シリーズ | タイトル | 主人公 |
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第一章 | 「Birthday」 | 京 一樹 |
第二章 | 「Jade」 | 刀儀 啓 |
第三章 | 「Fortissimo」 | マシュー・レインハート |
第四章 | 「Blood Cross」 | 酒々井 カスミ |
第五章 | 「The Life Screen」 | 姫廻 唯空 |
最終章 | 「Everything」 | 法雨 冬士 |
京 一樹 (かなどめ・いつき)
私立謝名堂学園高等部の二年生で、空手部主将。生徒総会執行委員会・常任理事、組織運営部長。身長185cm。
第一部「Birthday」の主人公。刀儀 啓 、法雨 冬士 、マシュー・レインハートとは親友同士で、特に冬士とは小学校以来の腐れ縁。四人とも複雑な家庭で育っており、強いシンパシィを持つ。幼少時に妹と共に実母から執拗な虐待を受け、妹を守るために空手を身につけた。その後、両親の離婚調停中に母親に殺されかけ、更にその母親に目前で自殺されるという、強烈なトラウマを植えつけられている。
父親の転勤で中等部時代にイギリスに留学し、そこでも荒れに荒れた生活をしていたが、父親の再婚相手である新しい母親と、その連れ子の二人の「妹」、そして実の妹ととの交流を通し、徐々に人間らしさを取り戻していく(「Birthday」)。イギリスでは武器を持った敵を相手に素手でストリートファイトに明け暮れていたため、ケンカはめっぽう強く、少々のトラブルにはおたつかない。日本に帰国後は、謝名堂学園弱小空手部の唯一のエースとして活躍する一方、プロの格闘家としても活動。
また、法雨冬士を通じて酒々井 カスミに師事し、生徒総会執行委員会の組織作りに傾倒したり、海外からの留学生が非常に多い学園にあって、自らの留学経験を生かして通訳としても活躍するなど、多忙な毎日を送っている。親友の冬士からは「シャレのわかる人間凶器」と評される。あらゆる経験をしたせいか、「人間」というものをよく知っており、一種の諦観に近い懐の深さを持つ。
他のキャラクターのように、圧倒的な口調や能力で存在感を前面に押し出すことは無いが、主だったどの事件にも必ず関わっている不思議な人。
些事にこだわらないおおらかで豪胆な性格のためか、周囲の信頼が厚い。上司の酒々井カスミから最も信頼を寄せられる一方、敵対している生徒会からも、最も話のわかる人物として認識されている。
良くも悪くもひょうきんで行動のスケールが大きく、周囲をハラハラさせることも多い。彼が意味不明なボケを発し、マシュー・レインハートがそれに理解不能なツッコミを返す姿は、常任理事会の名物である。
ただ、イギリスでのストリートファイトの経験が長いためか、本業の空手の試合では、思わず相手の急所を狙ったり、攻撃してきた部位をカウンターで狙い打ってしまうなど、「相手を倒す」のではなく「相手を無力化する」ことを優先して戦ってしまう傾向がある。
そのためか、反則スレスレの「何でもありなダーティーな選手」という印象を周囲に与えてしまい、本人はかなり悩んでいるようだ。人の生死というものには非常に敏感で、第二部では
刀儀 啓 、第三部ではマシュー・レインハートに対して、切々と家族のあり方について説いた。また、第六部で親友である法雨 冬士 が起こした大事件についても、同情的な意見が多い中、彼だけは激しく親友の非を鳴らした。その戦闘能力の高さから、周囲との衝突が多い酒々井カスミのボディガードを務めることもあり、彼女の性格を最も知っている人間の一人である。
カスミの恐ろしさを身にしみて知っていながら、生真面目な彼女をブリティッシュジョークでからかうことにスリルを感じており、毎回、手痛い報復を受けながらも繰り返す様子から、一部で「真性のマゾヒストではないか」と真剣に噂されている。この「Sugarless Ring Days」という物語は、第一部の、この京一樹のモノローグで始まり、そして第六部、人の道を踏み外してしまった親友と対峙し、事件に決着をつけた彼の言葉で、その幕を閉じることになる(予定だった)。
刀儀 啓 (つるぎ・けい)
私立謝名堂学園高等部の二年生。生徒総会執行委員会・常任理事、広報部長で、高校生実業家でもある。身長190cm。
第二部「Jade」の主人公。親友であるマシュー・レインハートを生徒総会執行委員会に引き入れた張本人であり、姫廻 唯空 とはクラスメート。
同委員会で危険な役を望んで演じる法雨 冬士 を常に心配している。その長身と信じられぬほどの美貌、洗練された演説の名手で、
酒々井 カスミと共に、現在の生徒総会執行委員会を代表する人物の一人であり、最も外部の人気も高い。
反面、極めて真面目で、かつ融通がきかない性格をしており、「ロジカル・モンスター」と陰で揶揄されるほど正論に固執する癖がある。
何事にも真摯に全力で取り組む教条的な面があり、その点で、その場の状況に応じて柔軟に対応する性質の京一樹や法雨冬士とは、政策面で意見をぶつけ合うことも多い。
(ただし、彼らの実力を最も高く評価しているのは、啓自身である)。第三部のマシューの帰国騒動や、第六部の法雨事件に際しても、常に京一樹とは意見を対立させたが、最後には相手の意見を柔軟に受け入れる度量を身につけ、事件の決着を京一樹に委ね、その責任を被ろうとした。
こうした性格からか、京一樹からは「政治家としては凡人だが、役人としては最強の逸材」と評されており、その評価を苦笑まじりに受けれている。「
五百扇 グループ」という大企業群の創業者を父に持つが、母が愛人だったせいか、子として認知してもらえず、私生児として育った。その母親も若くして亡くなったため、小学校時から養護施設で過ごす。
母親を追い詰め殺したのは父親だと思い込んでおり、世の「父親」という存在を徹底的に軽蔑している。
高校生でありながら実業家として立ったのも、父親に立場で劣る自分が許せなかったためである。
だが、ある日、彼のところに転がり込んできた腹違いの妹と、封印されていた両親の遺言が、彼のかたくなな心を、徐々に解いていくことになり……(「Jade」)。
第一部で初登場した時は、非常識なものも、どんなに些細な罪も全く認めないなど、かなり極端な思考だったが、第三部以降、少し考え方がやわらかくなっている。女子生徒からの人気はかなり高いが、現在、特定の恋人はいない。
どういうわけか異性運が悪く、特殊な趣味の娘をピンポイントで引き当ててしまう、ある意味特殊な能力を持つ。中等部のときの恋人にかなり深いトラウマを植えつけられてしまった、という噂があるが、真相は不明。
また、非常識な物体は視界に入らないという特異体質であり、京 一樹 とマシューの改心のボケが、自動的に視界から削除されてしまうなど、日常茶飯事である。
会議が二人のボケで異次元に変わりそうになったときに、強引に話を元に戻す役として、酒々井カスミに重宝されている。
マシュー・レインハート
私立謝名堂学園高等部の二年生で、軽音楽部副部長。生徒総会執行委員会・常任理事、予算企画部長。身長192cm。
第三部「Fortissimo」の主人公で、アメリカからの留学生。親友・刀儀 啓 にも劣らぬ長身、金髪蒼瞳のハンサムな容姿と、極めて優秀な頭脳の持ち主だが、奇妙な日本語を操り、常にアッパーテンションな性格で、周囲を混乱の渦に巻き込むことも多い委員会のムードメーカー。
(ただし怒り出すと、えらく流暢な日本語で早口でまくしたてるため、「お前、本当は日本人だろ」と突っ込まれるのがお約束である)麻薬中毒で娼婦の母と、その母に男を抱かせて金を貪るアルコール中毒の父を持って「いた」。
マシューが物心ついたときには、既に母の精神崩壊は深刻なものになっていたが、彼が7歳の折、父親が金の入りが少ない母に激怒して殺しかけたとき、その父を、無我夢中で鈍器で殴り続け、逆に死亡させている。
執行猶予判決を受けて後、母親は厚生施設に入り、マシュー自身は別の、人格者の里親の下で育てられ、幸運にも優秀な学生となった。この時の光景は、現在に至るまで、常に彼の精神をさいなみ続けている。10年が経ち、麻薬中毒を克服した母が自分に逢いたがっていることも知っていたが、顔を合わせる勇気を持てなかった。
だが、法雨 冬士 、刀儀啓、京 一樹 らと語り合うなかで、「家族」というものの意味を考え直した彼は、勇気を総動員して帰国し、母親との対面を果たすこととなる(「Fortissimo」)。軽音楽部副部長としての彼は、チェンバロの名手である。凄まじい集中力と、鬼気迫る空気で悲曲を弾くことを好み、普段の明るい彼とのギャップが注目されている。
だがその姿も、普段のアッパーテンションな彼の様も、過去の罪の圧迫から逃げるために、マシュー自身が無意識に作り上げている幻影の姿であることを、知っている者は少ない。まだ日本語に不得手なせいか(という本人の言葉を信じている友人はいないが)文系は苦手だが、理数系には非常に強く、意味の無い計算を繰り返したり、データとして並んでいる数字を眺めるが大好きという、ちょっと変わった趣向の持ち主。
そのためか、委員会でも予算関係を機能的に組み立てる作業に抜群のセンスを示しており、唯一、金銭感覚だけが欠如している酒々井カスミに重宝されている。
自身も卒業後はその方向への進路を希望しているようだ。また、日本のオタク文化に興味を持っており、来日以降、研究を重ねているうちに完璧に「染まって」しまった。今では無類の「巫女」と「眼鏡っ娘」好きで、その道の大家として、学園内でも有数の存在と化している有様。
自身が陽性のせいか、オタクっぽい暗さとは無縁だが、なまじ頭がいいので、つい話を振ってしまうと、その魅力について際限なく、いつまででも喋り続ける。
最近、和風文化そのものにも凝っていて、時間をつくっては茶道部に入り浸っている。
酒々井 カスミ (しすい・かすみ/Hildegard Kasumi Waldheim)
私立謝名堂学園高等部の三年生で、生徒総会執行委員会・42代最高評議会議長。身長172cm、3サイズ92-61-88。
第四部「Blood Cross」の主人公。ドイツからの留学生で、本名はヒルデガルド・カスミ・ワルトハイム(Hildegard Kasumi Waldheim)。「酒々井 」は日本人である祖母の姓。姫廻 唯空 は中等部時代からの親友。強烈なリーダーシップと恐るべき行動力・知力を併せ持つ完璧主義者。
「大胆さと緻密さを併せ持つ大型ブルドーザー」とあだ名されることもあり、敵対している臥龍岡 生徒会長の温和な性格と比較されることも多い。
有能な後輩である京 、刀儀 、法雨 、マシューらを発掘し、クーデター同然の強引な選挙で生徒総会執行委員会を手中にしてからは、強固な生徒会一極支配に対抗すべく、精力的に活動し、組織の力の向上にまい進し続けている。そのため、一部の生徒会幹部からは蛇蝎の如く嫌われており、彼女を表す独自の隠語まで存在する。
自分にも他人にも厳しく、有限実行を旨とする。部下には常に完璧な仕事を要求するため、委員会は幹部になればなるほど胃痛持ちが増える傾向があるようだ。
カスミが生徒会に対して異常に対抗意識を燃やすのは、生徒会長である臥龍岡 晃 と、中等部時代に深刻な諍いがあったからと言われているが、真相は不明である。ドイツの実家は厳格なプロテスタント家庭で、本人も敬虔なクリスチャンだが、父親の行き過ぎた創造論教育(ファンダメンタリズム。ダーウィン進化論を否定し、聖書にある「神による創造」の記述こそが本当の歴史であると信じる考え方)に反発し、尊敬する兄を頼って家出同然に来日して以来、実家とは断絶状態にある。
日本では、本名であるワルトハイム姓ではなく、酒々井姓を名乗っているのも、できるだけ実家のことを思い出したくないからのようだ。
しかし、その兄はバイク事故で入院して以来、意識を取り戻すことなく眠り続けており、カスミは毎日のように病院に通っては、兄の世話をしている。実家が堅苦しかったせいか、学園のある
十八成 市の活発で自由な空気をかなり気に入っているが、時折、不安に押しつぶされそうになることもあるようだ。
そのせいか、最近は放課後に、学園内にある教会で考え事をしている姿が、度々目撃されている。
カスミ自身が他人に対して弱い部分を見せない性格のため、その理由を知る者は、親友の姫廻唯空しかいない。生徒会や実家との深刻な確執、PTAの専横、最高裁判所の横槍など、立て続けに起こる事件にも完璧に対処していたが、敬愛する兄の死をきっかけにすべてが狂い始め、精神的に壊れる直前まで追い込まれる。
そんなカスミに手を差し伸べたのは、対立していた生徒会長としてではなく、一人の同級生としての臥龍岡晃だった(「Blood Cross」)。第四部以降も、生徒会との確執は相変わらずだが、臥龍岡との個人的な関係は徐々に改善に向かっているようである。
一見して欠点の無い存在のように周囲からは思われているが、どういうわけか金銭感覚だけが完璧に欠落しており、月末は常に金欠にあえいでいる。
料理などはそつなくこなすものの、材料や調味料の購入はすさまじく大雑把。ドカ買いして腐らせてしまったり、そうかと思えば逆に渋りすぎて「素カレー」や「素うどん」を余儀なくされたりと極端で、ときどき様子を見に来る姫廻唯空を、何度となく呆れさせている。ジョーク交じりにからかってくる京一樹を、よく追い掛け回している。
当初は本気で腹を立てていたが、京の邪気の無い性格にあてられて、最近ではカスミもなかばストレス発散に楽しんでいるような節もある。
祖母の口癖だった「百年早いわ!!」という言葉が、最近はカスミの口癖になりつつあり、怒りの度が増すたびに、数字がどんどん大きくなる。
また、趣味にしているバイクツーリングは、尊敬する兄の影響が強い。卒業後は、兄と一緒にヨーロッパをバイクで一周したいと考えていたが、それもかなわぬ夢となってしまった。
姫廻 唯空 (ひめぐり・いそら)
私立謝名堂学園高等部の二年生で、新聞部副部長、編集委員長。身長163cm、3サイズ93-64-92。
第五部「The Life Screen」の主人公。第四部の主人公である酒々井カスミは中等部時代からの親友。
年齢的にはカスミと同じ三年生だが、結婚と出産のために一年間休学しており、現在は三つ子の母である。ウェーブのかかった長い髪と細い目が特徴。
穏やかな性格の人格者だが、26万部発行という、学校新聞としては世界最大級の規模を誇る「謝名堂日刊新聞」(校外に22万人の読者を持つ)の印刷と、400人の記者(部員)、十億単位の予算を取り仕切る、新聞部の実質的な責任者としての実務能力・責任遂行能力、そして斬新な企画を次々と押し出す企画立案力は非常に高い。
また、悪質なゴシップばかりを追いかけて、紙を三流の芸能新聞に成り下がらせていた上級生を追い出して紙面を 一新させるなど、芯の強さは親友のカスミに劣らないものがある。何事にも妥協しない点もカスミと似ており、一年生の年度末に結婚と出産を決意したときは、両親、学校、そしてPTAを相手に回して一歩も引かず、自分の決意を貫き通し、全校女子に知られる存在となった。
(この事件のとき、仲の悪い生徒会と生徒総会執行委員会が、私情を排して全面協力、全力で唯空をバックアップし、学校・PTA側との折衝を行ったことでも注目を浴びた)。
カスミのように感情を前面に押し出して相手を圧倒する、ということはなく、静かに相手の意見を聞きながらも自分の意見を曲げないタイプ。
「英雄になるのは男の仕事。女の仕事は、男をその気にさせて裏から世界を操ること」という言葉に、何事も自分でぶつかって解決しないと気がすまないカスミとの、決定的な違いが見てとれる。結婚のときに自分を支え続けてくれた、カスミや生徒会長・
臥龍岡 晃 との友情は、何よりも大切にしている。
お互いに相性の悪い臥龍岡とカスミの双方に対して微妙にフォローを入れたり、 第四部でカスミが壊れかけたときは、真っ先に生徒会に押しかけて、臥龍岡に厳しい発破をかけたりもした。
第六部で法雨 冬士 が暴走を始めたときは、カスミに忠告と重要な情報を与え、内部の刀儀 啓 とともに、外部からカスミを支え続けている。(法雨の従姉妹である
降魔 夕菜 が、新聞紙上で人気コラムを連載している関係で、唯空と法雨は面識があった。唯空は、彼の持つ危険性にもっとも早く気づいていた人間の一人である)今の夫とは、高い障害を共に乗り越えたこともあり、夫婦生活はたいへん順調。お互いに忙しい身の上で、お互いの実家との関係など難しい問題もあるが、夫からは大切にされており、本人は幸福で充実した毎日を送っている(「The Life Screen」)。
カスミからはよくからかわれているが、入院している兄の面倒を見ているカスミの立場を思って、彼女に対してのろけることは、滅多に無い。女子生徒からのカリスマ的な人気、生徒会・委員会の双方のトップにコネがあるという強み、新聞部副部長として情報を一手に掴むことができる立場、などから、彼女を指して学園最大の実力者という者もいるが、本人は全く気にしていない様子。
法雨 冬士 (みのり・とうじ)
私立謝名堂学園高等部の二年生で、生徒総会執行委員会・常任理事、総務部長・兼・校内安全保障局長。身長179cm。
最終章「Everything」の主人公。一見すると聡明で人当たりの良い少年で、京 一樹 、刀儀 啓 、マシュー・レインハートとともに最高評議会議長・酒々井カスミを支える最重要人物だが、委員会の闇の部分に誰よりも深く関わっており、敵対する生徒会から、最も危険視されている人物でもある。行動計画立案や演説草稿作成に優れ、酒々井カスミの政権奪取における最大の功労者と言っても過言では無い。
だが、その真の功績は、選挙の裏で反対者を容赦なく粛清した冷徹さにおいてのものだった。学業に優秀な刀儀啓やマシューなどとは、違った意味で大変な知識量を誇り、その大半がアンダーグラウンドなもの。目的のためならば手段を一切選ばず、学校の内外に正体不明の協力者を複数持ち、ブラックホールをいくつも作っては、教師・生徒・PTAと立場など関係なく多くの敵対者を追放・駆逐し続けている。
仲間から度々忠告や助言を受けており、それを心底ありがたいと思っているが、一方では素直にそれを受け入れられない自分に苛立っているようだ。だが、普段の彼は、それなりに真面目で、それなりに優秀な普通の学生である。「うずら卵の水煮」が大好物で、1パック(100円)おごってもらえれば、大抵の仕事は引き受ける。また総務部長としても、委員会の仕事を停滞させたことは一度も無い。
中学時代は陸上部で、県内でも知られた名スプリンターだったが、大事故に遭って陸上の道を諦めざるを得なくなり、さらに酒々井カスミにスカウトされて裏の仕事を任されるようになってから、穏やかな「表の顔」と、冷酷非情な「裏の顔」の極端な乖離が始まった。母親は既に他界し、父親は行方不明。現在は叔母の
降魔 一家に世話になっているが、かつての敵対者が起こした、最愛の従姉妹の誘拐・輪姦事件が、彼を悪魔へと変えてしまい、十八成 市史上、最悪の惨劇を招くことになってしまう(「Everything」)。他の幹部と同様、酒々井カスミを尊敬してはいるが、一線を引いた視線で彼女の行動や性格を冷静に分析している。
また、その酒々井カスミに最も信頼されている親友、京一樹にも、尊敬の一方で微妙な感情があり、この三人の小さな緊張関係が、「Sugarless Ring Days」という物語の一つの鍵となった。元スプリンターだけあって運動神経抜群だが、チーム制の競技は苦手で、その中でも球技は飛びぬけて下手。
委員会親睦のボウリング大会では「8」という伝説的スコアをたたき出し、酒々井カスミに大口を開けて愕然とさせるという「偉業」を達成したほか、球技大会でソフトボールの投手をしたときは、初回に対戦チームの打者を7人退場させて試合放棄に追い込むという荒業もやってのけた。
京 深雪(かなどめ みゆき)
第一部のメインヒロインで、一部主人公・京一樹の義理の妹(父の再婚相手の連れ子)。旧姓「
釈迦弁尼仏 」。謝名堂学園女子空手部の唯一のエース。
とにかくよく笑い、よく怒り、よく泣く。感情表現がストレートだが、さっぱりした面倒見の良い性格のためか、頼りにされることが多く、法雨綾や五百扇遥、コヨミたちと行動するときも、リーダー格になることが多い。父を早くに亡くし、おっとりした性格の母と姉を守るために空手を習い始め、自ら強がっているうちに、今のような性格になった。
現在は空手に夢中になっているが、恋愛にも興味津々。しかしジョークで鉄拳が飛んでくるようなタイプなので、異性には好かれるどころか恐れられる一方である。
母が再婚し、兄ができると知らされたとき、一樹が「生意気にも」空手を嗜んでいることを知り、自信満々で挑戦。しかし、ものの見事に叩きのめされた。
それ以降は一樹にベタ惚れ状態で、どこに行くにもついて回っているが、空手で負けたこと自体は悔しいらしく、復讐の機会を淡々と狙っている。非常に正義感が強く、仲間をトラブルから救う機会も多い。第二部では、会社のトラブルから暴漢に襲われた遥を救い、第四部でも、兄のいないときに闇討ちされた酒々井カスミをピンチから救っている。
第六部では、誘拐されかけた降魔夕菜を助けようとして刃物で刺され、瀕死の重傷を負う。それでも、暴走し始めた親友と対決しようとする兄・一樹を心配し、病床から勇気付けた。※なお、第一部には三人のヒロインがいるが、深雪の姉・紗遊里は学校が違い、一樹の実妹・景子は父とともにイギリスに滞在しているため、第二部以降には登場しない。
紫合 奈緒(ゆうら なお)
第二部のメインヒロインの一人で、かつ第四部最大のキーパーソン。二部主人公・刀儀啓や六部の主人公コンビ、法雨冬士&降魔夕菜の幼馴染みで、中学時代はよくこの四人で行動していた。
謝名堂学園看護科の二年生。一人だけ制服が違うのは、他の人物がみな普通科の生徒のため。市内でも有名な総合病院の院長の娘で、本人も医療の道を志しているが、高校に上がった直後から重度のメニエール病に悩まされており、夢をなかば諦めかけている。
幼い頃から医療現場を見ながら成長してきたためか、性格は極めて現実的。理想主義的な一面のあった啓とは幼稚園のときからそりが合わず、ケンカばかりしているが、毒舌に近い軽口をたたきあいながら、不思議といつも一緒にいる。悪口スレスレの毒舌や乱雑な言葉遣い、男勝りを通り越したガサツさなど、看護師をめざしているわりに性格には問題も多いが、実習では思いもよらない発想で教官を驚かせたり、ナイチンゲール誓詞を小学生のときから暗誦してみせたりと、天才肌の努力家。
また病に悩む人への偏見や蔑視に対しては、非常に過敏に反応し、問題を起こすこともある。特に、人とは違う身体的特徴を持つ親友・降魔夕菜への悪口には、ときに夕菜の保護者である法雨冬士以上に過激に反応する。第二部では突然できた妹との関係を悪化させる一方の啓をこき下ろす一方で、父の人脈など利用できるものをすべて利用して
五百扇 グループの内情に探りをいれ、啓と遙の関係を改善させようと奔走した。
また、第四部では親の病院に入院していた兄の死を酒々井カスミに告げ、カスミが壊れるきっかけを作ったが、その兄が病院に運び込まれたときに発した最後の一言を奈緒は覚えており、臥龍岡生徒会長を通してその言葉をカスミに伝えることで、カスミを絶望の淵から救う役割を担った。やや毒のある明るさの持ち主だが、筋金入りのマゾヒスト。
五百扇 遥 (いおぎ・はるか)
第二部のメインヒロインの一人で、二部主人公・刀儀啓の異母妹。「
五百扇 グループ」という大企業群の創設者の娘で、いわゆる「お嬢様」。
家庭内で最大のタブーとなっていた兄・啓の存在を偶然知ることになり、兄とその母を捨てた父の悪行を償うために啓に近づいたが、父の存在と共に自分自身のことを徹底的に否定されてしまい、人間不信に陥る。その後、両親の事故死と共に、重役たちに会社を乗っ取られグループは崩壊、一夜にして全てを失った遥は啓の元に転がりこみ、紫合奈緒や降魔夕菜に支えられながら、「家族」となった兄・啓に受け入れてもらうため、健気な努力に務めることになった。
「元」お嬢様であるためか、一般の世間とは色々と常識も異なり、また第三部以降はかつての明るさを失ってしまっているためか口数も少ないが、精神的に強いものを持っている努力家で、暴れまわる深雪やコヨミのストッパーを務めることが多い。
幼い頃から嗜んでいる茶道や華道の腕前は師範クラスに達しており、謝名堂学園に編入以降は、いつも放課後に茶道部でお茶をたてている。部室が閑静で落ち着きがあり、遥が聞き上手ということもあってか、この部室に出入りしている登場人物は多く、京一樹やマシュー・レインハートのボケ倒しの会話や、姫廻唯空の愚痴などを、静かな微笑で見守っている。現在は、将来的に兄の仕事の手伝いができるようにと、秘書の勉強に励んでいる。全登場人物中、もっとも小柄な身長147cm。
派手な活躍こそないが、登場回数は多い。第六部で、かつて自分と兄との関係改善を助けてくれた降魔夕菜の悲報を伝えられたとき、第三部以降では初めて、強い感情をあらわにした。
コヨミ・ワズディン
第三部のメインヒロインだが、第三部では主人公マシュー・レインハートの回想の中とエンディングでのみ登場。日本での登場は謝名堂学園に留学してくる第四部以降。
マシューと同じく麻薬中毒の両親に虐待されていた過去を持ち、誰も助けてくれなかったという悪環境の元、黒魔術を心の糧として両親と周囲とを呪詛し続けた。
マシューと同じ里親に引き取られて以降は、徐々に元来の気丈な性格が顔を出すようになり、いつまでもウジウジしている義兄のマシューを蹴っ飛ばしたり呪ったりと、彼女なりに元気付けていた(?)。来日以降、京深雪や法雨綾、五百扇遥らと仲良くなる。基本的には明るい性格だが、自分の思い通りにならないと、誰彼かまわず呪い倒すというハタ迷惑極まりない悪癖があるため、様々な意味で恐れられている。
しかし、その魔力が物語に与える影響も大きく、第五部では、姫廻唯空が事件に巻き込まれていることを咄嗟に察知して、屈強な教師ビクスン八甲田を不可視の力で攻撃して時間を稼いだほか、第四部では酒々井カスミの精神的な崩壊を予知してマシューに注意を促したり、第六部では誘拐された降魔夕菜の監禁場所を的中させ法雨冬士に届けたりと、物語の要所々々で重要な役割を演じている。
また、法雨綾という「存在」が持つ違和感についても、第四部の時点で既に気付いており、深雪たちに近づいたのも、マシューの親友の妹たちという理由だけではなかった。学園内では常にジャージで行動しているが、これは運動部に所属しているからではなく、スカートというものが大嫌いなため。スラックスを穿かせろと学園長に直訴するも特例を認められず、やむなく体操着で過ごしている。
降魔 夕菜(ごうま ゆうな)
第六部のメインヒロインの一人で、かつ第二部のキーパーソン。六部主人公、法雨冬士の母方の従姉妹。校内新聞をはじめ、校内の様々な機関紙で連載を持っている人気ライター。
頭についている猫の耳は、周囲からは飾りのように思われているが、実は本物。ちゃんと耳として機能しており、人間のものと合わせて四つの耳を働かせているため、常人の数十倍という聴力を持っている。これは、彼女ら降魔一族の遺伝的な特徴で、彼らは生まれたときから身体のどこかに動物の機能の一部を持って生まれてくる。現在は社会的な体面もあって、代々世話になっている医師に、それらの部分を切除してもらっているが、夕菜の場合は部位が頭であり、生命の危険もあったため、とることができなかった。
幼い頃はこの耳が原因で苛めの対象になったりもしたが、そのたびに庇ってくれた従兄弟の冬士に対しては盲目的な愛情を、親友の紫合奈緒には絶対的な信頼を寄せている。その耳に影響されているのか、常に大量のノラ猫(本物)を引き連れ、自由自在に猫を操る。また余り目立たないが、本人も作中トップクラスの反射神経の持ち主。
独特の感性を持ち、刀儀啓のことを「ギーやん」、紫合奈緒を「らっちゃ」、姫廻唯空を「グリさん」など、知り合いをまともな名前で呼んだことがない。夕菜がまともに名前を呼ぶのは、冬士だけである。
第五部までは登場人物たちの良き相談役で、特に第二部では、親友の紫合奈緒に協力して情報の収集にあたりながら五百扇遥を支えた。
しかし第六部で、従姉妹の法雨綾に関係するある事実に深入りしすぎたせいで誘拐事件に巻き込まれる。繰り返される輪姦の末に自我を崩壊させ、錯乱。自分のことよりも冬士に迷惑をかけることをなによりも恐れ、自ら命を絶つ。
法雨 綾(みのり あや)
第六部のメインヒロインで、六部主人公、法雨冬士の異母妹。各章の主人公に関わる、ある重大な秘密を持つ作品最大のキーパーソン。冬士とは長らく離れて暮らしていたが、第六部冒頭(時期的には第一部よりも前)、突如として冬士の前に現れ、生活を共にするようになる。
長く閉鎖的な山奥の田舎社会で暮らし、女手一つで自分を育ててくれた母と共に周囲から好奇の目で見られ続けていたためか、人間関係には臆病で、決して社交的とはいえないものの、性格そのものは常識家で礼儀も正しい。
謝名堂学園の一年生に編入して以降、大都会・十八成市での生活に最初は戸惑い続けていたが、親身になって相談に乗ってくれた兄や降魔夕菜にはよく懐き、特に夕菜のことを「ゴマちゃん」と呼んで慕っていた。
兄同士が親友ということもあってか、京深雪や五百扇遥らとは自分たちも大の親友。それにコヨミ・ワズディンを加えた四人でいつも行動している。母親が働いていた時に家事を一手に引き受けていたこともあり、料理や和裁などは完璧にこなし、忙しい学校行事や父の幻影に悩まされる兄・冬士を支え続けた。また、なぜか世界で五人ほどしか喋れないというレッドデータ言語「エツナキブルゥ語」を研究しており、たまに、誰にも理解できない言葉で何かをボソッと呟く癖がある。
第五部では、姫廻唯空を押し倒して犯そうとした屈強な教師ビクスン八甲田に、コヨミと共に立ち向かい、八甲田とこの「エツナキブルゥ語」の問答による大立ち回りを演じた。
しかし第六部で、冬士は些細なことがきっかけで「法雨綾」という人間が既にこの世には存在していない、という事実を知る。これが降魔夕菜の誘拐・監禁事件へ発展し、「Sugarless Ring Days」の物語は決着へと向かう。
私立 謝名堂学園
わたくしりつ・さなどうがくえん。
総生徒数33万8000人、教職員4万2000人を要する、小中高大一貫の超巨大学園で、本シリーズの舞台。
住所は、十八成 市 謝名堂 学園特別行政区1-1-1。広大な面積を持つ十八成市の、1/5を関連施設で占有する。
なにもかも極端にスケールが大きなことで有名で、45の学部、(わかっているだけで)420のクラブ活動があり、体育館17箇所、図書館15箇所等の施設はもちろん、発行部数26万部(うち22万部が校外向け)を誇る学内新聞を発行する新聞部や、市内に独自の放送網と8万世帯に及ぶ視聴者を有する放送部など、大規模な部の活動費は年間数十億円規模に及ぶ。同好会の数は算出不可能。
生徒自治の気風が極めて強いことでも有名で、現在は、生徒会と生徒総会執行委員会の二つの生徒組織が、険悪な中にある。
謝名堂学園生徒会
「SSM」の通称で知られる、謝名堂学園の代表的な生徒組織。最高行政執行機関。現在の66代生徒会の構成人数は、約600人。
第66代生徒会長である
臥龍岡 晃 は、温厚な人柄と強力なリーダーシップで生徒会を牽引する。
副会長は、生徒会長の幼馴染の「剣聖」こと雅楽 雅純 と、イスラエルからの留学生、マンハット・ベンベニスティ。
彼らに率いられる中央委員会は、弾性に富んだ施政を行っており、評価は高いが、何かと敵対している生徒総会執行委員会の酒々井 最高評議会議長とは、難しい関係が続いている。教師陣の信頼は非情に篤く、億を超える予算でもない限り、その殆どの決定権が生徒会長、及び中央委員会に委ねられている。
現在の監督教師は、ジネディーヌ・ティエリ・ゾラ。
生徒総会執行委員会
「ECSPM」「委員会」の通称で知られる、謝名堂学園の代表的な生徒組織。現在の42代委員会の構成人数は、約4400人。
当初は生徒会の活動を監視するための第三者機関だったが、現在は最高立法機関にして、生徒権利の最高機関とされる。生徒会の提出した重要な案件を吟味した後、それを全学園生徒の投票にかける「生徒総会」の開催を司る。42代最高評議会議長である
酒々井 カスミは、生徒会の下部組織と化していた委員会を、過去最強の組織へと一代で改革した女傑で、臥龍岡生徒会長とともに生徒・教師の支持を二分する存在である。
だがそれゆえに、生徒会上層部との軋轢も過去最悪規模であり、臥龍岡と酒々井は、個人的にも険悪な仲で、ケンカが絶えない。
生徒会よりも学園の暗部に関わることも多く、主要人物に黒い噂がささやかれる事も少なくない。現在の監督教師は、相楽正人。なぜか幹部に珍姓奇名の人物が多いことでも有名。
最高調停裁判所
主に生徒間で起こったトラブルの解決を目的とする、学園内の最高司法機関。その活動は、一般の軽い喧嘩ごとから、クラブ間の揉め事、教師と生徒の対立の調停まで、多岐にわたる。
生徒会、生徒総会執行委員会の双方に中立の立場をとっているため、昨今では、対立しがちな両組織の間を取り持つことも多い。組織は「下級」「中級」「上級」「最高」の四つの段階に分かれており、上に行くほど重要で深刻な事件を取り扱う。
「最高裁判所長」は、生徒会の「生徒会長」、生徒総会執行委員会の「最高評議会議長」と並び、絶大な権力を有し、この三者をして「学園三長官」と呼ばれるが、その組織の特色ゆえに、政治力と同時に厳格なバランス感覚が必要とされる。現在の第37代最高裁判所長・
鶺鴒 葉 (三年)は、温和な臥龍岡 生徒会長や、直情径行のある酒々井 最高評議会議長と異なり、とことんクールな現実主義者で、この二名を正面から堂々と批判することができる威厳を持った、ただ一人の人物である。
この三者が引き合いに出されて組織が比較されることも少なくない。
また、鶺鴒最高裁判所長は「情報発信機能は行政機関に一元化されるべきである」という思想の持ち主で、新聞部の姫廻副部長にとっては天敵中の天敵である。
監督教師は、元法務大臣という異色の経歴を持つ老教師、筑摩天膳。
トレジャーハンティング・ショッピングストリート
十八成 市の主要駅「十八成駅」の東側に広がる、デタラメに巨大な商店街。十八成市で商店街といえば、まずここのことを指すが、市の発展に伴って拡大に拡大を続けた結果、すでに「ストリート」とは呼べない規模になっている。
総面積は約9400ヘクタール(東京ドーム2010個分)で、市内の主な施設もここに集中する。曰く、「ここを回れば、医者から独裁者まで、できない商売はない」といわれるほど商店の数も種類も多彩で、合法・違法問わず、まず手に入らないものは無いが、それゆえに一部地域では治安も悪い。
年間の訪問者数は約7億人。全市民が三日に一度は訪れる計算で、市の行方不明事件の二割はここで発生する、とまで言われている。
謝名堂学園の生徒だけでなく、仕事帰りのサラリーマンや主婦など、ありとあらゆる客層のたまり場となる店が数多くあり、物語の重要なイベントが展開することもある。