1993年から続くカプコンのRPGの五作目。破滅的なストーリーにダークなキャラクターデザイン、殺意だらけのシステム、テーマソングに鬼束ちひろを起用するなど、徹底してダークに徹した異色作。
本作を一言で言えば、とにかく、色んな意味でシビア。ゲームを構成するシステム全体がプレイヤーを殺しにかかります(笑)。
ファーストプレイでのクリアは、ほぼ100%不可能。私は2011年に本作を新品で買いましたが、その価格50円。14万本という、それなりの出荷本数を思えば、いかに本作の難易度(と、その他もろもろ)が恐れられたかわかります。
はるか昔、世界に、「大いなる災い」があった。
空は焦げ、瘴気は遍く地表に満ちた。
見上げるべき空を失った人々は、足の下に生き残る術を見つけ出す。
大深度地下都市。
シェルター。
覆われた、第二の世界で、幾世代もの刻が過ぎる。
人々はもう、空を忘れたのだろうか……?
下層地区のレンジャー、リュウは、任務で訪れたバイオ公社(生物化学工場)で、奇妙な体験をする。
閉ざされた地底の世界の物語が、動き始める……。
このシリーズは代々、「ドラゴン」との何らかの繋がりを描いたストーリーを展開しているのですが、それゆえかこれまでは王道的なファンタジーで貫いてきた記憶があります。近未来的な世界観を持ってきたのは初めてじゃないかな?
今回も「ドラゴンと主人公の関係」がストーリーの主題の一つなんですが。これが本作の変なとこ、その1。
今回はストーリーの主題が二つあって、一つは、
「空気の汚染が進んだ地下世界では長く生きられないヒロイン・ニーナのために、空気の綺麗な(と思われている)地上、そして人々が失った「空を目指す」こと」
そしてもう一つが、
「偶然、ドラゴンに選ばれてしまった主人公の、命と精神を削る苦悩」。
この二つのテーマを下敷きにストーリーは進んでいくんですが、メインテーマがどちらかといえば、ニーナのほうです。ぶっちゃけ、ドラゴンはおまけ。
というのも、このストーリー、色々と説明不足で、かなり投げっぱなしの部分が多いのですが、特にドラゴンに関する部分は、そのほとんどが意味不明。
なんの背景もない(はずの)主人公が、ある仕事の途中でドラゴンの死体(たぶん)を見たあと、その後のある事件で突然ドラゴンの力に目覚めます。どうもそのドラゴン(アジーン)が「破壊者として主人公を選んだ」らしいのですが、その理由も動機も必要性も、エンディングやSOL(後述)を見てもさっぱりわかりません。
また、最初は鼻持ちならないエリートで、ストーリーが進むに連れて転落していく典型的な敵役の「ボッシュ」が、主人公と同じようにドラゴン(チェトレ)に「選ばれて」強大な存在になるのですが、この「チェトレ」が、これまた何の前置きもないままストーリー終盤にいきなり登場し、なんの説明もないまま主人公に立ちはだかります。
プレイヤー、完全置いてきぼり。
このゲーム、とにかく難易度が凶悪なため、最初から複数回のプレイが大前提のつくり。
そのためシナリオも、前のクリア(もしくはゲームオーバー)時の状態に応じて、次の周回で少しずつエピソードが解禁されていくシステムになってます(これを「SOL(シナリオ・オーバーレイ)」といいます)。
……なんですが、「SOL」で解禁されるエピソードは、正直、小ネタばっかり。「主人公が行動していた裏では、悪役や脇役がこんな動きをしていました!」というものばかりで、肝心のストーリーの根幹に関わる謎がいっさい明かされません。
主人公は最初「1/8192」という、登場人物中、最低のD値(この世界における「潜在能力」)を持っていて、これがゲームの進め方(というか、終わり方)によって上がっていきます(最強の状態は「D1/4」、つまり「ドラゴン・クォーター」)。一応、最強の「1/4」まで上げて、全ての「SOL」を解放してみましたが、肝心なところがサパーリわかりませんでした。
チェトレって何者なの? アジーンのいう「プログラム」って、結局なんだったの? というか、そもそもこの世界における「ドラゴン」ってなんなの? 公社の地下に死体があったってことは、人間の生み出した家畜(ディク)の親玉に過ぎないわけ?
なにからなにまで、謎だらけのままでした。
さて、ストーリーが謎だらけなら、システムのほうは殺意だらけです。とにかくこのゲーム、最初はなにをやっても死にます。
持てるアイテム量が極端に少なく、HPの回復手段がほとんどない、さらにセーブをすることすら条件が厳しい(セーブできる場所が少ない上に、「セーブトークン」という消耗品アイテムがないとセーブすらできない。さらに、セーブデータがメモリーカード一枚につき一つしか作れず、そのセーブデータを他のメモリーカードにコピーすることもできない)という超鬼仕様。
PETSなどの戦略的なシステムを細部まで知り尽くしていないと戦闘の難易度が劇的に上がります。そりゃもう、あっという間に死亡。
一応、救済措置のようなものもあるにはあります。
ストーリー中盤、ドラゴンに選ばれた主人公には「D-ダイブ」という、簡単に言えばスーパーサイヤ人化みたいな超絶強化の特殊能力が与えられます。これを発動すると、攻撃力が超絶的にアップするほか、AP(移動にも攻撃にも必要なポイント)の縛りが驚くほど軽くなり、戦闘においてはほぼ無敵状態になります。
一部のボス戦は、主人公がD-ダイブを使用することが前提でバランスを組み立ててあるらしく、HPや防御力が異様に高かったり、主人公以外の攻撃を弾き返したりと、素の状態ではかなり凶悪なバランスです。
ところが。
この最強無敵、「そこに痺れる、あこがれる」なドラゴンモードが、実は本作最大の罠。
主人公がこの能力を手に入れるのと同時に、画面上にあるメーターが出現します。0からスタートし、行動に応じて徐々に増えていくこのメーター、実は主人公の肉体がドラゴンに浸食されていく度合いを示したもの。
このメーターが100になると、主人公がドラゴンに完全に乗っ取られたことになり、それがいつ、どんな状況であろうが、問答無用でゲームオーバー。
ところがこのメーター、主人公がどんな行動をとっても増加します。前述の「D-ダイブ」で大幅に上昇するのはもちろん、普通にフィールドを歩くだけでも徐々に増えていきます。さらに、このメーターには下げる手段が存在しないため、むやみやたらに無駄な行動をしていると、それがゲームオーバーに直結するという恐ろしさ。
本作の難易度の高さは、ほとんどがこのメーターの仕様によるものです。エンディングどころか、ラスボスに到達する前にメーターが100になってしまい、涙を飲んだプレイヤーがいかに多いことか。
前述のセーブの厳しい仕様もあり、メーターが高い状態でセーブしてしまうと、「再開と同時にメーターが振り切れてゲームオーバー」など、完全に詰んでしまうことも少なくありません。
システムを知り尽くし、無駄な行動を徹底的に控え、それでいて難易度の高い戦闘に勝利しないといけない、極めて計画的な行動が要求される、精神修行ゲームです。
(ただ、ゲームオーバーになったときは、例えクリアしてなくても、武器やスキルを引き継いでプレイできるので、二周目以降は難易度はわずかに下がります)。
グラフィックはかなり独特なセンスで、ストーリーは中途半端でダーク。一応、エンディングで救われてはいますが、そこまで到達できないと、ちょっと胃もたれするかも。しかも、エンディングの主人公(+アジーン)の独白もほとんど意味不明です。
(ただし、本作は「エンディングテーマの持つ説得力」が半端ではありません。よくある「とってつけたような名曲」ではなく、鬼束ちひろの暗くて力ある声量で歌われるテーマ「Castle・Imitation」は、ある意味、本作の全てをあらわす「記号の一つ」にまで昇華されています)
ヤリコミ要素が前述の「SOL」と、意味がよくわからない「アリの巣」くらいしかなく、シナリオも極端に短いので、ゲームの難易度そのものを楽しめないと、かなり辛いことになります。
(2011.09.30)