封神領域エルツヴァーユ

1999年1月14日発売/ユークス/90点

 これも実売本数が少なく、有名ではないかもしれませんが、様々な意味でもっと知名度があってもいい、本当に惜しいゲームです。

 後に「エキサイティング・プロレス」などでその名を知られるメーカー・ユークスが、まだ無名だった時代に、少しでも自社の名前を認知してもらうために、オリジナルのシリーズを立ち上げることになり、当時のユークスの技術の結晶として作られた格闘アクションが、本作「封神領域エルツヴァーユ」。
 とにかくも、過剰なくらいにこだわった演出、シンプルながら奥の深いシステム、どこかで見たことがあるような気がする膨大な裏設定、味のありすぎるBGM、やたら豪華な声優陣と、アイデアと金を使いまくって組み上げられた、とんでもないボリュームの真剣なバカゲー。

 はっきり言って、私にとっての、フェイバリットゲームの一つですね。
 最初はセツナのパンツが見たくて買ったんだけども。

 ただ、それだけ力を入れたにもかかわらず、やはり無名メーカーの弱さか、攻略雑誌「電撃プレイステーション」の猛プッシュがあったにも関わらず、前述の通り売り上げは4万本に止まり、シリーズ化の話も流れてしまいました。

 この世界とは異なる次元に存在する異世界「イ・プラセェル」は、絶対的な存在である「イハドゥルカ」の脅威に晒されていた。多大な犠牲を払いイハドゥルカを「封神領域エルツヴァーユ」に封印することには成功したが、封印は一時的なもので、イ・プラセェルに存在する各国は、根本的な解決にはなっていないとわかっていた。
 そこで、イハドゥルカを真に打倒すべく、それに対抗できる存在を探し、各国が大規模な「召喚計画」を発動する。こうして運命に導かれた戦士たちが、正義のため、金のため、そしてイハドゥルカへの愛のため、それぞれの想いを胸に、戦いに赴く。

 ゲームの製作者にとって、最もセンスを必要とするところは、「切り捨てる勇気」。
 思いついたアイデアをとことん盛り込みたい心をグッと抑えて、アイデアを取捨選択する勇気が、名作を作り上げます。むしろ、なんでもかんでも突っ込んで名作になるほうが稀です。
 本作は、その辺の勇気に、これでもかと溢れまくっています。本作には、格闘ゲームにありがちな、ややこしいシステムも、難しいコマンドも一切ありません。やりすぎとも思えるくらいにシステムをシンプルに纏め上げ、その代わりにそっちに使うはずだったエネルギーを全部、演出方面に向けちゃいました。

 本作には、特定の主人公というものがいません。その代わり、登場人物が全員主人公です。
 どういうことかというと、それぞれ異なる世界から召喚された登場人物は、全員が異なる新番組の主人公という展開の仕方。「超鋼戦機キカイオー」がやってるアレです。
 ストーリーモードで語られる「番組」は、

「完全懲悪ダンザイバー」(ダンザイバー)
「ガーディーエンジェル セツナ」(斎月セツナ)
「天法院掃魔奇譚 外伝」(天法院慧矢)
「Kltzy Rouge」(ガリィ・グレッグマン)
「ロストレガシィ」(アルティ・アル・ラーゼル)
「絶対熱血 みどりがイチバンっ!」(姫野翠)
「MoeMoeエリル」(エリル・プローズ)
「Day Breaker」(ラインドウェル・レインリクス)
「夢幻歳華」(幽祢)
「封神領域エルツヴァーユ -I wanna kiss in the dark-」(イハドゥルカ)

 の10本。
 それぞれのキャラクターを選択するたびに、「新番組!」という番宣デモが流れます。CPUキャラクターの一戦ごとにサブタイトルがついており(一番組は全10話構成 = CPUが10人)、一人倒すごとに「アイキャッチ」や「次回予告」が流れて次の対戦へ行く、という寸法。
 このあたりに徹底した作りこみがされていて、めちゃくちゃ熱いです。「MoeMoeエリル」とか見てたら、途中でこっちが首を吊りたくなってきますが、それもよく練りこんである証拠。
 正直、キャラクター自体はどっかで見たことがある連中ばかりで、よく言えばオマージュ、悪く言えばパクリ。変態的に作りこんである独自の裏設定を見なければ、一見で冷めてしまうかも。また、当時としては頑張っているものの、流石に今見ればポリゴンもやや不自由なので、その辺はプレイしてみないと本作のよさは見えてきません。

 さて、過剰なまでに演出にこだわっているとはいえ、決してゲームとしての本質を捨て去っているわけではありません。上記の通り、極めてシンプルな操作性(なにせ一番難しいコマンドが「←←+攻撃」です)ですが、それもエンターテインメント性を重視した結果。
 小難しく牽制しあうような玄人向けではなく、簡単操作で連続技・必殺技がゴリゴリ入る爽快感を優先し、みんなでワイワイ対戦を楽しめるように設定されています。それでいて特別に強烈な攻撃はほとんど無く、地味にバランスがとられているあたりが憎い。
 また、超必殺技フィニッシュには専用の演出がありますが、派手な必殺技の演出も試合中は二度目以降の演出をキャンセルして試合のスピーディー化をはかったりするなど、地味な部分でのユーザーフレンドリーさがたまりません。

 本作は、極めに極めて必殺技一つに命を賭けるような漢ゲーではありませんが、ライトにサクッと気持ちよく楽しめる良作です。特に、各キャラクターのオマージュの元となったジャンルについて知識があれば、大笑いしながらプレイできます。
 余りにも登場するのが早すぎた本作。時代が段々こういうのに寛容になってる現在、そろそろ再評価されてもいいと思うんだけどなあ。

(2008.08.20)