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友ら来たりなばB
午前11時58分。リビングの窓際にある、FAXを兼ねた電話が鳴った。
「あ、私がでます」
昼食の準備にかかっていたユリの脇をすりぬけて、香澄が受話器をとった。
「はい、サカザキです…」
『もしもーし! ユリちゃん!? 今、駅についたんだけど!』
受話器の向こうから、けたたましい女性の声が聞こえた。どうも聞き覚えのある声。
「もしもし、あの、もしかして舞さんですか!?」
『もしかしなくても舞さんよ! って、その声、まさか香澄ちゃん!? なんで香澄ちゃんがそこにいるの?』
けたたましい声が、よりけたたましくなった。
「ええ、まぁ話すと長いんですけど。舞さんこそ、なんで駅に?」
『なんでって、テリーがユリちゃんにメール入れてなかった? 今日、行くって』
「ああ、あのメール! てっきり、アンディさんとジョーさんがメンバーだと思ってたんですけど、舞さんだったんですか?」
『え!? 一番肝心なこと書いてなかったの、あの男。ちょっと、お兄ちゃん!?』
そこまで言ったところで、いきなり電話が切れてしまった。がちゃんっという大きな音がして、香澄は耳を押えてしまった。
「舞さんがいるの?」
耳を押えながらキッチンに帰ってきた香澄に、ユリが驚いたように声をかける。
「はい。テリーさんも一緒みたいですよ。アンディさんとジョーさんじゃなかったみたいですね」
聞いて、ユリは心底ほっとしたような顔をした。ジョーがいないらしいというだけで、心象はかなり違うらしい。これはこれで、ジョーには失礼な話だが。
「舞さん、テリーさんのこと「お兄ちゃん」って言ってたみたいですけど…」
「ああ、舞さん、アンディさんと結婚するつもりらしくてさ。テリーさんのこと、ずっとそう呼んでるの。それより、こっちのお兄ちゃんに迎えに行かせなきゃね。香澄、ちょっとお兄ちゃんに言ってきてくれる?」
「あ、はい」
香澄はスリッパを鳴らして、キッチンを出て行った。
そして12時30分、サカザキ家が一気に賑やかになった。
リョウに先導されるように、三人が入ってきたのだ。先頭のテリーはわかっていたのだが、それに続いて入ってきたのは、香澄とユリの想像を覆す、不知火舞とマリー・ライアン(「ブルー・マリー」という通称のほうがよく知られているが)だったのだ。
「やほー! ユリちゃん香澄ちゃん、久しぶり! 元気してた!?」
「とっても元気だよ! 舞さんこそ、元気そうじゃん! マリーさんも、元気そうですね! 今日は、アントンは一緒じゃないんですか?」
「アントンは今日はお留守番よ。二人とも元気そうでよかったわ」
香澄とユリ、舞とマリーの四人は、抱き合うようにして再会を祝した。それもそのはずで、この四人は香澄がKOFに初出場したときのチームメイトなのだ。古い表現を使えば、大会期間中の約二ヶ月間、「同じ釜の飯を食った仲」なのである。
不知火舞は日本の忍者の血を現代に受け継ぐ不知火流忍術の継承者で、ユリよりも長いストレートの黒い髪とスタイル抜群のダイナマイトバディの持ち主である。闘いの場には、肌の露出の極めて多い艶っぽい衣装で赴くのだが、今日は紺のスーツに同色のタイトスカートを身に着けている。ユリより1歳の年長でしかないが、色っぽさでは舞には敵わなかった。
マリー・ライアン、通称「ブルー・マリー」は、金髪をショートカットにし、舞を上回るスタイルの良さが自慢の女性だが、その外見からは想像もできないが、アメリカ国防総省がSクラスと認めるほどのエージェントである。現在はフリーでやっているが、コマンドサンボの達人ということもあり、過去に仕事で何度かKOFに潜入したり参加したりしていた。この四人の中では最年長で、リョウやテリーと同年の22歳である。
ちなみに、「アントン」というのは、マリーの飼っている大型の犬(イングリッシュ・ポインター)で、フルネームは「アントニオ」だった。マリー本人が「アントン」と愛称で呼んでいるので、そっちのほうが有名になってしまっているが。
女が三人集まると姦しい、などと言うが、二十歳前後の女性が四人集まって静かになるはずもない。四人はまだ準備中だった昼食の準備のために並んでキッチンに立ち、残った男二人は、今日のために押入れから引っ張り出されたロングテーブルの端に座って、互いの近況に花を咲かせていた。
料理に関しては、四人の中ではユリと舞が双璧である。ユリのレパートリーは和洋ともに広いのだが、こと和食に関する腕前では舞の独壇場だ。ちょっと性格的には騒がしいところもある舞だが、実は料理から和裁まで家事仕事はなんでもこなし、更に忍術まで極めたスーパー大和撫子なのである。香澄の目標となる人物の一人だった。
マリーは仕事で世界を飛び回っていることが多いので、家事は殆んどする機会がない。料理は一応一通りできるが、味のほうは本人も首を傾げる。今も、なぜか始まってしまった舞の料理講座を興味深そうに聞いてはいるが、その実、手ぶらだった。香澄は熱心なのは熱心なのだが、一人で黒い煙を上げて、ユリに怒られながら舞には笑われている。
そんな状況を見ながら、暢気なのはあぶれた男二人。
「どうだ、相変わらず放浪を続けてるのか」
リョウはビール缶のプルトップを開けながら、尋ねた。テリーも渡された缶を開け、リョウが驚くほどのスピードで一気に飲み干した。普段は夜にしか酒をあけることはないが、今日は特別だ。
「いや、最近はマリーの仕事に付き合うことが多くてな、派手にドンパチやってるよ。おかげで暇はしてないぜ」
テリーが豪快に笑いながら言うと、しっかり聞いていたマリーが「なんなら暇をあげましょうか!?」と笑いながら言った。テリーは苦笑しながら、ビールを持った手をひらひらとマリーに振ってみせる。
「まぁ、壮健ならなによりだ。だとしたら、サウスタウンは久しぶりじゃないのか」
「かれこれ二年ぶりかな。親父の墓にも久しぶりに参ってきたよ」
「なんとまぁ、親不孝なことだ」
「違いねぇ!」
言いながら、二人して大笑いしあう。
今この場にいる者の中で、両親が二人とも存命しているのは香澄だけである。全員、わけありではあるのだが、それを乗り越えて語るだけの強さは皆持っているのだった。
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(06.06.21)
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