クォ・ヴァディス 95

15-9

 キカ。この名が群島に与える影響力の大きさは、この物語の中で何度かふれてきた。
 リノ・エン・クルデス、カタリナ、ラインバッハ二世、クレイ、マクスウェル、この事件に関わる主な人間は皆、その影響力について考慮し、早いうちから接近することを求めながら、接触に成功したのはマクスウェル一人であった。
 これは、海賊という、本拠を知られにくい立場などをはじめ、いくつかの偶然が影響した。
 接触の方法について、リノ、マクスウェル、ラインバッハ二世の三者が三様の手段を求めた。
 リノはキカに関係があるであろう海賊と接触をもとうとしたが、彼自身が過去、何人かの海賊を血祭りに上げているためか、海賊たちに恐れられる存在であり、なかなか上手くいかなかった。
 ラインバッハ二世は、キカたちの勢力が自分たちの妨害をしている事を知った上で、その妨害を行ってくる海賊たちと交渉の機会を持とうとした。実際、これは上手くいきかけた。
 キカのほうでもラインバッハ二世を嫌いながら、彼の一挙手一投足に注目していた理由として、彼の船を結局は一隻も沈めていないことがあげられる。
 グレアム・クレイがラインバッハ二世に進言したように、もう少し時間をかけて交渉のタイミングを見極められれば、直接、同じテーブルに着くことは不可能でも、書簡の往復ぐらいは可能だったかもしれない。

 だが、歴史上に残る事実としては、この時期、キカとの接触に成功したのはマクスウェルのみである。
 それは、キカの周囲を探るという回りくどいことをせずに直接使者を派遣するという、マクスウェル特有の腰の軽さも大きかったであろう。
 国王という立場に縛られたリノや、権力の中枢にいて一国を裏から操縦していたラインバッハ二世と違い、マクスウェルは周囲に遠慮すべき何者もなかった、ということもあるが、なによりもキカがマクスウェルに対して好意を持っていたことも大きいだろう、と、後の歴史学者ターニャは思っている。
 もちろん、この使者が上手くいくという保障はどこにもなかったし、使者が失敗すればマクスウェルの歴史の一ページに、小さいとはいえ麗しくないダメージが残ったかもしれない。
 当然、マクスウェルはキカに接触するために最善のルートを用意した。最善の使者、最善の手紙、そして最善の「状況」。

 使者の人選に当たっては、マクスウェルは迷わずにアカギとミズキを指名した。
 余計な大口が嫌いなキカを刺激せぬためには、無駄口の多い「頭でっかち」な「論客」ではいけない。彼らの「正論」な論法が海賊の荒々しい生き方と合致するとは限らぬし、逆に波風を立ててしまうことも考えられる。
 そして、場所も定かではない海賊島に行った経験を持つ者。
 マクスウェルは海兵学校の出身という経歴を生かして、キカの海賊島の位置を多少ながら察知することができた。当然、同門のケネスやカタリナ、そして海図制作が趣味というハルトを部下に持つリノ・エン・クルデスも、おおよその位置はつかんでいたと思われる。
 この事件の主な関係者の中で、海賊島に一度も行ったことのない者は、皮肉にもラインバッハ二世とグレアム・クレイの二人だった。
 とにかく、最も遭難する可能性の少ないルートをアカギに託し、マクスウェルは二人を送り出した。
 成功するか失敗するかという心配は、マクスウェルはまったくしなかった。それこそ、ナ・ナル島の事件をたった二人で解決したアカギとミズキに、マクスウェルは全幅の信頼を寄せていた。

 そして、最善の「手紙」。
 これも、前述の人選と重なるが、キカを失望させることなく味方に引き込むには、大口などいらなかった。
 多くの海賊がそうであるように、キカも「理」では動くまい。彼女は「利害関係」というものを備えており、自らの利になるような説得でもない限り、その重い腰を上げないだろう、とマクスウェルは読んだ。
 それゆえに、手紙の内容は一点に絞った。キカであればこそ腰を上げなくてはならない「理由」を作ったのだ。
 同時に、使者のアカギとミズキに危害が加えられないような「理由」を。
 こうした涙ぐましい努力の末に、マクスウェルはキカとの接触に成功し、キカはマクスウェルの側の人間として参戦を決めた。

 さて、それだけの存在感を放ちながら、このキカという女海賊についての個人的な情報は、驚くほど少ない。
 キカが海賊島にふらりと姿を現したのは十五年ほど前。
 誰もその存在に気づかぬうちに、ふらりとエドガー一家に加わっていた。
 ハーヴェイやシグルドはもちろん、ダリオすらエドガー一家に加わる前の話である。
 エドガー一家はキカが加わる以前から強力な存在であったが、その脇を固めるのは同盟者であるブランドのみであった。

 だがある日、エドガーは海賊島で戦いの垢を落としている最中、偶然キカを発見した。
 夜の帳が下りようとする手前、海が夕日の赤に染まる中、エドガーは無言でキカを視界に入れてから、いきなりその主装である二刀流を抜いて襲い掛かった。あるいは何かを確認したかったのかもしれない。
 まるで獣の牙のごとき鋭い一撃を、この正体不明の女剣士は、振り向き様に腰の細剣を引きぬいて、受け止めて見せた。
 そして感情のこもらぬ瞳で非礼な襲撃者を冷静に一瞥し、こう言った。

「日が落ちたら、あんたの相手をしてあげるよ。それまでは夕日を見せてくれ」

 このエピソードは「海賊列伝」という著者不明の古い本に登場するものだが、さすがにこの装飾過剰な出来事は後の老ターニャのお気には召さなかったらしく、「フィクションであろう」と一刀両断にされている。
 だが、ある時期からエドガーがキカのことを気に入り、その側に置いたことは事実であった。
 ダリオが仲間になったころ、キカはすでに海賊王エドガーの恋人として、海賊島で隠然たる影響力を持っていたことは、ダリオ以外にも複数の証言者が語っている。

 この正体不明の女剣士は口が少なく、生年すらエドガーに語っていなかった。
 もっとも、べらべらと口数の多いだけの女を、その気になれば毎夜のように違う女をベッドにさらえるであろう海賊王が好んだか、といえば回答はノーであったろうけれど。
 少なくともエドガーは、キカの女としての一面だけを気に入って側においているようではなかった。
 キカは不思議な存在で、剣を取らせてはエドガー以外の誰にも負けなかった。
 群島では彼女一人だけが持つ特殊紋章「隼の紋章」の特性を生かして、素早い一撃を相手の何倍ものスピードで繰り出しつつ、相手自身が気づく間もなくその命を刈っていた、というから凄まじい。
 エドガーは知らなかったが、この「隼の紋章」はカナカンという国の名門武術道場であるハイア門下で長く修練を積み、その奥義を収めた者にのみ与えられる特殊な紋章である。
 ターニャがその事実を知り、カナカンで取材を試みたのはすでに晩年も近くなってからのことである。
 残念ながら、キカの出生の秘密はカナカンでも得ることはできなかった。ハイア門下に残されたキカの資料は、「その腕見事なりて、隼の紋章の取得を許可されるものなり」という卒業免許の一文だけだった。

 このようにキカは剣の腕は際立って優れていたが、船の扱いには当初、不慣れであったらしい。
 エドガーの側にあって何隻かを動かすようになってから、同業者を相手に危うく何度か全滅の憂き目にあいかけたことがある。
 エドガーは、自分の威光を落とすであろうこの敗戦にも、キカを責めることはなかった。
 キカが申し開きというものを全くしなかったからであろうが、エドガーはブランドとともに、キカに船の扱い方や砲門の知識、戦場での戦い方などを徹底的に教えた。
 キカの覚えるスピードも速かった。エドガーは決して自分を教師面ができるような人格者であったとは思ってはいないが、それでも優秀な生徒の存在は面白かったらしい。

「教師がいいのか生徒がいいのかはっきりせぬが、こうも覚えがいいと、海賊を廃業しても教師で食っていけそうな気もするな。
 もっとも、顔が知られすぎている「もと海賊」としては、ラズリルなどで公然と教師面もできないだろうがな」

 苦笑に近い表情を浮かべて、エドガーはブランドに語った。
 こうして力をつけていくなかで、キカは一家の中心においてエドガー、ブランドに続くナンバー3の地位を自然と手に入れていた。
 エドガーがスティールとの不幸な相打ちで死亡し、ブランドが罰の紋章とともに行方不明になって以降、その勢力を引き継いだのはキカだった。
 決して幹部たちの権謀術数の末に担ぎ上げられたわけではない。自らの力で傲然と、そして公然と勝ち取った地位だった。

 さて、マクスウェルはキカについて実力でも人望でも一目置いていることは、本人の言からも明らかである。
 では好意を向けられたキカがマクスウェルについてどのような感情を抱いていたかは、後の資料は沈黙している。
 だが、同時代人の証言によって、キカがマクスウェルのことをかなり気に入っていることはどうやら事実のようだった。
 太陽暦三〇七年の群島解放戦争を契機に両名は知遇を得たが、キカはマクスウェルに興味を持っていたらしく、彼女にして珍しく、キカのほうから積極的に話しかけている。
 もっとも、このときはまだその実力を認めるよりも先に、罰の紋章への興味が大きかったらしく、話題もそれに関することが多かった。
 キカが真にマクスウェルに興味を示したのは、一年後の紋章砲弾強奪に始まるクールークの政変への介入であった。
 このとき初めて、キカは部下を連れ、マクスウェルと長い間会話している。その内容は、リノ・エン・クルデスに関することが多かったが、マクスウェル自身にもその矛先は向けられている。
 当時のハーヴェイの言を借りれば、

「まるで同格の勇者と会話しているようで、キカ様には珍しく笑顔も見られた。もっとも、その内容はまるで判じ物のようで、自分には何を言っているのかよくわからなかった」

 とあるから、いくぶん政治的な内容も含んでいたのかもしれない。
 が、どちらにしても、いつも無表情のキカから笑顔を引き出せる時点で、キカにとって彼が認められたと見るべきであろう。
 やはり自ら「キカ姉第一の子分」をもって任じるダリオにしてみれば、

「面白くねえ」

 といったところだっただろうが。

 そのキカは、マクスウェルの同盟者として参戦を決意したが、到着まではあと数日掛かるという。
 そのタイミングがどのようになるのか、マクスウェルにも予想がつかない。
 どうせなら、グレアム・クレイとラインバッハ二世を一度打ち破ってから合流し、キカに対して自慢話のひとつでもしたいものだが……。

15-10

 七月五日、無人島沖において、これまた歴史に残る一つの再会があった。
 リノ・エン・クルデスとマクスウェルが再会したのである。
 この二人の和解が連合海軍とオベリア・インティファーダの連携に欠かせぬとあらば、できるだけ早いうちに和解しておかねばならなかった。
 軍師ターニャなどに言わせれば「遅すぎた和解」であるが、表面上だけでも両者が協力するとあらば、周囲は着いてこざるを得まい。
 この両者を和解させるにあたって、連合海軍のターニャとオベリア・インティファーダのアグネスは知恵を絞った。
 私人として和解できないならばせめて、公人として先に和解させるべきだとアグネスは言った。
 この当時の両者の手紙のやり取りが残っている。

「マクスウェルさんをオセアニセス号に乗せてしまえば、こっちものです。
 リノ・エン・クルデス陛下もマクスウェルさんも、ここまでお膳立てされてしまえばともにリーダーとして断るわけにもいかないでしょう。
 お互い、公人としての人付き合いのしかたも知っていますし、少なくとも子供じゃありません。
 自分の言動のもたらす効果のほうを現実的に見ることができると思いますよ」

「できるなら、マクスウェル様がラズリルにいる間にそれを仕上げておきたいところでした。
 公人として和解することは戦いで共闘する上で当然のことですが、私人として遺恨があると公人としての判断に迷いが出る場合もあります。
 リノ・エン・クルデス陛下のそういう姿を、実際に私は一度、この目で見ていますからね。リノ・エン・クルデス陛下はどうも、マクスウェル様には意固地になることがあるようです」

「それはマクスウェルさんにも言えますけどね。
 ラズリルのときのマクスウェルさんは、明らかにリノ陛下を避けておいででした。
 フレアさんには謝罪できましたが、どうもリノ陛下のこととなると調子が狂うようです」

「……アグネスさん、われらが師より仰せつかった秘命のうちには、マクスウェル様とリノ陛下の和解も範疇のうちだと思いましたが、それをマクスウェル様に勧めはしなかったんですか」

「勧めませんでしたよ。私の仕事はマクスウェル様を一個の勢力として起たせることであって、ケンカの仲裁ではありませんでしたから」

 いけしゃあしゃあと言い放つアグネスである。ターニャはこの手紙にため息をついて額に右手を当てた。
 なんにしろ、連合海軍旗艦であるオセアニセス号のスタッフたちの間には、まだ元船長であるマクスウェルを敬慕している者も少なくない。
 彼をオセアニセスに乗せることができれば、その士気が上がるかもしれない。
 もっとも、これは一種の賭けのようなもので、ターニャはその効果を現実的に狙っていたわけではないが。

 七月五日、快晴。
 オセアニセスを含む大型艦七隻、小中型艦十七隻の艦隊でもって、連合海軍は無人島沖に碇を下ろした。
 無論、これだけの艦隊の収容能力は、無人島のオベリア・インティファーダにはないため、その港に連合海軍が直接向かうわけにはかなかった。
 リノ・エン・クルデスは、まずターニャに軍使をまかせ、親書を持たせて無人島に向かわせた。マクスウェルに無人島到着の報告をすることも大切であるが、ターニャにはオベリア・インティファーダの現状を視察してくるという重要な任務がある。
 そのターニャを、マクスウェルは異様な風体で出迎えた。
 いつもの革鎧ではなく、全身を包む漆黒のフルプレートアーマーに、これも顔の左半分を隠すようにつけられた黒の仮面というものだった。
 鎧のほうは、アグネスの苦肉の策だ。いつもの格好でリノと会うのなら、私人も公人もないが、少なくともいつもと異なる衣装で向かえば、公人として格好はつけられるだろうと読んだのである。
 仮面のほうは、マクスウェルの健康面による理由だった。彼は時折、罰の紋章の紅と黒の禍々しい文様が顔面の左半分に現われることがある。
 誰が見ても異様なその風景を、リノ・エン・クルデスに悟られまいと思ったのだ。
 おかげで、マクスウェルの姿は、どこぞの悪の将軍と言われてもまったく違和感のないものになってしまっているが。

「リノ陛下との会談の話は聞いた。世話をかけるな、ターニャ」

 確認できる顔の右半分だけで、マクスウェルは苦笑した。

「全くです。軍師としては厄介な仕事でした。この仲裁は、余計なひと手間でしたからね」

「耳に痛い」

 マクスウェルは「軍師」ではなく「軍使」としてのターニャから親書を受け取り、それを開いた。
 その間、ターニャは思考を全開にしていた。今見た光景を全て記憶し、リノ・エン・クルデスに報告しなければならない。
 それにしても、マクスウェルもおさおさ怠りない。島の防塁は長区間にわたって完成し、島の兵士たちの意気も高いようだ。
 なにより、「集落」としての完成度の高さが、ターニャをして感心させた。果たして、マクスウェルがオベリア・インティファーダをいつまでの結成と見ているのかは知らないが、このぶんだとかなり長期にわたって戦い抜くことができそうである……。

「ターニャ、返事を書いたよ」

 マクスウェルに言われて、ターニャは自分だけの思考の世界から戻ってきた。

「申し訳ありません。お返事を頂いて帰ります。では、また後ほど」

「ああ、オセアニセスでね」


 リノ・エン・クルデスの手紙は「午後二時、オセアニセス船上で」という乾燥しきった一文のみだったが、マクスウェルの返事も「了解」という淡々としたものだった。
 それを確認し、わずかに苦笑してから、オセアニセス船上でリノ・エン・クルデスは色々とターニャにたずねた。

「ではターニャ、マクスウェルは将来を見据えて戦っているというのだな?」

「はい、それが一年後か一ヵ月後かは解りませんが、長期戦を見据えての現場作りなのは間違いないでしょう。
 あの安定と頑健さは、マクスウェル様が最初から計画的に戦略に取り入れるつもりだったことを物語っていると思います」

「なるほど、一度や二度の戦術的敗北で全滅することはないと」

「ないでしょうね。彼らがどのような「単独行動」を採るつもりかはわかりませんが、それで敗北する気はさらさらないということでしょう。
 やはり、オベリア・インティファーダは強くなっています。マクスウェル様がラズリルにいらっしゃった頃とは別物です。
 そのつもりで、今日、マクスウェル様にお会いください」

「わかった」

 言ってから、リノはその大柄な身体をミレイに向けた。
 ミレイは現在、オセアニセスの新艦長として、忙しい日々を送っている。決して過去のマクスウェル艦長に対抗心があったわけでわないが、彼の偉大さを再確認することが多かった。

「過去の姿とは異なる、か。ならばこちらも、ある程度の甲冑は整えておかねばなるまい……」

 それが心理的なことを意味するのか、それとも服飾的な意味で言っているのか、ミレイにはわからなかった。


 そして午後二時、マクスウェルはオベル王国の客将としてではなく、独立した一勢力のリーダーとして、久しぶりにオセアニセスに足を踏み入れた。
 左後ろにはアグネス、右後ろにはポーラを引き連れている。
 なるほど、その漆黒の姿は、過去にリノ・エン・クルデスが目にしたマクスウェルのいかなる姿とも違っていた。
 よく言えば「新鮮」、悪く言えば「いびつ」だった。
 今にも闇に溶けていきそうなその配色は、もっともマクスウェルに似合わぬものではないか。
 彼にはもっと、陽光に散っていきそうな儚さと力強さこそが相応しい。
 もっとも、そう思うリノ・エン・クルデスとて、いつものワイルドな私服ではなくオベル国王として豪華な王冠をかぶり、白い鎧を身につけている。彼とて、いつもの「リノ」ではなかった。
 この二人は、いつもそうらしい。自分で相手に思うことが、そのまま自分にブーメランとして返ってくるのだった。

 その甲板上に一つのテーブルが用意され、一組のカップが置かれた。
 艦橋を背にしてリノ・エン・クルデスが、それに対峙するようにマクスウェルが立つ。カップの中身はリノ・エン・クルデスがワイン、マクスウェルが紅茶である。
 これは別に意図あってのことではなく、マクスウェルが下戸であることを知っているミレイの気遣いであった。
 お互いに右手でカップを持つと、その腕をぐるんと交差させた。自然、顔が近くに寄った。

「マクスウェル、お互いに思うところもあろうが、今は一時休戦と行こう。
 多くの命を預かる者同士、愚劣に判断を誤ることはない」

「わかっています。俺はいつでも、冷静なつもりです。
 ケンカの続きはいつでもできます。ここは忘れましょう」

「………………」

「………………」

 そうして、二秒半の沈黙を置いて、二人が同時にカップを仰いだ。
 同時に、連合海軍からも、オベリア・インティファーダからも、大きな歓声が上がる。
 これが不朽の和解に至るものになるかはわからない。だが、とりあえず和解はなった。
 今は同じ敵に対して牙を剥くべきときであって、味方を殴り倒すときではないことを、知悉して居る二人だった。

COMMENT

(初:16.06.05)