WARNING!!
この小説は、意味不明、かつ誇大な表現を多数含んでおり、原作ゲームの趣旨から大きく外れている、あるいは、読後に麗しくない感情を覚える可能性があります。
読まれる場合には、その点を充分にご理解ください。
また、本作に登場する人物・団体・屋号・商品名などは、現実・原作のいかなるものとも、一切関係ありません。
群島に夏を告げる風が吹いてから一月がたつ。
その群島の、地理的にも人文的にも中央に位置する大国、オベル王国。
常夏のこの国の解放的な風土においても、夏の暑さというものは避けようがない。
オベルの人々は、暑さと糧のための労働という避けようのない現象に溜息をつきつつも、日々の生活を楽しんでいる。
現在のオベル王国で、糧のためにもっとも重い責任と労働を化せられているのは、間違いなく軍事に従事する者たちであったろう。
彼等には労働のために体力だけでなく、時には命まで掛けなくてはならない身である。
せめて命を失わないためには、それに見合う強さを身に着けなければならず、特に史上まれにみる酷暑となったこの夏の炎天下では、それは過酷な責務となった。
それでも、兵士達は身体と海戦技術を鍛えていればそれですんだが、それですまないのは彼らを管轄する上級士官達である。
彼等は自分を鍛える責任と同時に、複数の部下を鍛える責任を負わねばならず、部下の数に比例して胃痛の症状が酷くなるのが通例であった。
更に彼等には、国家と軍事の最高責任者である国王陛下に、自分と部下達の現状を報告する義務がある。
現オベル国王リノ・エン・クルデスは、不正とも不公平とも無縁の男であったが、それだけに、人を見る目も厳しい。
上級士官達の胃と神経は、いやでも鍛えられる運命にあったのである。
ある夏の一日、そんな軍部の上級仕官、いわゆる「将軍閣下」と呼ばれる者たちの中でも最年少であるミレイは、年上の同僚達とともに、国王が臨席する御前会議にのぞんだ。
ミレイは群島解放戦争で活躍したこともあってか、特に国王陛下の覚えもよく、最年少でありながら同僚達の中では席次は上位に置かれており、そのことが彼女にとっては誇りであるのと同時に、新たな胃痛の材料ともなっていた。
いくら開放的な国風とはいえ、まったく嫉視反感と無縁の民族というのは、人間が感情を持つ動物である限りありえない。
ミレイは多くの期待や尊敬と同時に、多くの嫉妬に囲まれており、それを見えざる圧迫として感じている毎日であった。
さて、そのミレイが参加した御前会議である。
リノ・エン・クルデスは、部下の一人ひとりの報告を聞きながら、それに対していちいち感想と目標命令を与えた。
リノ・エン・クルデスは豪放に見えて、意外と真面目な性格であり、自らの設定した目標に対しては、細かくこだわった。
それを「面倒な性格だ」と、影で罵るものもいるにはいたが、多くの命を預かる国王という立場においては、当然の責務であったろう。
リノ・エン・クルデスはいつも、会議の最後に部下達に教訓の言葉を垂れるのが恒例であったが、これがミレイたちにとっては、ある意味では、国王に対する現状報告以上の緊張感を強いられる瞬間であった。
今日もリノ・エン・クルデスは、緊張感を隠しきれない部下達を前に、玉座の上に立派な体躯を投げ出していった。
「そうだな、今日は皆に、俺の秘かな願望を明かそう……」
長身雄偉な白髪の国王の静かな口調に、部下達の緊張感が増した。
ミレイの額に、汗が浮かぶ。
この偉大な国王の「秘かな願望」とはなにか。
政治的な改革を押し出した国家改造か、それとも軍事による群島征服か。
部下達の緊張を視線で舐めながら、リノ・エン・クルデスは、重厚な胸郭から、重厚な声を発した。
「俺は、SMAPの仲居くんになら、掘られてもかまわん……」
「……………………」
「……………………」
まるで、この一室の空気だけが世界から取り残されて止まってしまったような静けさが、場を支配した。
その中で、ゆいいつ動きえた老臣セツが、ゆっくりと国王に諫言した。
「陛下」
「なんだ、セツ」
「あまりのショッキングさに、参加者全員が死亡いたしましてございます」
リノ・エン・クルデスとセツを除く全員が、テーブルに上半身を投げ出して、ぴくりとも動かない。
実際に止められてしまったのはこの場の時間ではなく、参加者の生命活動であったのである。
国王陛下が、不甲斐ない部下達の醜態に、大きく舌打ちをした。
「ち、情けないやつらだ。
これでオベルの国土と国民とを守ろうというのだから、群島最強の軍隊というのも、存外軟弱極まるな、セツよ」
「は、御意にございますが……」
老臣セツは、多くの屈強な遺体を見回しながら、遠慮がちに言った。
「お言葉ながら陛下におかれましては、いますこし、お言葉にお気をつけくださいませ。
なにぶんにも陛下の御心は、下々の者どもには理解の壁の高みに位置してござれば」
「ふむ、そういうものか。以後、気をつけるとしよう」
豪腕で鳴るリノ・エン・クルデスも、セツの諫言は素直に聞くことが多い。
セツは、リノが王子の時代からずっと従ってきた股肱の臣である。
政治的にとびぬけて有能というわけではないが、彼の気性をもっとも理解している者の一人であり、ものの道理を語ることができる良心の持ち主であった。
であるからこそ、リノもセツの言葉には耳を傾けた。
リノが腕を組んでいった。
「俺のことがまずいのならば、次回からはお前の話を皆にきかせてやるとしようか、セツ。
お前が若いころ、ワリとイケてるOLであったことなど、どうだ?」
「……陛下、いかに部下とはいえ、他人の過去を暴露するが如き所業は、おつつしみ下さりませ。
さらに言わせていただければ、別のメディアからネタをパクってくるのはどうかと思いますが」
「はは、戯れよ、許せ」
G=ヒコロウ先生、すいません。
リノ・エン・クルデスは、玉座から立ち上がり、かつては人間であった部下たちを一瞥した。
「どのみち、この遺体をそのままにはしておけぬ。
セツよ、いつものとおり、フェニックスの尾で生き返らせてやれ」
「……陛下、それはメーカーの違う別のRPGのアイテムでございますが」
「……いちいち細かいヤツだな、お前は。生き返れば問題ないだろうが」
「大人の世界には、色々と事情があるのでございます。
そもそもですな……」
国王に対して説教をできるのは、セツくらいのものであろう。
だが、リノ・エン・クルデスもそれを素直に聞くほど素直な性格ではない。
「セツ、俺はこう見えて忙しい。お前も知っているとおりな。
時間が無いのだ。お前は、俺の言うことを聞いておればよい」
重々しい言葉、重々しい声であったが、セツはふところから取り出した手帳をパラパラとめくった。
「ふむ……陛下の今日のご予定は、「モンスターハンター フロンティアオンライン」で狩りでございますか」
「うむ、今日はマクスウェルとフレアと、埼玉県の近藤君と組んで、グレンゼブルを狩りに行かねばならん。約束の時間が迫っている。俺は行くぞ」
マクスウェルは群島解放戦争の中心となって群島を勝利に導いた英雄で、現在、リノ・エン・クルデスがもっとも可愛がっている家臣であり、フレアはリノの娘である。
「親が親なら子も子だな」
とまでは、セツはいわなかったが、せいぜい口調を抑えて、彼は国王に言った。
「……近藤君とは何者でございますか……」
こうして、オベルの御前会議は、いつものように何事も無く終了したのである。
(fin.)
何も聞くな。
(初:10.09.06)