儚くて美しいものB

「ただいま」

「おかえりー」

 予想通り。雪姉はコタツにくるまって、ダラけていた。

「こんにちは、雪音お姉ちゃん」

「お邪魔しますね」

「うん、いらっしゃい。二人とも、ゆっくりしてね。準備は綾がしてくれるから」

「アンタだけ飯抜きだ」

「ち、ちょっとした冗談じゃない!」

 ガバッと身を起こす雪姉。なら、初めから言うんじゃないっての。
 それはともかく、早速取り掛かるか。

「そうだな……。楓は野菜切ってくれるか? 霞はご飯炊いてくれると助かる」

「うん、わかったっ」

「お安い御用です」

 答えるや否や、すぐに動いてくれる二人。うん、本当に助かる。

「綾ー、あたしは何すればいいの?」

「雪姉は……鍋出しといて」

「あたしだけ扱いが酷いー!」

「そう言われてもな……。台所に三人は狭いだろ」

 二人で並ぶならともかく、三人もいては、むしろ邪魔だろう。

「じゃあ、鍋は俺が出すから。霞が終わり次第、楓の手伝いね」

「はーい」

「よし、じゃあ頼んだ」

 雪姉もコタツから出てきて、戦線に加わる。いっつもそうしてくれると、大助かりなんだが……。

 それはともかく、楽しかった。いつもは二人。だけど、今は四人。
 それが、心許せる人ばかりだからこそ――――――


「ええと、早炊きで良いんですか?」

「ああ、ありがとな。冷たかったろ?」

「いえ、言ってくれればいつでも手伝います」

 柔らかく微笑んで、霞は炊飯器のスイッチを押した。よし、これで飯はオッケー。

「綾ー、鍋暖まって来たよー」

「そっか。楓、そろそろ昆布出して」

「ごめん、お姉ちゃん。菜箸取って」

「あたしが使ってたんだっけ。ごめんごめん」

 テーブルの椅子に座って、仲良く支度を進める二人。その傍らには、ほどよい大きさに切られた野菜が沢山。あとは冷蔵庫から肉、か。

「俺達も座ろうか」

「そうですね。お酒はどうします?」

「んー、霞も飲むか?」

「え……えぇ!?」

「ちょっとぐらいならいいだろ。じゃあ、三本でいいや」

 慌てる霞に笑いかけながら、俺はコップを抱える。楓と霞でも、二人なら一缶ぐらい空けれるだろう。無理でも、雪姉が処理するし。

「今日ぐらい、霞も羽目を外してみろって」

「……どうなっても知りませんからね」

 少し非難めいた口調だったが、その顔は確かに笑っていた。

「もう野菜も入れていいのかなー?」

「ああ、適当にブチ込んで蓋しといてくれー」

 冬といえば、やはり鍋だ。美味いし、体も温まるし、何より楽しい。こればかりは、多人数じゃないと出来ない。
 だけど―――――今日は四人一緒だから。

―――――叶わなかった、あの頃の残滓が今―――――





 そろそろいいだろう。鍋の蓋を開けた瞬間、すごい量の湯気が立ち上った。
 その中身は、グツグツと音を立てて、俺達を急かしているようだった。

「美味しそうだね!」

「あはは、鍋なんて久しぶりね」

「父さん達が引越してからは、数えるほどだったし」

「家でも、そんなに多くはなかったですよ」

 それぞれに感想を述べながら、器に移していく。全員が満たされたところで、雪姉が缶ビールのタブを開けた。

「あ、お姉ちゃん。私が入れますよ」

「そーお? じゃあ、お願いね」

「綾人君は、私がやってあげるよ」

「ん、サンキュ」

 自分のコップに、なみなみと注がれていく液体。これが瓶だったりしたら、もっと雰囲気出たんだろうなぁ。などと、馬鹿みたいな考えが浮かぶ。ホントに馬鹿だ。

「んじゃ、楓もコップ。今日は飲め」

「えぇ!?」

「たまには付き合えって。コップ一杯でいいからさ」

「う、うん……」

「それなら、霞ちゃんも飲まないわけにはいかないわねー」

「……もう諦めてます」

 若干抵抗のある楓と裏腹に、既に霞のコップはビールで満たされていた。雪姉の隣だったのが、最大の間違いだったな。
 もっとも、仕方ないと云えば仕方ないのだが。

「綾と楓ちゃんの七周年を祝って! さぁ、一気!」

「「「乾杯は!?」」」

 フライングの宴の開始。
 そのツッコミは、抜群のハモリで入れられる事になった。

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