1988年に発売されたOVA「トップをねらえ!」。
原作:岡田斗司夫、監督:庵野秀明、キャラデザ:美樹本晴彦、メカデザ:宮武一貴という、あらゆる意味で蒸発しそうなほど濃い面々が手がけた、あらゆる意味で濃いアニメです。
「宇宙怪獣」という謎の巨大生物群に狙われる地球を守るために、主人公タカヤ・ノリコは「運動神経はすごいがメカには弱い」という弱点を猛特訓で克服しながら、人類の最終兵器ガンバスターで宇宙怪獣の立ち向かいます。
一話30分の全6話という短い構成ながら、美少女+熱血スポ根+SFロボットという無茶な組み合わせを、無茶な規模で実現。
科学知識がない人だとさっぱり分からない細かい知識や現象を意欲的に取り込んだり、様々なSF作品に対するオマージュがそこかしこにあったりとこだわりが半端ではなく、その人気は、後に18年もたって劇場版が製作されたり、ロボット物のオールスターゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズにキャラ&メカがたびたび出張出演しているところからも明らか。
もともと「トップをねらえ!」は、ガイナックスが商業的には失敗したアニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」の損害※を取り戻すために製作したそうで、尋常ではない力の入れようも分かろうというもの。
さて、上記のように「トップをねらえ!」は全6話のOVAなのですが、本作PS2版は名前こそ同じですが、そのOVA版のゲーム化というわけではありません。
実は「トップをねらえ!」には「幻のテレビシリーズ25話」というものがあり、PS2版はその「幻のシリーズ」のゲーム化になります。
とはいえ、この「幻」というのが実はクセモノで、「放映当時の原版が失われて現存しない」とか「海外のみで放映された」とかいうものではなく、実は「本当に存在しない名前だけの都市伝説」というたぐいのもの。
OVAのサウンドトラック「ウルトラ・サウンド・コレクション トップをねらえ! 田中公平の世界」のライナーノーツにおいて、
「実は「トップをねらえ!」は、先行して放映されたテレビシリーズを6話にまとめなおした総集編である」
という架空の設定が、ご丁寧にも架空の放送リストとともに掲載されたらしいのですが、本作はその「幻の設定」を忠実にゲーム化したものだったりします。
これだけを見れば、ただでさえ濃い内容の原作の熱さを100万倍に増した「新エピソード満載」の、血液沸騰スポ根SFゲームを想像してしまいそうですが、本作は、そのファンの期待を見事に真逆に再現してしまいました。
どういうことかというと、元の全6話に新エピソードをたっぷり加えて25話にボリュームアップするのではなく、全6話のOVA版の内容を、無理やり全25話に引き伸ばしてしまいました。
その結果、1話ごとの内容がスカスカという無残なことに。
1話ぶんのエピソードが終了するごとに、エンディングテーマ→次回予告→オープニングテーマ、とアニメさながらの演出があるのですが、1エピソードが短いおかげで、日高のり子の歌うOPとEDを、心いくまで堪能することが可能です。
しかも、中盤でノリコとともにガンバスターを操縦するパートナーを、アマノ・カズミ、ユング・フロイトの二人から選べるのですが、その選んだパートナーによっては強制的に飛ばされるエピソードがあり、1度のプレイでは「幻のテレビシリーズ」を全て体験することができません。実質、ゲームとして遊べるのは全25話中、2/3ほど(ただし、第12話は最初から「欠番」)。
しかも、その「話を飛ばされる理由」というのが、恐らくアニメ原作のテレビゲームとしては、史上最強です。
曰く、
「録画し忘れたので見れません」
……ゲームの画面を見ながら体内 時計が止まったのは、久しぶりでした。
ゲームは、ノリコの日常を描くアドベンチャーパートと、宇宙怪獣との戦闘を描くアクションパートとに分かれています。
アドベンチャーパートは同僚のパイロットや教官らとの会話の中で、気になる話題(トピック)を集めていき、会話を発展させていくのですが、キャラによってはトピックに対してまったく無反応であったり、トピック以外の反応が天地ほども違ったりして、作りこみの甘さが伺えます。
先ほどまで仲良く話していたユングに、トピックが尽きたとたんに「私のライバルにでもなったつもり!?」と突き放されて愕然とすることも。
あんた、さっきは笑顔で受け答えしてくれたじゃんよ! 所詮、トップエリートの人付き合いは、本音と建前を使い分ける腹芸の世界でしかないようで、ものすごく心が痛いです。
また、話の進行で舞台が沖縄の宇宙女子高→戦艦ヱクセリオン→戦艦エルトリウムと二度変わるのですが、どういうわけか、舞台が変わっても内部の構造は半分以上が同じです。体育館、人工海岸、シャワールームなど、殆どの施設が使いまわしで、連結通路や廊下が違うだけ。
この世界では、全ての構造物がまったく同じ、デザイナーズマンション形式でなければならない法律でもあるのでしょうか?
もっとも、この世界では人口が激減しているようで、地球の危機を救う最新鋭艦の進宙式も、だだっぴろい体育館の端っこにぽつーんぽつーんとテーブルと料理が寂しげにおいてあるのみで、参加者もまばら。開発者の手抜きでなければ、仕方がないのかもしれません。
このようにまったり、かつこぢんまりした日常生活で交友と特訓に明け暮れる一方で、後半は襲ってくる宇宙怪獣との戦闘にも明け暮れるわけですが、これがまたエピソードによって難易度が激烈に変わります。
ひたすらボタン連打で切り抜けられるステージがあるかと思えば、途方もない数の宇宙怪獣に囲まれて、グルングルン視点が回転するカメラに目を回しながらひたすらタコ殴りされることもあったりと、ものすごく極端。
強力かつド派手な必殺技を使いこなすことが前提のバランス調整(原作での必殺技は、設定のみのボツ技まですべて使えます)で、慣れてくると尋常ではない数の宇宙怪獣を100万ヒットまで到達する無茶な必殺技で一網打尽にしたりなど、かなり爽快になりますが、必殺技を覚えるための訓練(ミニゲーム)の難易度がやけに高く、そこまでいくのに一山あるかもしれません。
本作は、グラフィックやボリュームなど、原作のあるゲームとしてはちょっと力不足。話に絡んでくるメインキャラクターも極端に少なく、良くも悪くも話はさくさく進みます。
またOVAの原作からのアニメの引用もほとんどありません。
日高のりこたち声優の熱すぎる演技や、OVAのものをトゥーンシェードで再現したOP&ED、これでもかと揺れまくるノリコたちのバストなど、見所はたしかにあるものの、手抜きに感じられるところもけっこうあるため、原作の熱血世界に浸りきれないところもあります。
決してクソゲーではありませんが、中途半端になってしまったところは残念でした。
(2011.02.11)
※1987年公開のSFアニメ映画。公開当時は4億5000万円もの赤字を出したが、細かい世界設定や映像描写は根強い人気を誇り、1997年には「サウンドリマスター版」として製作、再公開された。
元ライブドア社長の堀江貴文氏が熱心なファンであることで有名。私(=KEEF)も好きなアニメだったりします。
「お前の目は何を見ている?」「女のケツ」