よけいなひとこと

 散文を使い、何度も物語るとしても、私が今見たような流血や傷害の様を、存分に言い尽くせるような人がいるだろうか?
 これだけのことを把握すつには人間の言葉や頭脳では力が及ばない。
 それでどうしても舌足らずになってしまうのだ――

第二十日

 駅前で通り行く人たちを捕まえて、
「私にじゃん拳で三連勝したら、あなたの言い値を支払いましょう。逆に私が三連勝したら、あなたから私が言い値をいただきます」
 というゲームを始めた。
 三人目の相手で、私の借金は20億円をこえた。
 私はどうと倒れ、三日間、湿った札束の布団で眠る幻想を見た。

第十九日

 久しぶりの飲み会である。私もつい浮かれていたのであろう。
「お姉さん、ビールどんどん持ってきて!!」
 お姉さんたちは、一瞬驚き、そして笑顔で視線を確かめ合う。
 そしていざやってきたものは、水族館でもなかなか見ない大きさの水槽に、並々と溢れるビールであった。
「水槽込み、ビール1億円はいりまーす!!」
 私はどうと倒れ、三日間ペンギンに踏まれる夢を見た

第十八日

「いまだに「うちだまれい」と読んでしまうのだ」と私は素直に告白した。
すると我が友は、テーブルの上に釘バット、コンバットナイフ、そして拳銃を並べ、静かに言った。
「さあ、死に方を選びたまえ」
私はどうと倒れ、三日間、熊本弁による幻影を見た。

第十七日

「今場所、お前の出身地の力士は幕内におる?」
「私はディズニーランド出身なので、今はいませんね」
 刹那の間も空けずに、友人の掌底が私の鼻に叩きつけられた。
 友人の激しい怒りは電撃を伴って私の脳髄を打ち、そのまま後頭部へと抜けた。
 私はどうと倒れ、三日間、無意識のうちに塩で清められた。

The 16 days.

 I asked him to lend him a mystery novel.
 I had marked all the names of the murderer.
 I was almost killed by him.

The 15 days.

 I used to borrow a cartoon of sexual content from a friend.
 I repainted the naked woman from the neck down to a mosaic.
 And I returned it.
 I was almost killed by him.

第十四日。

「とりあえず人型のロボが銃を撃ってりゃガンダムなんだろ?」
 私の失言だった。今思えば、それが彼を狂わせた。
 まるで怪物クランプス。20年来の親友であった彼は怪物のような形相で、私の顔を、腹を、胸を、親を殺されたかのように激しく殴り続けた。
 私は、どうと倒れた。彼は、泣いていた。三日間、その風景は変わることはなく……。

第十三日。

 二人きりのレストラン。話題作りは大切だ。
「実は、私が手越に変わってNEWSに……」
 次の瞬間、私の首筋にナイフが刺さった。二秒後、前後左右、視界に映る空間のすべてから芸術的なまでの数多のナイフが、私の全身に突き立てられた。
 私はどうと倒れた。薄れいく意識の中で微笑む彼女を見、私は三日間満足して生死をさ迷った。

第十二日。

 行きつけの床屋は、落ち着ける場所だ。
「福山雅治にしてくれたまえ」
 冗談交じりに言った途端、櫛の柄が、私の左右のこめかみに突き刺さった。
「坊、鏡見ろや……」
 私はどうと倒れ、三日間、神経のきしむ音を聞いていた。

第十一日。

 本が読めるようになった図書館で、私は熱中していた歴史小説に一息ついた。
「やはり、読書は宝だ」
 次の瞬間、隣の席の老人の親指が鉄の鈍い光をはなったかと思うと、私の喉に深々と突き刺さった。
「競馬新聞こそ至高よ……」
 老人は立ち去った。私はどうと倒れ、三日間、名馬の幻覚を追い続けた。

第十日SP。

 私は、経営を再開した友人のうどん屋に、花束を抱えて訪れた。私は彼のために何もできなかったが、彼は私のために特別な一杯を作ってくれた。
 うまい! だが次の瞬間、鼻の穴、耳の穴、口と、私の身体の穴という穴からイキの良いうどんが触手のように飛び出て震えているではないか!
「貴様の持ってきたマリーゴールドの花束。花言葉は「嫉妬」「絶望」そして「悲しみ」。その触手うどんは、貴様に対する私の感謝だよ」
 私はどうと倒れ、三日間、巨大なたわしのように自分の身体から生えたうどんに包まれていた。

第九日。

 私はコールドスリープ装置に横になった。冬眠期限は1年間だ。ゆっくりと蓋がしまり、その窓から秘書が笑顔で手を振ってくれていた。私も笑顔で手を振り返した。
「君に一年分の愛をのこして眠るよ!」
 徐々に蓋が閉まる。そのさい、秘書の小さな声が聞こえた。「1年を1億年に設定変更できる?」
 私はどうと倒れ、三日間、一億年後の挨拶を予想したが、考えるのをやめた。

第八日。

 落としたハンカチを拾ってくれた友人に、私は頭を下げた。
「ありがとう、Mr.ハルッケンドルフボリビアスカエサルマケデュニアスダザブ……ッ」
 私は失礼にも名前の途中で舌を噛んだ。口から邪教の経典のように紅いものが滴る。
 長い名前の彼は微笑んでいた。
 私はどうと倒れ、三日間、クロロホルムに似た香りを鼻に残し続けた。

第七日。

「アイスコーヒーと、あとスマイルを」
 私の親愛の一言に、女店員は無表情のまま、持っていたメニューを刀のように振り、目前の空気を真横に凪いだ。
 瞬間、私の胸はまるで悪魔の口唇のように斬り裂かれ、血がしぶいた。
 女店員は満面の笑みだった。
 私はどうと倒れ、三日間、潮騒だけを聞いていた。

第六日。

「買い取り番号○○番の方」
 ああ、ついに私の番が来た。あの逸品は、一体いくらの価値がつくのだろう。胸を踊らせながらカウンターに立った私の心臓を、怒りに乱れる店員の光速の拳が貫いた。
「この塵芥ちりあくたを買い取れとは、貴様、鬼畜生か!!!!」
 私はどうと倒れ、三日間、私は自らの腐臭を嗅いだ。

第五日。

 私は友と窓の外を降る雨を見ながら悄然としていた。私は雨の中に悲しみを見、つい感傷的に呟いた。
 途端、友は鬼と化し、そのおとがいは耳まで裂け、腕は鞭のようにしなって私の首をつかみ、顔を窓に叩きつけた。
「お前の悲しみなど、蟻の糞にも劣るわ!!」
 私はどうと倒れ、三日間、脳髄の冷えが四肢を凍らせた。

第四日。

 大きな荷物を持った老婆に、私はできるだけで笑顔で冗談を交えつつ、助力を申し出た。
 瞬間、老婆の目と口の端がこれでもかと吊り上がった。老婆は獅子のような怪力で、私の腕を捻り上げた。
「この世に虫一匹、貴様に助力を請う生命がいるか!」
 私はどうと倒れ、三日間、私の肺腑は恐怖に痙攣し続けた。

第三日。

 上司から求められた意見を、私はユーモアを混ぜて微笑みながら披露した。
 途端、上司は笑顔のまま獣のごとくテーブルの上を跳躍し、私の頭をテーブルに激しく叩きつけた。
「明日、お前が海で見つかるのが楽しみじゃなあ」
 嗤う声が聞こえる。
 私はどうと倒れた。三日間、私の意識は真っ白であった。

第二日。

 私は教師に指名され、立ちあがり回答した。その直後につい軽いく一ネタを挟んだ。
 私を見る女教師の笑顔は見る間に狂気に支配され、視線も言葉もまるで化け物のそれであった。
「貴様、この学校で命があるのはお前だけやないんぞ、あぁ!?」
 私はどうと倒れ、三日間、瞳は光を感じなかった。

第一日。

 談笑の最中に、私はつい、思い付きの1ネタを会話に混ぜた。友人の笑顔は見る間に強烈な怒色に塗り替えられた。
 彼は私の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せ「お前、明日も手足が繋がってると思うな……」と、怒りに熱い呼気を吐き出した。
 私はどうと倒れ、三日間心臓は凍りついたままだった。

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 時々Twitterでつぶやいている管理人の日常をまとめなおしたものです。

(初:2020.05.19)