覚醒都市(下)

「気が利くね」
「気配りのできる男を自負してるからな」
「何それ〜、ふふっ」
「冗談だ、ははっ」

 二人して笑う。可笑しそうに笑いながら、少女は青年の前まで歩いてきて、止まった。足下は虚空。同じ高さになると、少女の背丈は青年の肩あたりまでしかないことがわかった。
 想いを言葉に変換しているのか、少女は数瞬口をつぐんで足下の虚空を見つめていたが、やがて顔を上げると、青年を見上げ、語り始めた。

「私ね、怒ってるの。苦しくて悔しくて、もうどうしようもないくらい腹が立って……現実から逃げて来た。夢の中には自由があった。おかげで今はとっても楽しい。でも、楽しい夢の時間が終われば、私の自由は現実がとっていっちゃう。私の自由は今だけなの。私に感謝するどころか、私の存在を知りもしない人たちのために、私は街に囚われなくちゃならない。街はひとりじゃ歩いてくれないから。ひとりぼっちになると、こんなふうに永遠に眠り続けちゃう。ひとりぼっちは私も同じなのにね。ほんと、手のかかる子供」

 少女の口から自嘲の笑みが漏れる。青年は物言わず、ただ次の言葉を待つ。
 少女が続ける。

「ずるいよね、みんな。なんで私ばっかりこんな不自由な思いをしなきゃならないの? みんな、私のことなんて知らないくせに。誰のおかげで毎日を過ごせると思ってるのよ。……なーんて言っても誰にも聞こえない。あーあ、私だってみんなと遊んだり、どこか遠くに行ってみたりしたいのになー。……ああ、なんて哀れな運命なのだろう……きみもそう思うだろ? 思うよな?」

 少女が芝居がかった口調でおどけて見せる。
 青年も調子を合わせ、

「ああ、思う。思うとも。私も貴女と同じ、囚われ人。気持ちは痛いほどわかる」

 少女の笑みの種類が変わった。

「ノリいいね」
「ノリのいい男を自負しているからな」
「最初は仏頂面だったくせに〜。こーんな感じの」
「よせ、綺麗な顔が台無しだ」
「わ、口説かれてる?」
「何でそうなるんだ」

 しばし、二人は笑いあった。
 そして、少女はやおら、青年の手を両手で包み込んだ。

「あったかいね」

 少女の視線は両手で包むぬくもりに。少女の手に、少し力がこもる。

「こうして誰かに触ったの初めてだよ。すごいね」

 青年を見上げ、満面の笑み。不意にその笑みが、いたずらっ子のそれに変わり、

「こうするともっとあったかいかな?」

 少女が青年の背に手を回し、二人の距離がゼロになる。
 青年は、拒まなかった。そっと少女を包み込む。
 二人とも無言でお互いの存在を確かめる。自らの身体でしっかりと確かめる。
 そのままで、少女が続けた。

「こっちにはね、自由しかなかった。ひとりぼっちなのは変わらなかったよ。でもきみと出逢って、今はきみがいるならこのまま夢の中にいたいなって思ってる。……きみと恋ができたら素敵だな、って」

 紅い頬を隠すように、青年の背に回された腕に、力がこもる。二人の身体がこれ以上ないほど密着する。そして、少女は束縛を解いた。

「でもね、それはダメだってわかってるよ。私には使命がある。きみにも、だよね。だから、無理じゃないけど……ダメなんだ」

 少女は笑った。思えば青年と出会った時から、彼女はずっと笑っていた。こんなに寂しそうな笑顔は初めてだが。
 青年も束縛を解く。そして小さいがはっきりとした声で、

「そうだな」

 呟いた。

*  *  *

 城壁に囲まれたこの街の唯一の入り口であり、出口。青年の背中の絵が生まれたこの場所で、青年と少女はふたり、向かい合っていた。

「そろそろ……起きるか?」
「うん、いろいろありがとう。会えてよかった。」

 最後まで笑顔。青年もそれに応えてやる。

「こちらこそ。美しい姫に想われて、私は幸せ者だ。」
「ふふっ、愛してるわ、王子さま。忘れないでね」
「もちろん。……じゃあお別れだ。目を閉じて」
「うん……さよなら王子さま」

 眠れる姫を起こす方法、そんなものは万国共通だ。
 少女が目を閉じ、少し顎を上げる。
 そして、青年の唇がゆっくりと少女に近づいていく。彼女のただ一点を目指して。瑞々しい唇がゆっくりと近づく。
 そして――


「起きろぉ――――――っ!!!」

 雷にでも打たれたかのような少女の顔を、ウインクでお見送り。少女の身体は雲散霧消し、それに呼応するかのように、街の時が動き出す。湖にさざ波が立ち、建物の海に灯りがともる。大時計の針もゆっくり歩き始め、街中に人の声が戻る。風が吹きはじめた。

 青年はその様子をじっと見つめていた。少女の街に、時が戻る様を、ただじっと。

 ――額縁の内側に、時が戻る瞬間をしっかりと見届けた。

 少しも揺らぐことなく青年の横顔を映す湖面に、さざ波は見当たらなかった。

 顔を上げた青年がぽつりと呟く。

「こっちは誰が起こしてくれるのかねぇ」

 この街に、変化はどこにも見あたらない。

「ついでにオレもこの悪夢から起こしてくれるとありがたいんだけどね……それとも、もう起きてるのかな?」

 自嘲するように呟き、笑いが漏れる。
 かぶりを振って絵を背負い直し、歩きだそうとして――

「……!」

 ――額縁から聞こえる喧噪の中に、憤慨する子供っぽい声を聞いた。
 青年の口から、先程とは違う種類の笑みが漏れる。
 そして一言、

「おはよう」

 はっきりと呟いて、歩き出した。

 現実? 夢? わからないまま――

 青年は、夢を見ている。

十波様COMENT

 まずは一言。何の話だこれ?w 思えば
「『覚醒都市』っていうタイトルの話を創ろう。ふはははは、我ながらなんてしゃれたお祝いなんだろう」
……なんていう独りよがりな思いつきから始まったこの話。いざ書き始めると、どんどん謎の世界観ができあがってしまい、結果なんだか訳のわからない話になってしまいました。はは……ブランクって怖いなぁ。などと言い訳してみます。むなしい〜(泣)かなりすらすら筆が進んだので、おっ、意外と衰えていないぞ、な〜んて思ったのも束の間、読み返してみてなんじゃこりゃ! うあ〜、反省あるのみです……。
 さらに、今恐ろしいことに気づいてしまいました。

「あ、都市出てこねぇな、この話」

 ぐはっ! 致命傷……急いでタイトルに(?)をつけなければ……。なんかもうスイマセン、粗だらけかもしれませんが、今回はこれでご勘弁を〜!

 今TVでは、トリノ五輪生中継中ですw 深い時間だからなのか、自分の頭も変な方向に冴えてしまって、いろんなネタが浮かんできます。次回の大きなお祝いでは、この汚名必ず返上して見せますよー、今日から特訓だ!w
 とりあえず今頭にあるネタを挙げると――

・覚醒と死
 少年に目覚めたのは、狂気という名の凶器。少年の求めたもの、それは――。となみが贈るサイキックスリラー!

・覚醒! トシ
 時は満ちた。ついに目覚めの時を迎えた風乱の爆笑王・腹芸のトシ、お笑い界に殴り込み! となみも笑う芸人奮闘記!

・隠せ! 伊東市
 敵は全伊東市民七万人以上。大富豪の戯れから始まった、伊豆半島に眠りし秘宝、三日隠しきればあなたのものに!
 という企画。男三十、友に騙され借金まみれの文梨雄はその企画に飛びついた。見つけた人には金一封、梨雄に味方はひとりもいない。誰もが無理だと思っていた。しかし梨雄は諦めない。見ていろ伊東市、奇跡とはこうやって起こすのだ! となみもびびるミラクルハートウォーマー!

・隠せ! 伊藤氏
 警察のでっちあげで濡れ衣を着せられ、逃げ続けてきた伊藤。時効まであと一日というところで彼はとうとう追いつめられてしまった。そんな伊藤をひょんなことから助けることになった新米刑事・隠平。あと十二時間、隠平は伊藤を隠し通すことができるのか――。隠せシリーズ第二弾、となみも逃げる(?)大人のかくれんぼストーリー!

・学生同士
 高校一年生の男の子と小学一年生の女の子。歳は離れているけれど、二人とも同じ、学生と呼ばれる身。年の差なんて関係ないさ! となみが萌える(嘘)年の差青春ラブストーリー!

・国際都市
 いや、なんかほら……字面とか……さ? となみが謝る勘違いノベル!

・惑星―ホシ―
 大宇宙をたゆたう神秘。空を見上げりゃほらそこにある……。見る者を惑わす輝き、人はそれを惑星と呼んだ。となみがオペる(謎)スペース・オペラ!

・学生同士〜二年生になりました〜
 また春が来て、二人は少し大きくなりました。様々な障害と闘い、時に悩み、励ましあいながら、今日も二人は大人の階段を登るのです。となみも泣いた! 年の差青春ラブストーリー第二弾!

・架空生徒C
 高校生・栄太の夢はイラストレイター。今日も今日とてレッツ創作! その日彼が生み出したオリジナルキャラの名前はC。気配りのできるハンサムボーイだ。……そして翌日、登校した栄太はその目を疑う。栄太と同じ学ランを着て平然とクラスメイトと談笑しているのは……。C、どうしておまえがここにいる!? となみが創るお絵描きミステリー!

・目覚ましなんていらねぇよ、むつ
 むつ市に新法
「早起き禁止法」
が施行された。早起き一筋三十年、早朝のジョギングだけが生き甲斐という男・紀章にとってこれは由々しき事態。そんな紀章に市の魔の手が伸びる。むつ市が手始めに目覚ましの一斉排除を行うと発表したのだ。十年以上、紀章に朝の到来を伝え続けてくれた目覚ましと、お別れ……? そんなの認められるかぁっ!!
 その日、おっさんは戦士になった。おっさんVSむつ市! となみも起きる、早起き推奨戦記!

 ……書き上げられそうなの一つもないやw
 お祝いなのにふざけてばかりでごめんなさい。でももはや勢いでごまかすしかないのです(泣)
 えー、何はともあれ(?)一周年、本当におめでとうございます!!
 これからもどんどん突っ走ってください。お互いがんばりましょうね!

KEEF COMENT

 となみさん、ありがとうございました!  ご本人は謙遜されてますが、私は好きですね〜、この世界観。あるがままに受け入れる“お姫様”も、それを受け止めきった“王子様”も、なかなかに素敵だと思うわけです。
 それと、読ませて頂いてて思ったんだけど、私などが言うのもなんなんですが、となみさん、めっちゃめちゃ文章が上手くなってます! 新サイトではブックレビューを中心に活動されてますが、小説は書かれないのでしょうか? うー、新作が読みたいですよ。
 そして、あとがき後半の企画群。やべぇ、どれもツボだ(笑)。