したくないんだってば」

 しかし、追求の手はやまない。次の審問官は、ユリである。

「舞さん、正直に聞いていい?」

「なに? ユリちゃん?」

「アンディさんって、その……下手・・だったの?」

 あまりといえばあまりにストレートな質問に、一瞬目をきょとんとさせた後、逆に舞もマリーも高らかに笑い声を上げた。香澄だけが、どう反応していいのかわからずに視線を右往左往させている。
 舞はひとしきりケタケタと笑った後、ジュースを一杯飲み干した。本当は今日、みんなとお酒を飲みたかったのだが、まだ未成年ということもあり、年上組のテリーとマリーに禁止されてしまっていた。それで、マリーがジュースで付き合うという交換条件で、なんとかジュースで我慢しているのだ。

「いやぁ、ごめんごめん。ユリちゃんらしくて、思わず笑っちゃった。まぁ、ことの次第はノーコメントってことで。それが彼のすべてじゃないしね」

 と舞はケンカ相手にフォローを入れはしたものの、どうやらもう歯止めはききそうになかった。


 この後、暫く女性陣(香澄除く)による過激な会話が展開されるのだが、香澄は顔を耳まで紅潮させてただ俯き、男二人は、話のナマナマしさに目を白黒させながら、完全に蚊帳の外状態で、話を制御するどころではなかったことを付け加えておく。



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(06.06.21)