京都舞妓物語

2001年6月27日発売/ヴィジット/74点

 最近の雑誌の新作スケジュールとか見ていますと、なんらかの続編ソフトが非常に充実したラインナップ。
 そりゃまぁ確かに安定してはいるでしょうが、業界が一時期のチャレンジャー精神を一部を除いて失いつつあるのかなーと、少し残念な気がするのも確か。
 もっとも、下手にアイデア精神に富んだ人が、ゲーム業界の聖杯戦争を勝ち残ろうと「空から落ちてきた究極の純愛シミュレーション」という澄んだ名前の英霊を召喚してみれば、実はその真名は「植木鉢生首女育成ゲーム」だった、なんてこともたまに起こりえますので、油断も隙もありません。

 インパクト抜群で新しいものを想像するのが難しいのならば、いっそのこと温故知新、古いものに目を向けて、自らの日本人としての出発点を再発見してみようか!と意気込んだかどうかは知りませんが、とにかくもヴィジットが目をつけたのが舞妓さんの世界たぁ恐れ入った。

 京都という都市は、いにしえを忘却しつつある現代の日本人にとっては、もっとも身近な歴史的アウターゾーン。
 そういえば、スポーツ選手からポケモンマスターまで、あらゆる世界を経験できるゲームの世界でも、純日本的な職業という選択は、今までなかったかも。この意気で探せば、イタコから力士まで、まだまだシミュレーションの裾野は広がりそうですが、とりあえずは舞妓さんです。

 これまで、「続・初恋物語」の田鶴さん(岩館麻希)など、ゲームの脇役として舞妓さんが登場したことは何度もありましたが、舞妓さんの世界をそのまま再現したのは初めてじゃないでしょうか。
 プレイヤーは、花いらず(見習いを終えたばかりの新米舞妓)の喜代になって、厳しい舞妓の世界での一年間を、修行や行事に精を出しながら生き抜いていきます。

 いやね、プレイした後だから言いますけど、確かに舞妓さんの世界は厳しいだろうとは思っていましたが、それにしても予想を超える厳しさでした。

 今から7年くらい前だったか、「ショーグン・トータルウォー」というトンデモ系大力作シミュレーションを作ったスティーブ・ドーターマンが、

「ゲイシャは最強の暗殺ユニットです。三味線一つで城に忍び込み、大名や大将などを暗殺します」

 とかシレッと語ってましたが(実際にこのゲームの「ゲイシャ」は、扇子で相手を斬殺、三味線で撲殺、ロープで首吊り、爆発物で爆殺とやりたい放題で、忍者以上に最凶の暗殺者ぶりを発揮する)、ゲイシャと舞妓の差はあれど、このゲームの中で生活してると、そのくらいの戦闘力は身につきそうです。
 大和魂を忘れて現代の飽食社会のぬるま湯に漬かりきってしまった私は、血反吐はいてぶっ倒れる思いです。

 ゲームの目的は非常にシンプル。一ヶ月に一度巡ってくる行事に参加するために、喜代の格付け(舞妓レベル)を、行事参加に必要なところまで、お稽古とお座敷で上げていく。たったこれだけ。
 それも、レベルアップのためのお稽古(ミニゲーム)は「鼓」「太鼓」「三味線」「をどり」の四種類しかなく、基本的には全部「音ゲー」なので、(操作は凄まじく忙しいものの)慣れてしまうとあとはもう作業。

 一ヶ月が20日で区切られたスケジュールには、「お座敷」「お稽古」「お休み」があるのですが、スケジュールは全ておかあさん(茶屋の女将さん)が決めてくれるので、喜代さんには選択の余地はありません。
 行事参加のためのレベルの設定がかなり厳しく、とにかく前倒し前倒しでレベルを上げていかないと、行事に参加できない(=ゲームオーバー)ので、時間があればひたすら「お稽古」にせいを出すことになります。
 時々は「お休み」の日にぐっすり休みたいものなのですが、舞妓の世界には真のお休みは許されないようです。お休みの日には、お座敷遊びである「こんぴらふねふね」「大なり小なり」に挑戦し、お花代(所持金)を稼がなくてはなりません。最初の行事である「初えびす」は、格付けさえ条件に達していれば参加できるのですが、次の行事「都をどり」には格付けに加え、所定のアイテムを入手する必要があるのです。

 さぁ、ゲームらしくなってまいりました!

 お花代を稼ぐためには、お座敷で殿方を接待する必要があります。そう、「育成」「音ゲー」に加えて、「恋愛」の要素まで加わってくるのです。本当に舞妓の世界は、生半可な性根ではやっていけません。
 接待する人々は、さすがに舞妓を呼べる立場の方たちだけあって、皆さん、とても紳士です。さすがに酸いも甘いも知り尽くした壮齢の男性は違うなぁ、と同性ながらに思ってしまいますが、皆さん、紳士過ぎて感情が良くわからないのが、唯一の難点です。
 接待をお気に召して下さった方の中には、後日、店外デートに誘ってくださる方もいらっしゃいますが、一方で一度来ただけで笑顔で帰ったのに、何が気に入らなかったのか、二度といらっしゃらない、キン消しで言うところの「キン肉マン・ビッグボディ」なみのレアキャラなお客様もいらっしゃいます。

 でもいいのです。舞妓はあくまでも添え役。喜代は、皆さんの人生の脇に咲く一輪の花でしかないのです。皆さん、ビッグにならはりましても、喜代はいつもここで(以下略)。

 思わず、どこぞの人生劇場を気取りたくなってきますが、実は喜代さんは、まだ16歳でしかありません。
 お座敷の日も、お稽古の日も、お休みの日も、一人前の舞妓たらんと努力を重ねる喜代さんを見ていると、高校で馬鹿やってた自分の16歳を振り返ってみて、恥ずかしさが思わず頭をもたげてしまいます。

 ゲームとしては、前述したとおり、かなり単調なうえにクリア条件が厳しいというデフレスパイラル。ミニゲームは四種類ありますがどれもシンプルだし、お座敷での接待も、コマンドが少ない上に、お相手の感情がわかりにくいため、無闇に難易度が高いです。
 また、格付け(レベル)自体が全部で19もあり、最後のクリア条件であるレベル17「名舞妓 梅」に到達するまで、ひたすら単調なミニゲームを繰り返さなくてはいけないのは、人によっては苦痛ですらあるかもしれません。

 ですが、ゲームをプレイしながら入ってくる京都の情緒や舞妓さんの世界の知識などは、どれも新鮮で、純粋な「センス・オブ・ワンダー」をもたらしてくれます。
 例えば、お客様が誘ってくれる店外デートは「ごはん食べ」というそうですし、「先輩の舞妓さんの名前は、【〜姉さん】ではなく、【〜さん姉さん】と呼ぶのが正しい」のだそうです。
 また、「舞妓の【妓】は、【おんなへんに十一人】と書くが、これには【十人前に留まらないように】という奮励の意味がある」という知識を聞かされると、思わず好奇のはいった興味の目で見てしまいがちな舞妓の世界が、真に実力ありきな世界だと思い知らされてしまいます。

 現在は、児童福祉法や労働基準法などの法律との兼ね合いも合って、中学を卒業しないと舞妓の世界には入れませんが、昔は早くは9歳以下の子供の頃から入る人も珍しくなかったとか。
 いわゆる「萌えブーム」の煽りを受けてか、舞妓さんの志望者は近年、増える一方だそうですが、厳しい修行に耐え切れず、大半がその道を途上で諦めてしまうそうです。やはり、このゲームが特別なのではなく、現実でも、生半可な性根で生き残れる世界ではないのです。

 情緒に溢れた京都の風情やイベントをムービーで満喫しつつ、華やかで厳しい芸の世界で生き残っていくために己を磨いてゆく。現代の日本人の中で消え行きつつあるものが、京都という都市には変わることなく息づいているのです。
 ゲームでも、そうでなくても、自分の知らない知識に触れる欲求と、それが齎してくれる知的快感は、いつも新鮮です。それが足元に転がっているのなら、触れてみないと損というものです。このゲームに価値を与えるとすれば、そこのところがもっとも大きいでしょうか。

 できれば、もうちょっと簡単に“体験”できるようにしてくれれば良かったのにな、とか思ってしまう私は、例え女性に生まれても、決して舞妓の世界では生き残っていけないでしょうけれども。

(2007.05.15)