アコンカグア

2000年6月1日発売/ソニー・コンピュータ・エンタテインメント/70点

 南米の小国メルーザ。現在、軍事独裁政権によって支配されているメルーザは、高まる一方の民主化運動など、政治的にも混乱の度を増していた。
 独立記念日を翌日に控え、前大統領の娘にして民主化運動の指導者パチャママは空路、亡命先のメキシコから首都へと向かう。彼女の到着と共に、民主化運動のエネルギーは最高潮に達するだろう。
 しかし、パチャママの乗ったメルーザ203便は、謎の爆発を起こし、南米最高峰・アコンカグア山の中腹に墜落してしまう。
 パチャママら生存者五人は、政府軍の追跡をかわしながら、アコンカグアから必死の下山を試みる……。

 かなり深刻なストーリーが展開する、山岳アドベンチャー。
 システム的にはかなり辛いところがありますが、難易度は低く、雰囲気も上々。
 実は私はこのゲームが大好きで、今でも攻略本無しでクリアできたります。しかし、周囲にこのゲームの存在を知っている人がいないので、誰とも話が合わないのが残念ですが(笑)。

 標高約7000メートル、アジア以外の大陸では最高峰という実在の死火山アコンカグアが舞台で(ただし、メルーザは架空の国。実際のアコンカグアはアルゼンチンにある)、いくつか実践的なクライミングの用語も出てきますが、どちらかといえば、登山ゲームというよりは、限られた装備と雪山の環境を利用して敵を倒しつつ下山する、脱出ゲームですね。
 プレイヤーは事故の生存者である、以下の五人を操作します。

■パチャママ
メルーザの元大統領の娘で、民主化運動の指導者。物静かな性格だが責任感が強く度胸もあり、時に驚くような行動力を見せる。
身体的な特殊技能はないが、五人の中で唯一、メルーザの公用語であるスペイン語を話すことができるため、交渉役や通訳としても活躍する。
■カトウ
パチャママとメルーザの民主化運動を密着取材している日本のジャーナリストで、脱出グループのリーダー格。
登山を趣味としているため、雪山でのアクシデントに強く、驚愕はしても動転はしない男の中の男。
クライミング技術に秀で、他のメンバーが移動できないところを移動できる。
■スティーブ
少々メタボ気味なアメリカ人エンジニアで、ことあるごとに悲観的に現状を嘆く小市民代表。
ただし、エンジニアとしての腕は非常に高く、デジタルキーの開錠からトロッコの修理、通信設備の扱いまで、機械らしいものならなんでも扱ってしまう。
■ジュリア
カトウと同じくパチャママを密着取材している、アメリカ人のクールな女性ジャーナリスト。
「護身用」という以上にナイフを扱いなれているようで、完全武装の兵隊をナイフ一本で次々と倒してみせたり、メルーザの軍事施設にメルーザ人以上に詳しいなど、その素性には謎が多い。
■ロペス
最後に仲間になるアメリカ人の巨漢の貿易商。商談のためにメルーザを訪れ、事故に巻き込まれた。
陽気な性格と、飛行機の主翼を一人で持ち上げるほどの桁違いのパワーを誇り、先々でパーティーを助ける。
しかし、一人で行動させていると、ぽろっと意味深な発言をすることがある。

 この五人の技能を、状況に応じて使い分け、数々の危機を突破していきます。
 例えば、カトウでしか昇れない断崖上からロープを降ろし、ジュリアにチェンジ、ジュリアをそこに昇らせてから、彼女のナイフでしか倒せない敵兵を上からバッサリやったり、
 ジュリアが敵兵をひきつけて拉致し、スティーブが通信機器を扱って、パチャママがスペイン語で外部と交信する、など、けっこう細かくメンバーをチェンジすることが要求されます。
 でも、どちらかといえばストーリー重視の構成で、謎解きはそんなに難しくありません。何度かタイムアタックもありますが、基本的な「覚えゲー」で、コツをつかんでしまえばクリアは簡単です。
 ピンチが襲ってくるたびにそれを撃退する一行ですが、行く先々でなぜか政府軍に先回りされます。明らかに情報が漏れているか、監視されているのですが、その「裏切り者」が誰なのかをめぐってスティーブとジュリアがたびたび対立するなど、ミスリーディングの要素もしっかり入っており、ストーリー的にはなかなか読ませてくれます。
(ただし、ストーリー後半はアコンカグアはほとんど関係なくなってしまいますが)

 グラフィックも、さすがにいまのPS3やらXbox360やらと比べることはできませんが、時代を考えればまずまず合格点。とにかくよく動きますし、何よりムービーではフルボイスなので、雰囲気はよく出てると思います。
(本作のボイスはすべて英語かスペイン語。パチャママもちゃんとスペイン語と英語を使い分けますが、日本人のはずのカトウが、日本人の同僚相手に「ナカヤァマ! ナカヤァマ!」と、超ネイティブなイングリッシュを喋るのに、最初は戸惑います(笑))

 唯一、とても残念な点は、とにかく操作性が最悪なところ。
 上の通り、五人のキャラを細かく使い分けることが求められる本作ですが、選択したキャラクターは直接動かせません。
 まずカーソルを動かして、画面内の気になるところをクリック、するとキャラがそこまで自動で移動、というクリッカブルスタイルをとっています。いわゆるクロックタワー的なアレです。
 そのため、キャラを長距離移動させるときは、画面が切り替わるたびにいちいちカーソル移動→クリック、カーソル移動→クリック、を繰り返さなければならないため、かなり面倒。
 また、キャラの移動距離はかなりアバウトのようで、画面内の小さなところを調べなければならないときなど、なかなかその場所の前で立ち止まってくれず、近くまで来ているのに行ったり来たりを繰り返さないといけません。私はこれに慣れるまで、えらい時間がかかりました。
 さらに、細かいキャラの入れ替えを要求されるのに、他の全員を操作キャラのところまで呼び寄せる手段がありません。そのため、キャラ切り替え→長距離移動→キャラ切り替え→長距離移動、と、移動するだけなのにけっこう手間がかかることもあります。キャラを自由に動かすことができれば、こんなに苦労することもないのですが……。
 個人的には本作に90点くらいつけたいのですが、この操作の不便さで20点引いてます。

 ツッコミどころもあるものの、ストーリー、雰囲気、緊張感は上質です。
 さすがに前時代的なグラフィックと、異常にもっさりした操作性に慣れることさえできれば、今でも充分に楽しめますよ。

(2011.06.16)