フレア王女の日記より。

1月4日

 新年が明けて4日。似合わないことだが、日記をつけてみようと思う。
 とはいっても、飽きっぽい性格が災いしてか、これまで日記なんて一週間も続いた事がない。
 今回は頑張れるかな? 気張らずに続けてみよう。

1月6日

 最近、珍しいことにお父さんが図書室に閉じこもっている。
 お父さんは、本を読まないわけじゃないけど、元が行動派だから、理屈をこねる前に体が動いていることの方が多い。
 一緒に夕食をとったときも、心ここにあらずといった感じで、ずっと何かを考えていた。
 クールークを破るための作戦でも考えてるのかな?
 どっちにしろ滅多にないことだ。いつまで続くことやら。

1月8日

 さすがに夢遊病みたいなお父さんが心配になって、マクスウェルに相談してみた。
 マクスウェルは忙しい中相談に乗ってくれたが、「え!? あのリノさんがかい!?」と、アクロバティックに七転八倒しながら驚いた後、心を静めるために熱い珈琲を一気に飲もうとして、思い切り舌を痛めて、釣られた直後の魚みたいに痙攣していた。
 そこまで驚くことはないと思う。娘としては少し複雑だ。

1月9日

 今日、お父さんに会議室に呼ばれた。妙に自慢げな顔を見て、なにか解決したんだと思って聞いてみた。

「うむ、俺たちの絵描き歌を考えていてな、少し悩んでたんだ。でも傑作ができたぞ!」

 なんで絵描き歌? と少し疑問には思ったが、お父さんにそんな才能があったとは驚きだ。

「うむ、取り急ぎ俺とエレノア、そしてマクスウェルの絵描き歌が完成した。どれか聴いてみるか?」

 ……と自信ありげに言うもので、お父さんの「絵描き歌」とやらを聴いてみることにした。無論、ペンと紙は準備している。

「よし、わかった。オベル海軍軍楽隊、カモン!」

 お父さんが合図をすると、大きな楽器を胸から下げた堂々たる軍楽隊20名ほどと、なぜかドレスで着飾った女性が何人か入ってきた。
 わざわざ軍楽隊を使うほどのものなの? 疑問に思っていると、お父さんが宣誓する。

「では行くぞ。リノ・エン・クルデス絵描き歌「大好きという嘘をついた」!」

 え、なにその題名。と思ううちに、ずいぶんポップな演奏が始まった。え、絵描き歌だよね?

「歌詞の通りにペンを動かせば問題ないからな」

リノ・エン・クルデス絵描き歌
「大好きという嘘をついた」

まるで無邪気に 「好きなの」だなんて
覗き込んだくせに 上の空ね
だから嘘をついたの 「大好き」という嘘
痛いくらいの愛は 胸に隠した

いじわるエンジェル そんなとこね
優しいくせに 冷たいのはなぜ?
封印を解いて 胸の奥の全てを
突きつけたならば どんな顔してかわすの?

悔しいけれど恋は 深くなっていく
あなたの魅力は かなわないわ
いつか素直になって 瞳に任せて
愛へと変わった恋 伝えられるわ

(間奏)

時々見せる 不器用さは
ヤンチャな頃の 忘れ物かしら
後戻りできず 忘れることさえ無理
行きつ戻りつも 振り子のようなこの恋

何気ないふりをして 「好きなの」だなんて
横顔できるのは どういうつもり?
だから嘘をついたの 「大好き」という嘘
切ないほどの愛に 震えながらも

(間奏)

悔しいけれど恋は 深くなっていく
あなたの魅力は かなわないわ
いつか素直になって 瞳を見つめて
愛へと変わった恋 受け止めてほしい

 聴き終わってから、私は思わず拍手していた。
 うん、いい歌だ。いい歌だとは思うけど、この歌詞に従ってペンを動かしたら「笑顔で槍を構えているお父さん」が描けてしまうのが、なんか納得がいかない。
 遠慮がちにそういってみると、お父さんは「ではもう一曲聞いてみるか」と、また自信ありげに言う。
 そこで、今度はエレノアさんの「絵描き歌」を聴いてみることにした。

「よし、ではエレノア・シルバーバーグ絵描き歌「Blive in Love」だ。心行くまでシャウトしてくれ!」

 シャウト? いや、エレノアさんの絵描き歌だよね? しかもなに、このロックな曲調は?

エレノア・シルバーバーグ絵描き歌
「Blive in Love」

街道ハイウェイ 果てしなく続く
いくらアクセル 踏み込んでも
突然 消えてしまった
エメラルドの迷路の中へ

よみがえる いま虚しさが
頼りにならない俺さ
あの日のお前 取り戻したい
夜空に誓うだけ

走る馬車マシンのノイズを 時の嘆きに重ねて
なびく髪もそのままに 街の灯りを追いこして
Blive in Love さよならなんて言えない
今でも I still love you

(間奏)

カーブを右に曲がるたび
すれ違う 昨日の思い出
二人 夜を分け合った
ぬくもりも いつか幻

駆け巡る 俺の赤い血が
孤独に慣れた俺さ
優しさなんて 役に立たない
お前がいなければ

吠える馬車マシンのエコーが 何千マイル響いてく
落ちる涙 受け止めて まだ見ぬ星を追いかける
Blive in Love 死んでも諦めきれない
祈るよ You still love me

(間奏)

あの日のお前 取り戻したい
夜空に誓うだけ

走る馬車マシンのノイズを 時の嘆きに重ねて
なびく髪もそのままに 街の灯りを追いこして
Blive in Love さよならなんて言えない
今でも I still love you

 うん、これもいい曲だと思う。そして、この「絵描き歌」で「キカさんと笑顔で杯を交し合うエレノアさん」が描けてしまうのが、どうしても不思議でならない。
 私はなにか不思議な力に操られているのではないか?
 この軍楽隊の演奏には、人を自在にあやつる魔力でも込められているのかしら?

「それはな、フレア。すべて俺の才能によるものだ。
 俺の書いた歌詞に乗ってお前の身体が動いてしまうのさ!」

 お父さんは自信満々だ。悪役みたいに「ハーッハッハッハ!」と笑っている。
 確かに、お父さんの才能は認めざるを得ない。でも、それはなんだか、絵描き歌というより、呪術とか呪いとか、そういった類のものじゃないだろうか。
 私もただ負けるのは癪だ。もう一曲、マクスウェルの絵描き歌を聴いてから判断しよう。

「よろしい、では最後にマクスウェル絵描き歌「残酷よ希望となれ」。行くぞ!」

 お父さんはなぜか、上着を脱ぎ捨ててファイティングポーズをとった。
 こうしてみると、脳筋全開なんだけどなあ。
 そして軍楽隊の演奏が始まる。うん? 今度はずいぶん深刻な曲調ね……。

マクスウェル絵描き歌
「残酷よ希望となれ」

この空の下 いつまでも 探し続けた夢
一人きり…… どこへみんな 旅立つの?
記憶の日々が遠ざかる
あの頃の笑顔は胸の中 今を支えてた

無言の横顔で あなたも私もきっと
疵ゆえのペルソナ わかっていたよ

幸せのために 愛のためだからと
残酷な戦いを 繰り返して
それでも 涙が止まらない
願う心は一緒
それぞれの未来が 呼ぶんだ

(間奏)

消えない嘘が重過ぎて 翼折れそうだよ
二人なら堪えられると……思えれば
絶望だって堪えられる
約束を無邪気に誓ったね なぜか信じてた

知らない暗闇が あなたを私を包む
見つからない出口 扉を叩け

隠せないほどの 祈りは花と咲く
血のように赤くても 散るだけでしょう
そんなに強くはないけれど
守る 希望の夜明け
明日へと続いてほしくて

(間奏)

幸せのために 愛のためだからと
残酷な戦いを 繰り返して
それでも 涙が止まらない
願う心は一緒
それぞれの未来が……呼ぶんだ……

 ……重っ! いや、重いよ! マクスウェルの曲、重いよ!
 しかも、描けちゃったよ! マクスウェルだけでなく、タルさん、ケネスさん、ポーラちゃん、ジュエルちゃんの五人が、ラズリルの港から夕日を見上げているあの名シーンが描けちゃったよ! なんでだよ!

「クックック、クッハッハハハ、ハーッハッハッハ! 少しは俺の力がわかったかね?
 軍楽隊はご苦労だった。あとで褒美を出す。さがってよろしい」

 お父さんは我の頂点ここにありといった雰囲気だが、これは負けを認めざるをえない。
 仕方なくお父さんとオベル軍楽隊を褒めておいて、私は会議室を後にした。

 なお、描けた最後の絵は、枕の下に敷いて寝てみることにした。
 マクスウェルに夢で逢えますように。

1月10日

 マクスウェルがずっと痙攣している夢を見た。
 お父さんは昨日の妙な絵描き歌以外にも、飽きもせず色々考えているらしい。
 今日は気の早いことに「オベル王国奪還記念グッズ」の案を聞いた。
「象が踏んでも壊れない筆箱」に対抗して、「像が踏むまでもなく壊れている筆箱」を企画しているらしいけど、それってただの不良品っていわない?

(to be continude ...)

COMMENT

「大好きという嘘をついた」……作詞:橙郁瑠、作曲:岩崎文紀。(1994年9月に放映されたアニメ「サムライスピリッツ 破天降魔の章」のエンディングテーマ)
「Blive in love」……作詞:K・INOJO、作曲:吉田武史。(1995年発売。「バーチャファイター2」の登場人物ジャッキー・ブライアントのキャラクターソング)
「残酷よ希望となれ」……作詞:畑亜貴、作曲:虹音。(2007年放映のアニメ「アイドルマスターXenoglossia」の第二期オープニング)
 上二曲はもう廃盤になってると思うけど、どこかで聴ける……かもしれない。

(初:17.08.25)