さあ、知っている人がいるのかどうか疑問なほどのマイナータイトル「つぐない」です。
いかにもトラウマをかかえた美少女たちがいっぱい出てくる、「泣き要素」「鬱要素」満載の恋愛シミュレーションかなにかを想像してしまいそうなタイトルですが、実際は、登場人物がみんな骨太ヨーロピアンなメンズビーム満載の肉食RPGです。
プレイ中に思わず心配になるほど本体を酷使するのは、PS2初期の発売のためか、プレイヤーになにかをつぐなわせるためでしょうか?
(正解は、メディアがDVD-ROMじゃなくてCD-ROMのためです)
主人公レイスは、危険な依頼をこなしてその報酬で生活している
ある依頼で大きな宝珠を塔から盗み出してしまった主人公は神の怒りに触れ、肉体と魂とを分割されてしまいます。
魂の状態となってしまった彼は、他人の肉体に憑依してその人物の「心のすさみ」を解決しながら、自分の身体に戻れる日を待つ……というのが大まかなストーリー。
ぶっちゃけていえば、「あなたの心の隙間お埋めします。ド〜ン!!」の喪黒福造(「笑ウせぇるすまん」)を思い出していただければ、内容的には(比較的)近いです。
余りもコンパクトにまとまりすぎたためか、非常に地味なゲームなんですが、かなり野心的なシステムも多く、実際のところ、見るべきところはけっこうあります。
まず面白いところは、ストーリーにも大きく関わっている「憑依」という要素。
主人公は、ゲームの最初に魂と肉体とを分割されてしまい、ゲームの大半を透き通った魂の状態ですごすわけですが、この状態ではドモヴォーイという妖精と霊感の強い大司教以外、街の人間の誰にも気付いてもらえません。話しかけてみても、まともに返事をしてくれる人などいないのですが、そのぶん、誰もいないところでしかいえない独り言なんかを、ポツリと聞くことができます。
街の人たちには様々な事情があり、様々な「悲しみ」があります。借金を抱えた冒険者、家族関係に悩む女の子、口ばかり大きいが自分のドジさに悩んでいる見習い僧兵、物が売れずに悩んでいる道具屋、人には見えないものが見えてしまうために嘘つき呼ばわりされている子供、etcetc……。
主人公は、そんな「悲しみ」を抱えた人たちに乗り移って、本人に代わって数々の問題を解決していくわけです。
憑依した人間によって街の人たちとの会話の内容もガラッと変わったり、クエストをこなしていくたびに徐々に街の異変に気付いていくなど、意外と臨場感があります。
欲を言えば、もう少し作りこんで欲しかったかな、と。
というのも、主に憑依できる人間が、イフェム、フィセラ、アシュゴの三人しかおらず、34個と多いとはいえないクエストの大半がその三人のもの。また、そのクエストも、(ダンジョンやら戦闘やらはあるものの)一つの街の中をウロウロするだけで解決してしまうため、物語が膨らまないんですよ。
言ってしまえば、「テイルズ」や「スターオーシャン」におけるプライベートアクションをちょっと手間がかかるようにした、といったレベルで、これをゲームのウリにするにはちょっとスケール不足かな、と思えてしまいます。
で、本作のもう一つのウリが「戦闘」です。一応「ドラクエ」タイプのコマンド選択式なんですが、「防御」というコマンドがありません。
このゲームの防御は、「敵の攻撃に合わせて、タイミングよく防御ボタンを押す」という、格闘ゲームみたいなもの。
けっこう単純に聞こえるかもしれませんが、じつはこの「防御」だけで、ボタンを四つも使います。
色々とメリット・デメリットがあり、使い分けられたら面白いのですが、まあぶっちゃけるとカウンターガードしか使う必要は無いんですけどね。
で、この特殊なガードに対抗するために、敵モンスターも色々と画策してくれるのですが、そのおかげで、本作の戦闘は非常にイライラする仕様となっております。
「敵の攻撃に合わせて防御ボタンを押す」という仕様への最も簡単で基本的な対抗手段は、「攻撃のタイミングをずらす」ということ。モンスターの皆様は、この教科書どおりの手段を様々な形で実行してくれます。
こっちに飛び掛ってきて一瞬待ったり、移動が恐ろしく遅かったり、踊ったり、そもそもガード不能だったり。そのおかげで防御のタイミングはずらされるのですが、同時に戦闘のテンポが異様に悪いのです。なにせ敵が動くたびに時間がかかるものだから、「あとで回復させればいいや」と防御そっちのけでチャンネル変えて攻撃ボタン連打。
また、相手の攻撃をガードするのが前提の戦闘ため、基本的に与えるダメージは少ないけど、食らうダメージは大きい、という鬼仕様なので、よけいに時間がかかるかかる。特にイケメン弓使いのイフェムなどは、クエストに必ず戦闘がついてまわるのに、本人がすさまじく弱いので、一回の戦闘にめちゃくちゃ時間がかかります。
クリアまでそう時間がかからないコンパクトな本作ですが、プレイ時間の大半はこうしたイライラと共にすごすことに。
キラリと光るアイデアは多く突っ込んでありますが、練りこみ不足もあり、残念ながら「実験作」というレベルで終わってしまっている本作。
ゲーム中の雰囲気は地味なりに悪くないので、アイデアを練りこんで、魅せ方をもう少し考えれば、化ける可能性は大いにありました。そういう意味ではちょっと残念なゲームですね。
ところで、あのエンディングは「主人公とフィセラがくっついた」という意味なのだろうか? あと、魂状態のときは木製のドアや壁をすり抜けられるんですが、どうせなら女子更衣室に(以下、強制憑依の上、自殺)
(2009.06.30)