ストリートファイター2が礎となった90年代の格闘ゲームブームをカプコンとともに盛り上げたメーカーSNKの、当時を代表する大ヒット作。私はアーケード版のスト2をほとんどプレイしたことが無く、実質的にこの「餓狼伝説SPECIAL(以下、ガロスペ)」から格闘ゲームに入りました。
今でこそ「オールスターゲーム」というジャンルは珍しいものではなく、同シリーズ、同ブランド、同メーカー、あるいはメーカーの垣根を越えた大作も目にします。最も有名なのは任天堂の「大乱闘スマッシュブラザーズ」でしょうが(マニアックなあなたにはPS2の「ドリームミックスTV ワールドファイターズ」とかどうでしょう)、格闘ゲームではカプコンの「VSシリーズ」などは積極的に社外ブランドとコラボしていますし、2010年代の前半にはなぜか美少女もののブランドキャラクター総出演の格闘ゲームが瞬間的に流行したことがあります(ヒットしたかどうかはともかく)。
個人的にはセガのトンデモ格ゲー「ファイターズメガミックス」などが印象に残っています。
話を「ガロスペ」に戻しますと、餓狼シリーズは当時のSNKの看板作品で、マニアックさと漢くささの頂点を極めた「龍虎の拳」シリーズと対を成す作品でした(とはいえ、裏設定は龍虎に負けずかなり重い)。
特徴的な画面奥と画面手前の「ライン」を移動しながら戦える「2ラインバトル」や、一瞬だけ無敵時間を持った「避け攻撃」など、「脱スト2」を目指して意欲的にシステムを構築したあとが垣間見えるシリーズ。
この餓狼シリーズの1と2の人気キャラクターを集め、さらに「龍虎の拳」の主人公リョウ・サカザキをゲストに迎えて、当時の格ゲーシーンを席巻しました。
どのくらい人気があったかというと、昔のゲームのダウンロード販売など思いもよらなかった1993年当時、その移植数はネオジオソフトの中でも最多レベル。ネオジオ、ネオジオCDはもちろん、X68000、スーパーファミコン、ゲームギア、PCエンジン、メガCDからFM TOWNSという渋いところまで、当時買えたゲーム機のほとんどで遊ぶことができました。
また、業務用のネオジオ筐体(MVS)が、ゲームセンターはもちろんデパートの屋上や駄菓子屋の軒先でも見ることができ、小学生が列を作って熱心にプレイしては、巡回途中の教師に見つかって怒られまくったらしいです。
(28000円もしたネオジオ用のカートリッジが、めっちゃ売れたんだぜ!)
登場キャラクターは15名。
陽気なアメリカン、テリー・ボガード。ストイックな骨法使いアンディ・ボガード。熱血ジャパニーズパンツ、ジョー・東。超巨体レスラー、ビッグ・ベア。助平センベイ柔道家、山田十平衛。金の亡者・ザ・デブ、チン・シンザン。極悪テコンダー、キム・カッファン。魅惑の女ニンジャ、不知火舞。最強のダンサー、ダック・キング。巨大化する老人、タン・フー・ルー。ギースの忠臣、ビリー・カーン。元ヘビー級チャンプ、アクセル・ホーク。素手で牛を殺すマタドール、ローレンス・ブラッド。いつの間にか元祖「悪のカリスマ」、ギース・ハワード。微妙な強さの闇の帝王、ヴォルフガング・クラウザー。
そして、業務用では使用できない最強の挑戦者、リョウ・サカザキ(家庭用移植版ではモード限定で使用可能)。
何がすごいって、この15+1キャラのうち、半分くらいは2010年代末の今でも他のゲームに出てるんだよね(裏を返せば、この当時の遺産で未だに食いつないでる、ということなんだけど)。
とにかくまあ、みんな格闘する姿が格好いいわけですよ。SNKは(ゲームはともかく)キャラクターを作らせたら天下一品で、当時もキャラクターの女性人気がすごかった。
ギースが合気道の胴着の上をもろ肌脱いで戦う姿に一目ぼれして格闘ゲームを始めた女性プレイヤーがいたり、バレンタインデーにはジョー東に大量のチョコレートが届いたりと、後のKOFシリーズに繋がる伝説はこの頃から始まったのでしょう。
餓狼2までは不可能だった連続技が実装され(餓狼2ではのけぞり状態が無敵だった)、またコマンドが難しい代わりに強大な破壊力を誇る「超必殺技」の存在のおかげで一発逆転も夢ではありません。小技連発→超必殺技、なんて芸当ができる人はヒーローでした。
また、BGMやボイスがめちゃめちゃスタイリッシュ! 格闘ゲームのBGMにモーツァルトなんて持ってきたのは、本作が初ではないか?
SNK作品は、キャラクターボイスに関西の舞台俳優をあてることが多いんだけど、テリー・ボガードの声優は現在も続くNHK「プロフェッショナル」のナレーターを務める橋本さとし。ローレンスやギースの声を担当しているのは、今でも俳優として活躍している生瀬勝久であるなど、意外な人が意外なキャラを担当しています。
ダック・キングの超必殺技「ブレイクスパイラル」のボイス「You are angel baby!!」(ユネイジョベイビ!)やアクセル・ホークの「Bust you up!」(バスチューアップ!)は、当時の格闘ゲームファンの間でプチ流行語になりました(ただし、どっちも外国人に向かって言うと、確実に殴られます)。
今でも語り草になっている超必殺のコマンドは、+ACとか、+ACとか、「こんなん、強パンチキャンセルで出せるかぁ!」というようなシロモノばかりでしたが、慣れとは恐ろしいもので、ギースのレイジング・ストーム(後者のコマンド)を咄嗟に対空技として使うような
(一応、近距離立ち強パンチ→レイジング・ストームが連続技になるが、一般人にはまず無理)
肝心の格闘ゲームとしては、キャラクター間のバランスはかなり悪く、特にライン移動行動が全身無敵のため、ちょっと体力差がついたらライン移動で逃げまくり、というチキンプレイがかなり強かったです。
また「悪魔」と呼ばれたキムを筆頭に舞、ビリーといった強キャラの面々と他のキャラクターの強さの格差が酷く、いま考えたら対戦ツールとしてはかなり微妙。
CPUのアルゴリズムも凶悪で、このゲームの大ヒットは、総てはキャラクターの魅力と、熱狂的なSNKファンの狂騒が生み出した夢の世界、という気がしないでもありません。
とはいえ大ヒットしたのは確かであり、ファンも非常に多く、おっさんゲーマーを対象にして今でも各地のゲームセンターで大会が開かれるほど。90年代には劇場公開を含むアニメも3本公開され、本やCDも数え切れないほど発売されました。
格闘ゲーム全盛期を代表する一本、今でもアケアカNEOGEOなどダウンロード販売のおかげで最新機種で遊べるので、ちょっと手を出してみては?
(そして、各ステージに隠された大量のおまけ要素を発見してみるのもいいかもしれません)
なお、当時大人気だったアーケードゲーム攻略雑誌「ゲーメスト」では、「餓狼伝説」というタイトルが難しかったのか、「飢餓伝説」「餓死伝説」など散々な誤植をされています(ゲームをよく知らない人が「牙狼伝説」とか書いてたりすることも)。
(2018.05.01)