チュンソフトお得意の実写サウンドノベル。PS3版だけでなく、Wii版、PSP版も発売されています。
これも評判が高かったチュンソフトの代表作「街」の、正統的な続編ではないものの、時代的なつながりを示すシーンがいくつかあります。
「街」と「428」が違う点は、「街」が主人公ごとにストーリーが別物であったのに対し、「428」は主人公は5人いるものの、基本的にストーリーはひとつで、全員が違う面からそのストーリーに関わっている点。
プロデューサーの中村光一氏が「ドラマ【24】のようなものを作りたかった」と言っている通り、【24】の思想がかなり色濃く反映された作り方になっています。
評判が高い割にはサウンドノベルの敷居の高さか、売り上げはなかなか厳しいようですね。
まず想ったこと。難易度たけぇー! カルトクイズ、こんなの解けるかー! スペシャルエピソードの出現条件が難しすぎ!
とにかく歯ごたえありすぎるほど抜群です。ちょっとやそっとの覚悟じゃ「解けません」じゃなくて、「やってられません」。
そのぶん、手ごたえも抜群ですが(ただし、かなり特殊な「手ごたえ」です。後述)
手馴れているだけあってストーリーは非常に重厚。
5人の主人公を操って時間とストーリーを進めるザッピング方式で、一人の主人公の一時間ごとの行動が選択が他の主人公の一時間を変えてしまったり、同じシーンを異なる視点で見ることによって、ひとつの事件をより奥深く見せることに成功してます。
また、各主人公がへんに背伸びをしておらず、できる限り等身大に書き分けられているのも見事。
1時間ごとに細かく区切られた複数のストーリーが、ひとつの根源へと収束していくストーリー展開も秀逸で、このあたりは「街」で培われたノウハウを更に発展させています。
(ストーリーにはお約束の部分も多いのですが、テキストの「言葉回し」が非常にうまいんですよ。
また、「街」の小ネタが散りばめられたりしてて、クスリとできる場面もあります)
「街」をやったことがあると、加納が全体の主人公かな、とも思えるんだけど、ゲームのテーマに沿っているのはむしろ亜智のほうなのかな。
私はわりと感情的にゲームをしてしまうほうなので、このゲームでも何度か涙ぐんだりしましたが、亜智が父親を説得するシーンなんかは男泣きですよ。
「牛丼ぐれえおごってやる」にもしびれた。いい奴だなあ、亜智……。
途中で亜智のTシャツの柄が変わったのに疑問を感じてたら、あんな伏線が……。
人として徐々に変わっていく加納、熱い心を持つ御法川など、全ての人間がどこかで変わっていく様は、(人によって軽重に差はあれ)涙と感動なくしては見守れません。
記憶を戻したマリアが、助けてくれたカナンを見もせずに逃げてしまったのも最初は分からなかったけど、後から「ああ、なるほど」と納得。
一番可愛いのはタマだけどね。
ストーリーは、アドベンチャーに慣れた人間にとっては、ボリューム不足を感じてしまうかもしれませんが、バッドエンドは19時台を含めて全85個と、数はあります。
19時より前はバッドエンドのヒントがどこかに隠されているものの、19時以降はバッドエンドへのヒントもなく、それまでの自分のストーリーの理解と推理が一気に試される最後の審判です(たぶん、最初は大方の人の推理は外れると思うけど)。
(ちなみに、本作のトリビア。
ゲーム中盤から登場する謎の少女「カナン」を演じているティギー・ウィリアムス。
かなりの迫力があり、ゲーム中での「幼い顔つき」という表現に「どこが!?」と思った人も多いでしょうが、実はこのティギー、本作の製作当時は12歳でした。
「映画「レオン」直後のナタリー・ポートマンをイメージしていたけど、日本でのキャスティングは難しく、無理ならシナリオすら変えようかと覚悟していたんです」
(総監督イシイジロウ氏。ファミ通のインタビューより)
12歳であの迫力&長身! 世の中には凄い子供がいるもんです……)
惜しむらくは、ストーリーではなく「ゲーム」を楽しむうえで面倒なことがある点。
基本的にやっていることは、バッドエンドを迎えて、ヒントを見て、またやりなおす。延々とこのループなんですが、そのループ前提の割にはシステムがいただけません。
複数の主人公を変えながら話を進める必要があるので、どうしても途中で話がぶつ切りになってしまう箇所があるのはしようがありません。
本作では、一人の主人公で話を進め、それ以上は主人公を変更しないと話が進まなくなるポイントでは「Keep out」と出て侵入不能になるんですが、この「Keep out」ポイントがあまりに多い!
シナリオに緊張感を持たせるための処置だとは思うのですが、この「Keep out」はいちいち解除しながらでないと先に進めないため、主人公によっては解除の仕方が分からず、他の主人公の膨大な量の過去ログを延々と、何度も何度も読み続けなけれならない羽目になってしまい、テンポの悪さに繋がってしまってます。14時の御法川のヤツは、ありゃないわ(笑)。
また、ストーリーを楽しもうと違う選択肢を選んでみると、以前の「Keep out」が復活してしまう謎仕様のため、普通のアドベンチャーでやってしまいがちな「バッドエンドを回収しながらプレイ」に走ると、時間がやたらかかる、以前の展開を忘れる、など散々な目にあってしまいます。
本作の「難易度」はかなり特殊なもので、クリアするだけなら(最後の最後にかなりいやらしい場面があるが)大抵の場所はヒントもTipsも懇切丁寧なので、決して難しくはないのですが、前述のいやらしい「Keep out」のために、バッドエンドの回収(シナリオコンプリート)が異様に難しい&面倒で、「どのキャラのどの選択が、どういうバッドエンドに繋がっているのか」と、同じシナリオを何度も検証しながら楽しめる人でないと、かなりキツイ「作業」(しかも、トロフィーを獲得するためだけの単純作業)となってしまいます。
またそのバッドエンドも、ネタばらしができない10時から12時という微妙な時間帯に多すぎて、うんざりする内容のものもあります。
タイムチャートはこのゲームの特徴がモロに出てて楽しいのは楽しいですが、いったん入ってしまうとメインメニューに戻れないため、いちいちタイトルまで戻らなければいけない、というのは、余りにも不便でした。
そして一番肝心なストーリー。
主人公は好きなキャラが多いものの、脇役にアクが強い、言いかえれば少々痛い人がいるのは残念。
また、悪人がいよいよ出てきて、盛り上がって盛り上がって……オチがあれかー!!!
しかもあれ、スパイがある人物をうまく買収していれば、渋谷を壊滅寸前まで追いつめなくてもよかった(つまり、シナリオのほとんどが必要なかった)はず。もっと立ち回りようがあったんじゃないかと思うんですが……。
「あえて穴(矛盾点)を作っている」ということらしいのですが……、またデカイ穴だよな……。
阿智とひとみの関係が結局よく分からないままだったのも残念。全部のエンディングをコンピすれば分かるのだろうか。
各地で散々に言われている、TYPE-MOONがてがけたカナン編のボーナスシナリオは、いわゆる「型月」信者の私は、言われているほど気になりませんでしたが、やっぱ「428」の中では浮いてたね。
奈須きのこのアクの強さは、彼の箱庭世界の中でこそ輝くもので、他の人が作った設定の中ではちょっと鈍ってしまうのだ、と発見してしまいました。
あのルビも、独特の装飾がされた文体も、「月姫」や「Fate」で読むから面白いんであって、F1のレースに牛車で出ても、まともな比較の対象にはならないんだよね。
正直、あれ入れるんだったら、まだエンディング後の後日談を入れたほうが良かったと思う。
エコ吉編を解いたら、多少エンディングが変わりますけど。
恐らく続編を意図した終わり方だと思うのですが、残念ながら売り上げがかなり悲惨だったらしく、続編が出るかどうかは微妙。
世間で評価されているほどの「神ゲー」だとは私は思いませんが、ただでさえ壊滅状態の「サウンドノベル」というジャンルの中では、確実に最高峰のデキで、「面白い」とはっきりいえる貴重なタイトルであることには間違いありません。
活字に対して耐性があり、ある程度の我慢強さがある。そんな人にこそお勧めしたい一本です。