お遍路さん 〜発心の道場(阿波国)編〜

2003年4月24日発売/ピンチェンジ/38点

「健康」というのは、ある意味、人間にとっては永遠の宝です。
 2005年4月8日にメタボリックシンドローム診断基準検討委員会が「メタボリック・シンドローム(代謝症候群)」の危険性を指摘する遥か前から、ダイエットというのは女性の間で「なんでそこまで?」と思えるくらい、危機感に満ちた流行がありました。
 もちろん、太っていても健康上のメリットは何一つないわけで、健康的な体格を維持するのに適度なダイエットは男性も欠かせませんが、度を過ぎた食事療法や、知識を持たないままのサプリメントの過服用などは、かえって身体を壊してしまう可能性が大。
 ま、そういう危険性が認知されいるからこそ、ちょうどこれを書いている今現在、話題になってしまっている「あるある大辞典」のように、マスコミがいい加減に作り上げた嘘八百のダイエットに騙される人が後を絶たないのでしょう。
 思い出してみれば、過去にマスコミが流行させたダイエットや健康法といえば、けっこうオカルトじみたものが多く、「なんでこんなのに騙されるの?」と、さしてダイエットに関心がない人間からみると、よくわからないところです。

 で、結局、健康な身体を維持するにはどうすればいいかというと、適度な食事と適度な運動が一番。当然、ゲーム業界がその流行に目を付けないはずがなく、コントローラーを握る手だけでなく、全身を使って汗をかくゲームがファミコン時代から多くリリースされていますが、本作はその中でも、究極的に求心力がないと思われる一本です。

 まず、本作のターゲット。なんと、テレビゲームに最も縁遠いと思われる60歳以上の高齢者の方々だそうで、企画を立てたときにそっちが先にあったのか、ゲーム内容が先にあったのかはわかりませんが、フットパネル式のコントローラーの上で足踏みをし、四国霊場八十八箇所(いわゆる「お遍路さん」)のうち、霊山寺から薬王寺まで、徳島県内の二十三箇所、約160kmを歩いて巡ります。
 60歳以上対象としては完璧なのかもしれませんが、これだけゲーマー中心世代への訴求力が弱い(ぶっちゃけ地味な)ゲームも珍しい。

 とはいえ、アパート住まいのゲーマーが、マットの上でドタバタとダンスアクションをプレイして、近所迷惑になるのも考え物ですし、この「歩き」に特化したプレイスタイルはなかなか斬新な切り口かもしれません。惜しむらくは、内容自体が地味すぎましたね。
 本作は、ソフトとフットパネル+歩数計(印籠型、というのがまた渋い!)と、運動系ソフトとしては実に理に適った組み合わせのセット商品なんですが、その目的が最新の流行曲でも懐かしのメロディでもなく、お遍路さん。この激烈な渋さに、ターゲットを惹きつける魅力を演出するのにどれほどの努力を要したことか、スタッフの汗と涙が思い浮かぶようです。
 もちろん、ただお寺に向けて歩くだけでは単調きわまりますから、本作ではその道中、観光情報や寺社の歴史などを、元TBSのアナウンサーである遠藤泰子氏が語り聞かせてくれますし、お寺に到着すれば、札を納め、蝋燭と線香を立て、お経を読みます。正しく本物の「お遍路さん」めぐりをその手と足で体験できるのですが、

 そこまでしても、やはり壮絶かつ究極に単調な流れは変えることが出来ず。

 そもそも、そうまでして「お遍路さん」体験ゲームというものを、したいものでしょうか?
 お遍路さんについて詳しく知ろうと思えば、いくらでもガイドブックや映像媒体がありますし、公式サイトもちゃんと存在します。散歩や軽い運動をするにしても、本作のターゲットである高齢者の方々は、無理にテレビゲームをしなくても、老人会や町内会などのお付き合いのほうが、断然楽しんでできるでしょうし。
 残念ながら、「ゲーム」と「お遍路さん」を結び付けるにしては、本作はちょっと弱いかな、と思いました。
 確かに、お遍路さんを歩きながらターゲットを惨殺する暴力アクションにしても売れないとは思いますが、運動ゲームにしても、もくもくと歩くだけ。「お遍路さん」紹介ソフトにしても、少々高額。これなら、わざわざ一万円を出して本作を買うよりかは、五千円でガイドDVDを買ったほうが、よほど満足度は高いと思います。

 江戸時代、四国八十八箇所巡りを模して、全国に似たような霊場や巡礼地が作られました。それらは「写し」または「移し」と呼ばれ、当時の四国巡礼の隆盛の良い証拠とされています。数多い巡礼地の中で、「遍路」と呼ばれているのは四国の八十八箇所だけで、その存在がいかに大きいかが解ります。
 現代ではすっかり「お遍路さん」も観光化してしまっていますが、本来は熱心な信仰のための順路であり、来世での幸福を願うための旅路です。お遍路さんが着ている白い着物は、旅路のどこで倒れてもいいという覚悟のための「死装束」なのです。
「死んでしまったから、コンティニューコンティニュー」「難しすぎるから難易度を下げ下げ」のような軟弱極まりないことを平然と言っている私のようなダメゲーマーが、テレビ画面とフットパネルを手に本作をプレイしただけでわかったような口を聞くのは、やはり罰当たりというものです。

 体感アクションがしたい人と、遍路について学びたい人。残念ながら本作は、その間を取り持つ「橋渡し」の役を担うことは出来ませんでした。着眼点そのものは非常に良いと思われるだけに、ちょっと残念。
 ちなみに、本作は「阿波国編」と銘打ってありますが、売れなかったのか、 現在、続編は発売されていないようです。巡礼はあと六十箇所以上、行程にして1000km以上残っているんですが……。

(2007.02.08)