ゴッドファーザー

2007年1月25日発売/エレクトロニック・アーツ/77点

 私のように、テレビでやっている映画でさえ一年に一本も見ず、それこそ映画館に足を向けるのは五年に一度という、ある意味天然記念物級の人間でさえ、その評判を何度も耳にするほどの名作映画「ゴッドファーザー」(1972)。
 本作は、イタリア系アメリカ移民を通してアメリカの裏社会を描き、原作小説を書いたマリオ・プーザ、監督を手がけたフランシス・フォード・コッポラを、それぞれ一躍売れっ子作家・巨匠へと押し上げた、歴史的名作のゲーム化作品です(※1)。

 実は、「ゴッドファーザー」は本作以前、エレクトロニック・アーツがPCでもゲーム化しているのですが、その時は映画「Part1」でビトー・コルレオーネを演じたマーロン・ブランドが自ら肖像使用を許諾したものの、監督であるコッポラが最後までゲーム化に大反対したことで、一部に話題を振りまきました。
(コッポラは当初、パラマウントから「ゴッドファーザー」ゲーム化の話をなにも聞かされておらず、しかもプレビュービルド版でゲーム内の登場人物の扱いを見て、更に怒り心頭だったらしい)。

 このPC版ゲームが、マーロン・ブランドの事実上の遺作となってしまっただけに、ちょっと残念なエピソードではありますが、コッポラにはコッポラなりの壮絶な拘りというのがあるんでしょうね、やっぱり。コルレオーネ・ファミリーは、自分の大切な子供たちでしょうしね。

 で、その曰くのあるPC版をグレードアップし、家庭用に移植しなおしたのが本作、Xbox360版「ゴッドファーザー」。もともとPC版が、家庭用に開発されたものを先行発売したという経緯があるようで、ゲームとしては特に違和感は無し。
 本作は、映画のシナリオを追従していく一本道のアドベンチャーではありません。そもそも主人公がビトー・コルレオーネでもマイケル・コルレオーネでもない無名の一不良という時点で、「ゴッドファーザー」ファンはブチ切れそうですが、きちんと映画のストーリーとリンクはしているので、安心してください。
 映画版「ゴッドファーザー」を表のシナリオとすれば、本作はまさに「裏のシナリオ」。映画版でこんなストーリーが展開していた時、その裏では主人公が絡んだこんなエピソードがあったんだ!という切り口で進行します。

 ま、なんだかんだ言ったところでマフィアもののゲームなわけで、やってることはグランド・セフト・オートなんだけど

 プレイヤーは組織のチンピラとして黙々とシノギをこなし、ゆくゆくはゴッドファーザーの地位を目指します。原作とリンクしたエピソードが無いと、本当にGTAだな、こりゃ。
 組織のシマを広げるために口八丁手八丁で裏社会を渡り歩き、時には相手の首を絞めて脅し、車を奪い、火のついた棒で相手をブン殴り、やりたい放題。首を絞めるときなんか、思わずコントローラーが汗だらけになってしまうほど力を込めてしまいます。
 もちろん、悪いことを続けていると警察に目をつけられるのですが、なんと警察を買収することも出来るのが面白いところ。あらゆる手段で相手を追い詰め、仲間から「リスペクト」を集めながらイケイケドンドン。

 キャラクター・メイキングが凝りまくっててなかなか面白いんですが、グラフィックはPS2以上、他の360タイトル未満、といったところで、要ガンバリ。
 また、GTAと比べてしまうと、少々ボリューム不足を感じてしまうかもしれません。奪える車や着替えられる私服の数は少なめで、イベント自体も多いとは言えず。
 かなり行動の自由はありますが、中盤まで来ると行動はループになってしまいます。脅し、強盗、ミッション、レベルアップ、ほとんどこの繰り返しなので、飽きるのは早いかもなぁ。

 それに、実際のところ、銃弾の嵐をかいくぐり、警官の集団のド真ん中で車を爆破し、我が身を晒し続けて幹部に昇進したとしても、やることは変わんないんですよ。相変わらず我が身晒して死線を潜らなきゃなりません。
 我らがボスであるマイケル・コルレオーネ氏にとっちゃ、主人公など所詮チンピラ、こんなヤツにくれてやる幹部の座なんて、スライムがスライムベスに進化したくらいことでしかなく、最後にゃ「敵対ファミリーの大ボス、全員殺ってこい」などと無理難題を吹っかけてきます。
 こうやってプレイヤーが死に物狂いで頑張っても、その行動にリンクしている映画のエピソードには、主人公の存在は影も形も出てきやがりません。
 ちぇ、どうせ俺はチンピラ、闇に生き闇に死んでいく定めなのです。早く人間になりたーい!

 本作の魅力は、当然ながら「ゴッドファーザーであること」、その一点に尽きます。
 貪欲に映画ファンを取り込もうと考えていたのか、原作に登場する人物を、声・ポーズ・容姿どれも意欲的に表現しようとしているし(意欲的になりすぎて破綻しているところも多いけど)、原作の舞台である1940〜50年代のニューヨークの雰囲気も最高です。
 逆に言えば、ゴッドファーザーの魅力に興味を持てないと、ちょっと毛色の変わったGTA、くらいにしか取れないかもしれません。

 実社会では暴力団排斥の風潮が強い昨今ですが、一皮剥いたらこんなゲームや映画がヒットするわけで、自分がなりきれない「ワル」への憧れというのもは、いつまでも捨てきれないものなんでしょうか。
 もちろん、映画やゲームの中で「のみ」体験できるものだからこそ、売れるんでしょうけどね。誰も好き好んで傷害犯・恐喝犯なんかにはなりたくないでしょうし。

(2007.02.28)

解説 原作小説

 もともとのプーザの原作小説は「マフィア」という題名でしたが、パラマウントがこの作品の映画化権を買い取った際に、プーザ自身が「マフィア」に大幅に加筆修正して「ゴッドファーザー」を書き上げ再出版した、というエピソードがあります。
 もちろん、映画発表前に発売されたこの小説も、大ヒットしました。