To Heart

1999年3月25日発売/アクアプラス/90点

 元はLeafがPCで展開していた、ビジュアルノベルシリーズの第三作。
 どちらかというとホラー、サスペンスの色が濃かったそれまでの「雫」「痕」とは違い、明るい雰囲気で通したシリーズ最大のヒット作。恐らく、恋愛アドベンチャーという枠内で考えても、最大級のヒットを飛ばした作品じゃないでしょうか。

 プレイヤーは主人公:藤田浩之となって、学校生活・私生活を通してヒロイン達との関係を深めていきます。
 登場ヒロインは、幼馴染の子犬系・神岸あかり、明るい悪友・長岡志保、人間以外が恋愛対象となる魁となったメイドロボ・マルチ、関西出身の固い委員長・保科智子、大会社の社長令嬢で無口な魔術師・来栖川芹香、芹香の妹で気さくな格闘家・来栖川綾香、綾香を尊敬する小柄な格闘家志望・松原葵、内気な超能力者・姫川琴音、健気なバイト少女・雛山理緒(隠しキャラ)。
 この他にも、佐藤雅史、坂下好恵、セリオ、セバスチャンなど。

 とにかく登場人物が、ヒロイン・脇役の区別なく人間味に溢れて魅力的なのが最大の特徴。またシナリオも(キャラによって出来不出来の差が極端に激しいものの)、メイドロボや超能力者など、ありえないシチュエーションを上手く主人公の高校生活に乗せています。
 大抵は泣ける仕様になっており、特にマルチシナリオは、大人気を博しました。殆どの女の子がなんらかの「弱み」「悩み」を持っており、それがヒロイン達の人間性を深める一因になっています。
 また、このゲームを語る上で外せないのが主人公:藤田浩之の「カッコよさ」(これはアニメの影響もあるでしょうが)。ヒロイン達の「弱み」「悩み」を、あくまでヒロイン達と同じ視線に立ち、それを解決していく。その「必死さ」が、女性だけでなく男性にも受ける「主人公像」として、プレイヤーたちに受け入れられたのではないかと思います(マルチシナリオ中の「ミートせんべい?」は屈指の名セリフ(笑))。

 このPS版、家庭用ということで、PC版にあった18禁要素が取り除かれてしまったのは残念ですが、個人的にはPC版では脇役扱いで攻略できなかった来栖川綾香が攻略可能になったことで、私の中ではPC版より評価は上。
 賛否両論だったCGも、PC版から大幅に書き換えられており、充分に見れるものになっています。
 また、PC版には無かったミニゲームが加えられており(これだけでもけっこう遊べた)、ここらへんも好評価に繋がっております。

 さて、Leafのビジュアルノベルシリーズといえば、竹林明秀氏(青紫、青村早紀、BLUE-PURPLE)を抜きには語れません。
 Leaf入社前に手がけた「痕」のおまけシナリオが、吉沢景介氏作の短編小説「できすぎ」(講談社刊「ショートショートの広場 1」収録)からの盗作であったにも関わらず、Leaf及び本人が謝罪するまで4年半かかり、さらにその謝罪の仕方がぞんざいであったと、一部のプレイヤーの間で大論争が繰り広げられた事件の発端となった人。
(※関連ネタですが、そもそも「雫」も大槻ケンヂ氏の著作「新興宗教オモイデ教」が下敷きになっているとも)

 なんというか、独りよがりな理解に苦しむ超絶なシナリオを書くのが得意なことで「超先生」という異名を持つ人です。
 上の事件の後、正式にLeafに入社、「To Heart」の琴音、志保、レミィ、理緒シナリオ、「誰彼」「アビスボート」のメインシナリオを担当しました。言われてみれば、「To Heart」の担当各キャラのシナリオは他のキャラとは毛色が違ってましたね(レミィのシナリオは酷かった……)。
 メインシナリオを手がけた「誰彼」が発売初日に100円で売られていたことから、「100円ライター」という呼び名もあります。「誰彼」は内容もたそがれてたけど、売り上げ自体もたそがれで、会社もたそがれた
(ちなみに、「誰彼」は前任者・原田宇陀児氏がLeafを退社してから、竹林氏がシナリオを丸投げされた、というのが事実らしい)
(原田宇陀児氏退職に関して、後に2.14事件8.15事件という大騒動に発展した)

 この方の書いたシナリオが挿入されたお陰で、少なくとも私の「To Heart」の評価は5点ぶん差し引いてます。
 この方の創作にかける意気込みは嫌いじゃなかったですが、作風は私には合いませんでした。ごめんなさい。
(ちなみに、竹林氏がシナリオ内で展開する魔空空間を、本人の言から「リアル・リアリティ(RR)」と総称します。この言葉もちょっとヘンだけど。代表的な「RR」は通称「感感俺俺」)

 なおこの竹林氏、2003年11月23日、32歳の若さで交通事故で他界されています。本稿を書くに当たり、改めてご冥福をお祈りいたします。

(2006.05.24)

解説 2.14事件

 Leafの社内専用の、極めてプライベートな掲示板の内容が、2001年2月14日にネット上にばら撒かれた事件。
 元はとある企画のため「善意で提供」されたものだったが、余りにも衝撃的な内容だったため、あっという間に大騒動に発展した。
 この掲示板のログはそのファイル名から「552文書」と呼ばれる。この騒動の日、2ちゃんねるから分離していた「Leaf・Key板」が、この騒動一つのために吹っ飛んだ。
 ……ちなみに、私も今回改めて読みました。こりゃ、確かに物凄い内容です……(まあ、一方的な見地でしかないわけだが、内容自体が凄く面白い)。

解説 8.15事件

 2001年8月15日、Leafの掲示板に、巧妙に通常のカキコを装った荒らしカキコがなされた。
 その数時間後、その荒らしカキコが削除されたのと同時に荒らし発言を書き込んだ者の実メールアドレスが(恐らく故意に)晒され、更に9時間後、Leafの掲示板そのものが閉鎖された事件。
 その最初のカキコの内容は以下。

中直人に似ているとよく言われる村崎の舎弟です、こんばんは。
 原めぐみとか好きだったりします(←だからどうした)。
 日はちょっと忙しいので長めに書き込ませてもらいます。以下駄文。
 才って言葉、あるじゃないですか。ちょっと頭のいい人のことを指して
 ってるのかなあと思ってたんですが、辞書で調べたらそんな考えなんか
 っぱねるような答えが書いていました。正しい知識を持たずに
 きとうなことを言ってちゃいかん、と勉強になりました。
 り多くのことを知らなければいけませんね、若いうちは。
 かし若いと言ってられるのも今だけか(苦笑)。↓ネタバレ。
 !蝉丸って「若い」の定義にあてはまるのかな?70歳以上だろうけど。」

 最初の文字を縦読みすると「竹林明秀いって(逝って)よし!」となる。
(このカキコの裏には、「痕」盗作事件の時、講談社との間で「青紫」(=竹林氏)は二度と使わない、という約束があったにも関わらず、その後も別名を使ってLeafが竹林氏を使い続けていたため、怒ったファンがキレてやった、という噂がある。あくまで「噂」だが、「誰彼」のデキの酷さが、それらの発現の要因になったのは間違いない)
 制裁の意図が露骨過ぎるメールアドレスの晒し方や、掲示板の閉鎖という処置の仕方に、当時のLeafのテンパリ具合が垣間見える事件だった。
(もう一つちなみに、「Leaf・Key板」が2ちゃんねるから分離する原因になったのが、前述の「痕」おまけシナリオの盗作疑惑から始まる大騒動である)