WWE 2007 SmackDown vs Raw

2007年1月25日発売/THQジャパン/60点

 パッケージから既に大胸筋炸裂な、ジャンルを間違えようもないプロレスゲーム。
 このパッケージでギャルゲーなどと間違えて買ってしまう人は、例えるなら鳥取県に行かなきゃいけないのに気づいたらソマリアにいたとかいうレベルのうっかりさんです。
 
 WWEは、コアなファンが非常に多いアメリカのプロレス団体。強烈な個性とカリスマを持つマクマホン一族が絶対的な経営権を握り、プロレスの試合だけではなく、その前後のエピソードまでを含めた、徹底したアングル(ドラマ仕立て)の仕掛けが最大の特徴。
 なにせ、所属プロレスラー(WWEではベビーフェイスを「スーパースター」と呼称)の父親の葬儀にヒールレスラーが乱入するわ、試合後に三度も生き埋めにされるわ、リンダ・マクマホンCEO(本物)はツームストン・パイルドライバーを食らうわ、ビンス・マクマホンオーナー(本物)はトップレスラーを破って世界タイトルを奪うわ(当時54歳。最高齢記録としてギネスブックにも載った)、オーナーの娘ステファニー(本物)は豊胸手術をテレビでバラされるわ、女性マネージャー(「ディーヴァ」と呼称)は下着で戦わされるわ、もうレスラーもオーナー一族も観客も巻き込みエロもグロも何でもアリで盛り上げる節操のなさを誇る日本じゃ信じられない団体で、そのアングルのストーリー製作を担当する専門の会社まで存在します(特殊効果にもハリウッドで活躍するスタッフが豪華に投入されている)。
 最近では、ついにビンス・マクマホン(62)がリムジンごと爆死。
 試合前の状況と合わせて明らかにアングルなんだけど、RAWが収録された地元の警察署には、ビンスの容態を心配する電話が50件以上かかり、ABCのローカルニュースでは「ビンスは生きている」という報道まであったそうです。
 凄ぇな(笑)。
(だが、クリス・べノアの急死で結局このアングルはストップしてしまった。その後、ビンスの隠し子発覚というストーリーにシフト)
 これでも、株式を公開するまでは「アングルは一切ない」とのうのうと言ってたんだから頭が下がります。アングルを認めたのは、株式の公開に伴って事業内容を説明せざるを得なかったから。それさえなければ未だに認めてないでしょう。ここまでやっといて(笑)。

 さて、ちょっと前置きが長くなりましたが、本作はそんな最高にエキセントリックな団体をモチーフにしたプロレスゲームです。「SmackDown!」も「RAW」も、WWEが毎週放送する看板番組。どちらかといえば「SmackDown!」がアングル抑え目で試合内容重視、「RAW」がその逆というスタンスで、所属レスラーも異なる2リーグ制になっています(ビンスが爆死したのは、当然「RAW」)。
 タイトルからも解るとおり、本作はそのスタンスもレスラーも異なる二大番組が激突する、まさにWWE好きにとっては、咽喉から爆死したビンス・マクマホンがうねり出てきそうなほど刺激的なゲーム……に、なる予定だったのですが。

 ……なんでこんなんなっちゃいましたかねぇ?

 ま、ぶっちゃけてしまうと「エキサイティング・プロレス8」ですので、あのシリーズをプレイしたことある人ならわりと入門に苦はないと思います。

 ただ、前作をプレイしてるとちょっと拍子抜けするかもしれません。よく言えば「前作の」(続編ではない)正統進化バージョン、悪く言えば「マイナーダウン版」と言ったところで、驚くような新鮮さは、正直ありません。
 グラフィックの質は格段に向上してますし、微妙な変更点もあるんですが、一番のウリだったはずのCAWの退化はどうしたことか。かなり自由度が高く、好き勝手絶頂にオリジナルレスラーが作れるモードなんですが、パーツの数も技の数も減っちゃって、ちょっとがっくり。入場エディットが請ってるだけに、余計に残念ですね〜。なにも残念なところを6に戻さなくてもいいのに。

 またグラフィックは確かに大幅に進化しましたが、CAWの退化に合わせたのか、大幅に技のモーションが削られてる様な気がします。追加技もあるにはありますが、削除された技のほうが明らかに多いよね? これまた「何故?」と首をひねるところ。いつまでたってもRKOが別の技だし、スイート・チン・ミュージックが古いパターンのままだし、やる気がはたしてあるのかないのか……。
 あと、体重差システムというのもわりと曲者。軽量のスーパースターは重量級の相手に対してハンディキャップマッチになるのですが、これがもう、投げようにも持ち上がらないわ、打撃が効きにくいわで、マリオの前のクリボー状態で、全然試合になりません。現実感といえば確かにそうですけどね。アリでは象には勝てないというのか。
 シナリオは一本道だし、パラメーターは殆ど意味ないし、転ばされた後に起き上がるのが致命的に遅いし、CPUが鬼だし……。

 ちょこちょこと操作性の変更等はありますが、以前の「エキプロ」のほうが技を出しやすかったかな? Xbox360版はちょっと以前と操作感覚が違う、というか、めちゃくちゃ複雑になってます。そこらへんに新鮮さを感じられれば充分にアリですが。
 本物のWWEのストーリー(アングル)にゲームのストーリーが追いついていないところは、ゲームという媒体を考えれば仕方がないところでしょうか。このへんは何より“旬”“新鮮さ”が命なので、やっぱり頑張って欲しくはあったけど。

 しかし、登場キャラクター数は常軌を逸したさすがの78人。それが、本人たちの声で喋り捲ります。また、試合感覚自体は、以前よりもプロレスらしくなりました。ラダーを使った戦法も(バグで、ラダーの上からいきなりコーナーポストにワープしたときはビビッたけど)面白いです。
 結局のところ、前作と比べてしまうとやや残念というか、演出面では合格点だけどゲームとしてはやや残念というか、一言で言えば「超微妙」。
 360のタイトルの他の例に漏れず、本作もやはりキモはオンライン。実績解除が絡んだランクマッチはかなり鬼ですが(負けそうになったら切断する人、多いなぁ……)、マッチプレイではフレンド集めておバカファイトを延々繰り返すだけでもけっこう楽しめます。
 ……というか、同タイトルのPS2版が、360版以上に、シャレにならないレベルでブッ壊れた出来だったので、それに比べりゃこの360版は救われたソフトではあります。

 以下余談。
 WWEでの「ストーリー」では、かなりアナーキーな役柄を演じているオーナーのビンス・マクマホンですが、その実像は、幼少期を複雑な家庭で過ごしたせいか、とても家族を大切にする良き家庭人だそうです。また、ビル・ゲイツと並んで「理想的な経営者」として教材になるほどの優れた経営手腕を持っているとのこと。
 すっかり「悪のオーナー」としてのキャラクターを定着させていますが、WWEを一大ショープロレスに成長させ、良くも悪くもファンからこれだけ愛される所以は、やはり経験からくる懐の大きさと、体当たりの愛ゆえなのでしょうね。
 本作はそういったビンスの体当たりの愛を表現しようと努力したあとが、そこかしこから感じ取れます。その努力がゲーム方向にもうちょっと向けられれば良かったのかもしれませんが……。

(2008.05.10)