政策が決定して以降、オベルはにわかに活気付いた。
三月二十一日、リノ・エン・クルデスの名で、ナ・ナルに詰問の使者が送られ、五月一日と期限を区切って事態の説明を求めたが、その間オベル国内も、出撃のための準備が着々と進められた。
ナ・ナルに心理的な圧力を加えるためには、回答期限の一週間前には艦隊をナ・ナルの至近にそろえておく必要があるが、オベルからナ・ナルまでは一般的な航路で二週間かかる。
艦隊の準備にかける時間を考慮したうえで、出撃は四月九日と定められた。オベル側にも無駄にできる時間はほとんどない。
艦隊の構成については、会議の決定にマクスウェルの意見を加えて、誰を出撃させ、誰を防備に残すか、詳細が慎重に模索された。
常に国の先頭に立つ国王リノ・エン・クルデスが出撃するのは当然として、ナ・ナルの出方次第では、極小とはいえオベル本島が戦禍に巻き込まれる可能性もあるため、防備にもそれなりの陣容を割かねばならない。
結果、リノ・エン・クルデスと出撃する側にはマクスウェルとミレイ、フレアが、防備側にはセツ、トリスタン、ジェレミーが配置されることになり、兵力は半数が出撃することとされた。
二千五百人の住人を抱えるナ・ナルとはいえ、実際にクーデターを起こして反抗しているものは、どんなに多く見積もっても八百人に満たないはずである。
最悪の予想ではあるが、総攻撃で島を焦土に変えてクーデター派を皆殺しにすることになったとしても、オベルの半数の兵が出撃すれば、まず負けることはないと思われている。
もっとも、常に何が起こるかわからないのが戦争というものだ。
実際に二年前、リノ・エン・クルデス自身が、エレノア・シルバーバーグの奇策を用い、寡兵でもって大国クールークを敗北せしめている。
今回、その立場が逆転して再現される可能性がゼロであるとは、誰にも言えないはずだった。
準備と作戦には、慎重に時間をかけて検討が重ねられた。
ナ・ナル側がなにも行動を起こさず、不気味に沈黙しているかに見える一週間で、オベル側の準備は順調に進んでいる。
三月二十七日にはラズリルから艦隊派遣要請受諾の返事が届き、四月三日には旗艦ヤム・ナハルを中心に構成された艦隊が到着した。
率いているのは、ラズリル海上騎士団副団長のケネスである。
彼は、元ガイエン海上騎士団の騎士であり、マクスウェルやジュエルの同期だった。
主だった同期生のほとんどが解放戦争後、気ままな生活に走ったのに対し、彼は騎士団に残って、団長のカタリナと共にガイエンからの独立の混乱の中にあったラズリルで騎士団を建て直し、ラズリルの治安の安定化に腐心した。
現在では実質的なラズリルの統治者でもある。
公職、という意味では、マクスウェルたちの同期の中では、確実に出世頭であったろう。
そのケネスが、海上騎士団の武術師範であるグレッチェンを引き連れて、リノ・エン・クルデスと会見した。
「ケネスか、久しいな。
よく来てくれた。ラズリルの協力を嬉しく思う」
「ラズリルにとって、オベルは重要な同盟国であり、襲われたマクスウェルとジュエルは、大切な同胞です。
その危機に共に立ち向かうは、ラズリル騎士として当然のこと。
騎士団長カタリナの命により、我がラズリルは少数とはいえ、全面的に協力させていただきます」
リノの常識的な挨拶に、ケネスの常識的な挨拶が返る。
ケネスはまだ若いが、こういう公式的な場での立ち振る舞いを、完璧に行うことができる男だった。
その点では、海兵学校の生徒だった当時から、随一だったといってよい。
一通りの挨拶と、作戦の目的と確認がなされた後、ケネスらはリノ・エン・クルデスの前から退出した。
リノは、ラズリルの協力に感謝しながらも、ケネスを通して彼を派遣した騎士団長カタリナの真意を読み解こうともしたが、諦めた。
一つに、今は協力してくれる者に対しては全面的な信頼を態度で見せておくべきで、露骨な腹の探りあいは、控えるべきだと判断した。
そして一つに、ケネスの若さがあった。
一都市を代表して艦隊を引き連れてきたとはいえ、ケネスはマクスウェルやミレイと同年代、二十歳の若者である。
リノは、自分の娘よりも年下の者を相手に、政治的駆け引きを行うつもりにはなれなかったのだ。
これはこれで、ケネスには失礼な話ではあるが、実際にリノとケネスでは実績が違い過ぎた。
マクスウェルやミレイもそうだが、このケネス、そして今騒乱の元となっているナ・ナルのアクセル島長を含め、現在群島で重要な役割を担っている者には、若い者が少なくない。
これらはほぼ全て、先の戦争で活躍した者たちである。
このように若い、将来の指導者の卵を多く生み出したのも、群島解放戦争の大きな特徴だった。
そして、彼らに大きな影響を与えたのが、政治家としてのリノ・エン・クルデスであり、軍略家としてのエレノア・シルバーバーグだったのである。
そして、その中でも最も有望株との呼び声高い二名が、ほぼ一年振りとなる再会を喜んだ。
ケネスとマクスウェルが、久しぶりに顔を合わせたのだ。
二年前、戦争が終わった直後は、両者ともガイエン海上騎士団の元新米騎士という立場だった。
それから時間は疾風のように過ぎ去り、今や両者とも、当時からは考えられないほど重要で複雑な立場を得ている。
境遇的な波乱さでは、ケネスはマクスウェルに一歩を譲るが、立場の重要さでは、ケネスのほうが一枚上だった。
国王の前では、非の打ち所の無い立ち振る舞いで会見を終えたケネスも、旧友であるマクスウェルの前では、さすがに態度も砕けたものとなった。
二人は足をそろえて、診療所にジュエルを見舞ったが、未だに面会は許可されなかった。
ジュエルは命の危機は脱したものの、ひどい傷を負っていることに変わりは無く、未だに意識も戻っていなかったのだ。
たとえ意識が戻ったとしても、元のような生活を送れるまでに回復するにはとても長いリハビリが必要だと、キャリーは語った。
ジュエルが襲われた、としか聞いていなかったケネスは、かつての同級生の予想以上の事態に言葉を失った。
毎日、彼女を見舞っていはキャリーに面会を止められているマクスウェルは、改めて怒りに拳を奮わせた。
ケネスは、やはりかつての同級生で、現在はラズリルの漁師であるタルと、かつて彼らの教官だったカタリナからの言葉を預かっていたが、ジュエルには伝えられなかった。
診療所を辞して後、海辺の小さな食堂で、二人は冷めたい茶を、冷めた会話でさらに温度を下げていた。
意識の戻らないジュエルが、それでも魘されながら呟いた言葉をマクスウェルから聞かされたとき、ケネスは激昂こそしなかったが、目元に厳しい光をたたえてマクスウェルを視線で貫いた。
「マクスウェル、お前はこんなところで何をしているんだ? ジュエルの言葉を聞いてなんとも思わなかったのか!
昔のお前なら、単独行でもナ・ナルに乗り込んで、ポーラを救い出したはずじゃないのか。
それとも、仲間の命よりも、オベルでの作戦のほうが重要か! ナ・ナルさえ屈服させれば、それでいいのか」
瞳に怒りの火を灯したケネスの言葉が、マクスウェルの胸に突き刺さる。
彼はややうつむきげに、無言で口を苦渋に歪めた。
本来なら、マクスウェルが非難されるべき理由はない。事件を起こしたのはナ・ナルの島民であって、マクスウェルではないのだ。
それに、マクスウェルは、自分を襲った刺客と戦い、続けざまにフレアを襲った刺客と戦い、そして国王が決定した政策に休む暇なく従事している。
彼は彼で、寝る間を惜しんで全力で事件解決のために動いているのだ。
そんなマクスウェルと似た立場に居るケネスが、彼の心境を理解できぬはずが無い。
だが、ケネスには、マクスウェルに対して怒りを向ける理由があった。
マクスウェルが無実の罪でラズリルから追放されたさい、ケネスもマクスウェルを信じ、ジュエルと共にガイエン海上騎士団を出奔し、拝命したばかりの騎士の立場を捨てて、マクスウェルと行動を共にした。
あの、果ての無い海を、当ても無く漂流した絶望。
奇跡的に無人島に漂着し、無くしたかもしれない命を得た喜び。
リノ・エン・クルデスに保護されてから、解放軍を立ち上げるまでの労苦。
全てを、チープーを含めた四人で分かち合ったのだ。四人だから、あの労苦を乗り越えられた。
誰かひとり欠けただけでも、解放戦争どころか、四人ともが現在まで生存している可能性が低かったのである。
ケネスは、戦争が終わり時が経った現在でも、この四人を結ぶ友情と、共通の想い出を、人生最大の宝にしている。
これからも長く続くはずの生涯を通じて、最も失ってはならないもののはずだった。
そして、他の三人、マクスウェル、ジュエル、チープーにとっても、それは同じであってほしいと思っている。
だが、誰よりも先にジュエルの言葉を聞いたはずのマクスウェルが、それ以降の一週間という時間、友の言葉よりも国事を優先させていることに、ケネスは激しい疑問を感じずにはいられなかったのだ。
ジュエルが死にそうな目に合いながらも懇願したポーラの救助に繋がる行動を、自ら先頭に立って起こすくらいの行動力は、マクスウェルには期待してもいいと、ケネスは思っていたのである。
誰よりもマクスウェルを高く評価しているのは、ケネスだったから。
だが、そのマクスウェルは、ケネスの手を跳ね除けた後、抑えきらない苛立ちを視線にのせて、声を張り上げた。
俺がポーラのことを心配していないとでも思うか。
ジュエルの言葉に、なにも感じていないとでも思うか。
助けに行きたいさ、今すぐにでも。
でも、今はそれをしてはいけない時だということくらい、お前にだってわかるだろう。
特に、罰の紋章を持つ俺は、簡単には動けない。
そうでもなければ、俺のために命を賭けてくれた友のために、俺が命を賭けないとでも思うか。
そして、胸郭全体から搾り出すような低い声を、ケネスに向けて吐き出した。
「ほかの誰でもない、お前がそう思うのか、ケネス」
マクスウェルの言葉が震えていた。ケネスが怒りを露にしたことに、彼は傷ついたのだ。
自分が抑えている思いを、ケネスならば解ってくれると、彼は信じていたのだ。
これは、双方にとって致し方ない感情の齟齬ではあった。
ケネスは、罰の紋章と共に生き、人生を開拓するマクスウェルのことを尊敬していた。
ケネス自身にそのつもりが無くても、どうしてもマクスウェルの持つ英雄としての偶像性に、友人としての贔屓目を加えてしまうのだ。
俗な言い方をすれば、「こいつならばなんとかしてくれる」という期待を、友人に持ってしまうのだった。
マクスウェルのほうはといえば、ケネスに、苦労を共にした同年代の友人として、自分のことを理解し続けてほしかった。
罰の紋章に認められた稀有の存在としてではなく、普通の人間として。
だが、マクスウェル自身は自分のことを、ケネスが思っているような大層な存在であると思ったことは一度も無かったし、逆に、罰の紋章に起因するマクスウェルの憂鬱を理解するなど、ケネスだけではなく、罰の紋章を持たないほかの誰にも不可能なことだった。
なにを大事と捉え、なにを小事と捉えるかは、その人次第である。
まだ若いマクスウェルとケネスにとっては、移り変わる状況と価値観の中で、それらは自分の中で微妙に変化していく時期でもあった。
「ジュエルは死なせはしない。ポーラも必ず助ける。
今はこの約束にこそ、俺は全てを賭けよう」
拳を握りしめ、震えが収まらない声で、マクスウェルは誓った。
ジュエルの血で書かれた、それは重い約束だった。
そして、マクスウェルが、自らした約束を必ず守る男だと、誰よりも知っているケネスは、怒りを瞳に称えたまま、大きくうなづいた。
今やその炎は、マクスウェルではない、事件の真の首謀者たるべき者に向けられていたのだった。
ラズリルからケネスが到着した三日後の四月七日、ミドルポートからも帆船四隻を中心とする艦隊がオベル港に到着した。
ラズリルからの援軍を含めて、オベル港は大型帆船に埋め尽くされ、その機能は限界に近くなった。
致し方なく、一般の漁船の多くが港外への退避を余儀なくされた。
だが、これでオベルを中心とした「ナ・ナル制圧艦隊」は、大型帆船十二隻、小・中型船十五隻、動員兵数四千二百名という、群島史上にも稀に見る「大艦隊」と化した。
兵力が増えれば、それだけ統制を取るのは難しくなる。各国の思惑が入り乱れる混成部隊となると、なおさらである。
作戦の責任者たるリノ・エン・クルデスの正念場であった。
ミドルポートからの援軍を率いているのは、ミドルポート領主ラインバッハ二世の長子、シュトルテハイム・ラインバッハ三世である。
彼が率いている四隻の帆船は、港町ミドルポートが持つ大型戦力のほぼ全てであり、この力の入れように、リノ・エン・クルデスは素直に衝撃を受けた。
ナ・ナル島の前島長と同じように、群島でもとりわけ裕福な個人的経済力を有するラインバッハ二世も、どちらかというとオベル主導の群島諸国連合には消極的だったのだ。
群島解放戦争以前は、オベルとミドルポートは余り繋がりが無かった。いくらかの交流はあったが、あくまで市民による同格の交流だった。
それが、戦争中にたまたま中心的役割を担ったというだけで、いきなり群島諸国の盟主の座に躍り出たオベルに対して、敵対的とは言わぬまでも、充分に冷ややかな目を向けていたのだった。
リノ・エン・クルデスとしては、ミドルポートが作戦に参加しないのではないか、という可能性も考慮に入れていたのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
オベルにはオベルの思惑があるように、ミドルポートにはミドルポートの思惑があるのだろう。そして今回は、とりあえずオベルに肩入れしたほうが得策であると判断したのだろうか。
どちらにしても、真意はラインバッハ二世の胸中のみにある。彼はオベルに対して含むところはあれど、群島諸国連合には参加しているし、少なくともその存在価値は認めているのだろう。
リノとしては、気になりはするが、それらすべてを洞察することは不可能だった。
艦隊を率いるシュトルテハイム・ラインバッハ三世ことラインバッハは、いつものように従者ミッキーを連れて、オベル王宮を親しく御訪問あそばした。
ラインバッハは、まるで子供向け英雄伝説の絵本から抜け出たような、この時代の群島でも既に珍しい、ゴテゴテの貴族衣装を好んで身につけるため、どこにいてもすぐに見つけることができ、誰といてもすぐに判別が可能である。
この日も青色を基本とし、緑色をアクセントとして加えた孔雀のように派手な衣装に、やはり極彩色の大きなつばの帽子を合わせて金褐色の縦ロールの髪を靡かせており、見る者の目を疑わせた。
好悪の反応はともかく、この日のオベル王宮でもっとも人目を引く存在であったことは間違いない。
マクスウェルと彼のボディガードを勤めるミレイも、リノとラインバッハの謁見式と、その後の立式夕食会に参加したが、久しぶりに見るラインバッハの相変わらずな様子に、お互いに苦笑を向けた。
マクスウェルもそうだが、ミレイもラインバッハとは因縁がある。
ミレイはラインバッハが知らぬところで、一面識もなかった彼と結婚させられそうになったことがあるのだ。
これは彼の父ラインバッハ二世が、本人たちの意思を無視して暴走していただけなのだが、この事件が、マクスウェル、ミレイ、そしてラインバッハを引き合わせることになった。
ラインバッハは、典型的な貴族の二代目、といった風の男性で、それは彼の思考法にも良く表れている。楽観的な性格であり、物言いも大仰で、大局的なものの見方にも世間知らずゆえの甘さが残る。
だが、基本的に善意の人で、純粋ゆえに自分の利益というものをまるで省みない性質のため、この好漢を好いている者は非常に多かった。
そしてこの夜も、その性格が良く表れていた。
ラインバッハは解放戦争当時からマクスウェルを「心の友」と呼び、十歳以上も下のこの青年に最大級の敬意を表していた。また、それを周囲に隠したこともない。
そんな「心の友」が襲撃されたという衝撃的な事実に対して、彼は激しく、そして大げさに怒りを表した。
「ああ友よ、君が襲われたこの憂慮と怒りを、私はどのように表現すればよいか知らない。
とにかくも、君の生命が失われずにすんだことは、私にとって不幸中の幸いでした。
そうですね、ミッキー?」
マクスウェルの手を握って震えながら、ラインバッハは自分の後方に控える付き人に首を向ける。
「もちろんでございます、お坊ちゃま」
小柄で柔弱そうな顔をした従者は、恭しく礼をした。
苦笑をひらめかせながら、マクスウェルはラインバッハの情熱的な握手にしばらく身を任せていたが、ようやく手を離してもらって、水を一杯あおった。
「それにしても、ミドルポートは誰か適当な人を選んで送ってくるのではないかと思っていたけど、まさかあなたが来てくれるとは思いませんでしたよ、ラインバッハさん」
マクスウェルの言葉に、ラインバッハは大きな帽子を被ったまま、彼に頭を下げた。
「心の友と親しい同胞の危機に、誰がおめおめと館の奥に引きこもってなどおれましょう。
父が命じなければ、私は個人としてはせ参じるつもりでした。
父には父の思惑があるようですが、私には関係のないことです」
ラインバッハの言葉の端に、この好漢らしくない皮肉が少しにじんだ。
ラインバッハ親子にも、一般の家庭と同じように、外の者にはうかがい知れぬ事情がある。
一銭にもならない無邪気な興味と正義感の赴くままに行動する息子。
自らの利益のためだけに、様々にひよりながら策を弄する傾向のある父。
父は息子を扱いかね、息子は父を理解できないでいる。
父子であるから積極的にお互いを否定することは無いが、自らの美意識に最も遠い存在を上げろと言われれば、恐らく父は子を、子は父を真っ先に上げるであろう。
そんな緊張感が、この父子の間には常にたゆたっていた。
ラインバッハは、自ら率いてきた艦隊の指揮権を、期間限定ながら、リノ・エン・クルデスに移譲することを約束し、彼自身はオベルの旗艦に搭乗することにした。
これは、常にことの最前線にいたいという、彼なりの正義感の表れなのだが、この決断が後に大事件を起こすことになろうとは、まだ誰も、ラインバッハ本人さえ予測などしていなかった。
こうして、オベル側の準備が着々と進む中でも、ナ・ナル側からのリアクションは何も無かった。
果たして、オベルに対してゆっくりとツメを研ぎ牙を磨いているのか、意見が分裂して対策が立てられないのか、それともそれ以外の何かがあるのか。
なにもわからないまま、時間だけはどんどん過ぎていく。
そして、ナ・ナルにオベルからの詰問状が出されてから、艦隊出撃の予定日、四月九日の朝を迎えた。
ナ・ナルは沈黙を守ったまま閉じこもり、一言も発していない。
この間、マクスウェルとケネスは、ジュエルを毎日見舞う一方で、ナ・ナル、及びその付近にあるネイ島やイルヤ島からなんらかの情報を得ようと独自に行動を起こしていたが、芳しい結果は得られなかった。
リノ・エン・クルデスは、旗下の部下と援軍のそれぞれに出撃を命じた。
こうしてマクスウェル襲撃に始まったこの事件は、長々と続いた第一幕から、ようやく解決編の第二幕へと移る。
誰もが、そう思っていたのだ。
このときまでは。
(初:08.08.20)
(改:11.10.15)