カニバリズム

 私にとってカニバリズムとは暴力とは対極的なもののはずだったのだ。ただし夢の中で、幻の中で。

(中略)

 強い匂いも味もなく、簡単に口の中にとけていきました。匂いのない、マグロのとろのようなものです。

『おいしい、やっぱりおいしい……』

 こうしてその肉の何片かを口に運んだのです。

『やっぱりうまいぞ! やっぱりうまいぞ!』

 それから、白い肌と青い眼の顔を覗き込んでそう叫んでやりました。

 遂に白人の美しい女を食ったのです。そして、思い通りうまかったのです。この上ないうまい肉だったのです……。

(佐川一政『霧の中』より)