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友ら来たりなばC
「で? なんで今日はこの三人なんだ? 俺たちは、てっきりアンディ君とジョー・東だと思ってたんだが」
リョウが新しいビールの蓋を開けながら、当然の質問をした。それを聞いてテリーとマリーは苦笑し、それまで談笑していた舞は、一瞬固まってしまった。
「?」
リョウと香澄とユリは不思議そうに、お互いの近くにいる客をみつめた。突然、固まっていた舞が、おたまを振り上げて叫んだ。
「アンディですって!? 知らないわ、あんなヤツ! この私を袖にするなんて!」
あまりといえばあまりの迫力に、香澄たち三人は、ずざざっとキッチンの一隅にかたまってしまった。
「ひょっとして、またケンカしたの?」
ユリがおそるおそる聞いてみる。
アンディと舞は、最早周辺公認のカップルと化しているのだが、昔も今も「奥手なアンディ」に「積極的な舞」という図式は、一向に変わらない。テリーなどから(そして、たぶん他の誰から)見てもアンディは少し求道者的でストイックな面が強すぎる。もっと進んだ仲になりたい舞としては、なかなか叶わない願いに、ストレスがたまる一方なのだ。それが原因で、ケンカも多いのであった。
しかし、今回のケンカは少し深刻なようである。
「アンディのヤツ、何があっても修行修行でさ。まぁ、本人がやりたいならそれでもいいんだけど、私の誕生日まで忘れて修行してんのよ!? 信じられないと思わない!?」
「わかった、わかりましたから、おたまを振り回さないで下さい!」
香澄が背後から必死で舞をなだめるが、ユリも香澄も舞の気持ちはわかる気がした。舞の誕生日は1月1日。つまり、同居している女性を放り出して、正月も関係なく日柄一日鍛えているのだ。格闘家としてはわからぬでもないが、相手の女性としてみればやりすぎだという気がしないでもなかった。
勢いよくまくしたてて少しは落ち着いたのか、舞はおたまを下ろして再びキッチンに向かう。香澄とユリ、マリーの三人も後についてもとの位置に戻った。もう料理自体は殆ど完成しているので、あとは盛り付けるだけなのだが。
「でさ、私もついぶっちぎれちゃって、家を出たのよ。それで別に行くあてもなかったから、テリーと合流したの」
「い、家出!? いつから!?」
「んー、正月の二日。もう半年くらいかしら」
「半年も帰ってないんですか!?」
「半年も一年もないわ。アンディが自分で謝りに来ない限り、絶対に帰らないんだから。もっとも、アンディにしてみれば私よりも不知火流の方が大事らしいから、迎えになんてこないでしょうけどね!」
四人はできた料理と、それを盛り付けるための皿をテーブルの上に並べた。香澄とユリはなんとか舞の話についていっているが、リョウはまだ呆然と聞いている。彼にしてみれば、二人の行動どちらも極端にみえてしかたなかったのだ。
「で、でも、不知火流の正統継承者は、不知火の姓を継いだ舞さんなんでしょう? その人が道場を開けちゃっていいんですか?」
香澄が舞の隣で手伝いながら聞く。不知火流はもともと、体術と忍術の二系統から成立しており、その体術のほうをアンディが、忍術のほうを舞が継いだのである。不知火も道場を持つが、教えられるのはもっぱら体術のほうだった。
「それは大丈夫。体術のほうはアンディが道場で教えてて心配ないし、忍術のほうは昔から一子相伝なの。もともとのスタイルが違うのよ。だから、無理に私がアンディとくっつかなくたって、私が自分の子供に忍術のほうを教えさえすれば、それで万事解決ってわけ」
「はぁ……」
理想では体術と忍術を同時に究めてこそ真に極めたと言えるのだが、不知火八百年の歴史の中でそれをやりとげたのは、舞の祖父である不知火半蔵ただ一人である。
マリーはサラダをユリから受け取って並べながら、くすくすと笑った。
「マイはテリーのこと、気に入っちゃったのよね?」
舞は香澄と一緒にエプロンをとりながら、少しだけ顔を赤らめて、微笑んでテリーのほうを見る。見られたテリーは、「なに?」といった表情で、ビール缶を持ったまま舞とマリーを順にみやった。
「そうよね〜。アンディももちろんいい男なんだけど、「お兄ちゃん」の男らしい奔放さも私の好みに合わないわけじゃないって最近思うようになったわ」
癖になっているのか思わずアンディを擁護してから、舞はちょっとだけ意地の悪い笑顔でテリーを見つめた。
「強引に迫られたら、色々OKしちゃうかもよ?」
挑発的な舞の流し目に刺されて、テリーはビールを気管に入れてしまい、思いっきりむせてしまう。
「おいおい……」
「はっは、責任重大だな、伝説の狼よ!」
リョウがビールの缶を持ったまま、ばんばんとテリーの背中を叩く。が、彼の笑顔はすぐに引きつることになる。
逆襲という言葉遣いでもないが、テリーが切り出したのだ。
「で、そういうあんたはどうなんだ、リョウ?」
言って、ちらっと香澄のほうに目をやった。舞がそれを受けて香澄の方に向き直る。
「そうそう、私も聞きたかったのよ。なんで香澄ちゃんがここにいるわけ?」
今度は、リョウを含めた全員の目が香澄に向けられる。別に隠すようなことでもなかったので、香澄は正直に話した。
「ふーん……」
香澄の話を聞いて、コーヒーに口をつけていたマリーが妙に感心したように頷いた。
舞が料理の講義をしていたにしては、何故かテーブルの上に広げられたのは、いかにもアメリカのパーティー料理である。それも量が半端ではない。ユリは最初、男三人が来ると思っていたので、簡単でたくさんできる料理を選んだのだ。舞は、その手伝いをしていたから、別に講義をしたからといって、料理を和風に変えたわけではなかった。
「香澄ちゃんも大変ねぇ、毎度毎度お父さんを……」
「いや、もう慣れました」
香澄も苦笑して答える。何度も聞かれて何度も答えたので、答え方も手馴れたものだった。誇れることでもないのだが。
「で?」
舞が、にや〜と笑いながら香澄に顔を近づけてくる。香澄は何かよからぬ予感を感じて、ちょっと後ずさる。だが、舞は香澄の耳元に顔を近づけてそっと呟いた。
「な、何でしょう?」
「お父さんを見つけるのだけが目的で、準備も整いなおしたなら、別にここでなくてもいいわけよね?」
「は、はいっ!?」
いきなり何を言い出すのか? といった風に香澄は舞を見つめる。しかし、舞のほうはあまり気にしていないようだ。
「さっき、リョウさんが「香澄」って呼び捨てで呼んでたわよね?」
「……………………」
「それに、甲斐甲斐しく返事してたわよね?」
舞は、彼女らしい笑顔で香澄を見つめた。年下の友人をちょっとだけからかうような、悪戯心半分の笑顔。
香澄は顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼女の本心は、舞に見事に見抜かれてしまっているようだった。
「将来は、極限流総帥の若妻……かな?」
舞がリョウと香澄を順々に見ながら、香澄の答えを導こうとする。
香澄は俯いたまま、ぽつりと答えた。
「あ、あの……」
「あの?」
「リ、リョウさんがその気になっていただけたら、わ、私は……」
両手の指をでたらめに絡めながら、香澄は言って更に俯いた。ユリとマリーは勇気ある告白に微笑み、舞は「よく言った」と香澄の頭を撫でた。
香澄と舞の表情でそれに感づいたらしいテリーは、笑いながら、
「責任重大だな、我が友よ!」
と、隣に座って嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな複雑な表情をしているリョウの背中をポンポンと叩いた。
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(06.06.21)
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