儚くて美しいものD

「あー……クソ……」

「おかえりー」

「って、おい」

「ん?」

「なんだ、この有様」

 しばらくしてリビングに戻って、俺は呆然とした。仲良くコタツにくるまって、神崎姉妹が寝息をたてていた。

「まぁまぁ、頑張った方でしょ。これ以上は酷ってもんよ」

「それはわかるが……一体、今日は何だったんだよ?」

 手酌している雪姉に、俺は項垂れて問いかけた。
 出会って、約束して、七年目の記念日。しかし、阿鼻叫喚の宴と化していた。
 もっとこう……。

「しっとりと過ごしたかったって?」

「まぁ……」

 そんな柄じゃないのはわかっているが。楓はそういうのが好きなんじゃないかと、思っていたのだ。

「でも、楓ちゃんが望んだのは、こういうモノなのよ?」

「え?」

 ぽつりと呟いた雪姉の言葉に、俺はその顔を上げた。

「楓ちゃんは、こんな風に騒いだりした事無かったから」

「そ、そんな事無いだろ? 翔子とか由美達と遊んだ事だって―――――」

 不意に、俺は言葉を止めていた。雪姉が……とても悲しく微笑んだから。

「いつか……こんな瞬間に巡り合えるといいね」

「何言って……」

「綾が待ち続けてれば、きっといつか叶うから」

「だから、何言ってんだよ!?」

 わけがわからなくなって、ついに俺は叫んでいた。しかし、雪姉は悲しげな表情のまま、静かに笑う。

「もう朝が来ちゃう」

「はぁ? さっき日が変わったところだろ」

「朝が来れば、この世界も消えちゃう。だから……」


 そう呟いた瞬間に―――――世界が消えた。


『きっと……もうすぐ会えるから』

 酷く懐かしい声で、『俺』の視界は黒で塗りつぶされた。


 目を開ければ、朝だった。何も変わらない、いつもの部屋。
 自分のベッドで、俺はその身を起こしていた。

「…………あれ?」

 我ながら、間の抜けた声が零れ出た。頭は全然痛くない。二日酔いを覚悟していたのに。
 むしろ、好調。すぐにでも、かかり稽古ぐらい出来そうだ。

「……やっぱ、か……」

 低い声で、呟く。全て覚えていた。
 頭の何処かでは、確かにわかっていたのだ。求め続けていた、小さな幸せ。
 決して、大仰なものが欲しかったわけじゃない。平凡で、どこにでもあるようなもので良かった。
 それすら―――――夢でしか叶わない。

「……楽しかったなぁ」

 俺の知らない楓がいた。でも、あの頃のままの楓がいた。幸せそうに笑っていた。俺も……楓も。

「…………」

 もう一度ベッドに倒れこみ、目を覆う。
 ため息一つ。
 あのまま―――――夢の中に居られたら。

「―――――なんて言ったら、怒るよな?」

 お前はずっと夢を見てるんだから。

『きっと……もうすぐ会えるから』

 あれは誰の声だったんだろう?
 楓でも、霞でも、雪姉でも無かった。でも、いつか聞いたような、懐かしい声。

「うっし」

 反動をつけて、起き上がる。
 夢でもいい。嘘でもいい。それらはいつか薄れて、忘れてしまう。でも、現実は色褪せない。
 形は変わっても、醒める事は無いから。

「今度は……もっとペース考えてやろうな」

 俺にしかわからないかもしれない。再現する事は、難しいかもしれない。
 けれど、楓が望んだ事があの夢であるのなら。

「さ、朝飯の用意だ」

今日の朝は、いつもよりも気合が入った。

ALICE様 COMENT

 えーと、コレが最初に考えた方のSSです。
 何でしょう? 雪姉がいれば雰囲気も明るくなるんですが、神崎姉妹が出ると悲しくなります。
 わざわざ、「その先」をリクエストしてくれたKEEFさんには、とても申し訳なく思っております。
 一回読んだだけでは、理解できない内容ですが……。本編が終われば、こんな感じに収まるかと。
 冬はともかく、ほのぼのには出来ませんでした。いつもシリアスっぽいものになってしまう……。
 やはり二本目の方が楽しめるんじゃないかと。雪姉のキャラが最大の救いですね。
 個人的には、結構書き易かったんですけどねぇ。壊滅的なまでに、一人称しか書けません。
 おそらくKEEFさん以外の方には、「なんだよ、コレ?」と唾を吐きたくなるようなSSですが、 少しでも興味を持ってくれれば、有り難いです。いや、ホントに。
 では、KEEFさん。この度は、50.000HITならびに、一周年!
本当におめでとうございます!!

KEEF COMENT

 はい、ALICEさん、ありがとうございました! 当サイト50000ヒット記念に頂いたニ作の、一作目でした!
 いや〜、まさか二本も頂けるとは思ってなかったので、感謝感激雨あられでございます! (>▽<)/。・。・°★・。・。☆・°・。・°
 今回は、ALICEさんの大長編オリジナル+クロスオーバー作品「その先」より、リクエストさせて頂きました。お応えいただいて、本当にありがとうございました! (>▽<)/。・。・°★・。・。☆・°・。・°
 夢を見ているとき、そこが「夢」の中なのだと自覚できる夢を「明晰夢」といいますが、綾人にとって今回の明晰夢が、彼にとって前向きな行動の源にすることが出来ればいいですね。楓の望んだ夢が、幸福に実現されることを、願わずにはいられません。